バルサを攻略した驚きの「堅守遅攻」 ベティスの信念が“クライフ哲学”を凌駕した日

戦術よりも信念の勝負へ 「意志の強さを持ちストレスに耐えられれば…」

「バルサはボールを持たなければ苦しみ、奪い返すのに苦労する」(キケ・セティエン監督)

 バルサのプレースタイルは、ボール保持を前提としている。ポゼッション自体が目的というわけではないが、ボールがあってナンボのサッカーなのだ。自分たちがボールを保持することで攻守の循環を作り上げている。ベティスは自分たちもボールを保持することで、バルサの前提を崩しにかかった。

「我々のスタイルで70%程度ボールを保持できれば、80%の試合には勝てる」

 これはヨハン・クライフ監督の時代から受け継がれている、バルサの基本的な考え方だ。逆に言えば、バルサにボールを保持させなければ、バルサは彼らのサッカーをすることができない。ボール保持を前提とした特化型のスタイルなので、前提を切り崩してしまうのが一番効く。

 ゴールキックからのスタートが対照的だった。ベティスはショートパスをつないで組み立てようとしていた。時にはペナルティーエリアの中で短いパスをつないでいた。当然、バルサはハイプレスを仕掛ける。それでベティスはボールを奪われたり、ビルドアップに失敗する場面が序盤に何回もあった。しかし、ベティスはそれをやめなかった。

 一方、バルサはGKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンからのロングボールを多用している。普段ならショートパスで組み立てていくのだが、ベティスがマンツーマンによる同数守備を敢行していたので、トップへのロングボールを選択していた。同数守備ならFWへ蹴って、そこで競り勝ってしまえば一発でチャンスになる。あえて近くへつなぐ必要はないわけで、バルサのロングボールはセオリーどおりだ。ただ、ロングボール連発ではバルサのリズムは出ない。

 もう、これは戦術というより信念の勝負だった。

「意志の強さを持ち、ストレスに耐えられれば、ボールを保持して良いプレーを見せることは可能なのだ」(キケ・セティエン監督)

西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング