知られざるMLSの世界 シアトル・サウンダーズFCが掲げる“ファンと共に”というブランド

サウンダーズならではの体験を

 続けてウィリー氏は、こう語った。
「ファンには特別な体験をしてほしいと考えています。勝敗といった結果や、試合の90分だけでなく、サウンダーズでしか味わうことのできない経験価値を、ファンにもたらしたいのです」
 この経験価値を生み出すために、クラブはさまざまな施策を実施している。その中から特徴的なものを2つ、紹介したい。
 まず一つ。クラブが創設 当時から気を使っていたことがある。それは、『雰囲気づくり』だ。ファン、チーム、クラブといった、サウンダーズを取り巻く全ての人の力を合わせて、「共に戦おう」という雰囲気をつくり出すことにこだわっていたという。その思いは、クラブの掲げる『GIVE US YOUR FULL 90』というスローガンに集約されている。これは、ファンがチームに対して「90分、ハードに戦ってほしい」と欲するのであれば、ファンにも「90分、チームのために力を尽くす」ことを求めたものだ。
 そしてクラブも、ファンが応援するモチベーションを高められるよう、MLS参入初年度の09シーズン、全てのホームゲームのチケットに、スカーフ(タオルマフラー)をセットで付けるという施策を講じた。クラブのもくろみは見事に当たり、ホームスタジアムのセンチュリーリンク・フィールドを埋め尽くしたファンは、チームのためにスカーフを掲げ、360度、緑と青で彩り続けたのだ。
 今や『SCARVES UP!』は、サウンダーズの応援の代名詞となっている。こうして醸し出される「共に戦う」雰囲気が、初めて訪れた人をも虜にするほどの魅力となっている。
 余談だが、『SCARVES UP!』キャンペーンの一環として、クラブが中心街の街路樹に大量のスカーフをつるしていたが、ファンが次々に木によじ登り、スカーフを持って行ってしまったという。ウィリー氏はこのことについて、「とてもいいことだ(笑)」とおどけてみせた。この出来事が話題性を生み、シアトルの人々にサウンダーズの存在を認知してもらうという意味で、大きな成果があったからだ。もちろんこれも狙いだったというのだから抜け目がない。
 もう一つは、ホームゲームのキックオフ1時間前に始まる。スタジアムから10分ほど離れたオクシデンタル・パークには、緑と青をまとった大勢のファンが集結する。その中心では、53名からなるブラスバンドがにぎやかな音楽を奏でているのだ。ここでスタメンが発表さ れ、ファンとブラスバンドの行進が始まる。軽快な音楽を鳴り響かせるブラスバンドと、両手でスカーフを掲げながらファンが、共にスタジアムまで練り歩く。その極上の雰囲気によって、気分は瞬く間に高揚していく。
 クラブの狙いとして、ファンに試合だけでなく、その前から楽しんでもらうことにあるのはもちろんだ。だがそれだけではない。スタジアムの外から楽しい雰囲気をつくり上げることで、ファン以外の人々にも訴求しているのだ。
 2つの施策に共通しているのは、ファンに高揚感を与え、楽しんでもらうことだ。サウンダーズを通して味わうことのできる特別な経験価値を、次々に提供することで、ファンの心を惹きつけている。さらに、クラブが次に何をするのかというワクワク 感が、ファンのハートをよりつかんで離さない。こうした好循環が、サウンダーズのブランドをより高めているといえよう。

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