兄はJ下部組織、比較されて「楽しくなかった」 頭に思い描く光景「チャンスはないけど」

東久留米総合高の小川颯太【写真:安藤隆人】
東久留米総合高の小川颯太【写真:安藤隆人】

都立東久留米総合3年FW小川颯太「都立から全国を目指すという道も魅力的だった」

「私立が強い東京の中で都立勢として戦うことも1つのプライドです」

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 この言葉には、都立東久留米総合高の10番、FW小川颯太が歩んできた3年間の思いが詰まっていた。第105回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック準々決勝。実践学園との一戦は、東久留米総合にとって我慢の連続だった。

 組織力と走力に勝る相手に押し込まれ、守備の時間が長くなる試合展開だったが、そんな苦しい状況でチームを救ったのが小川だった。

 前半アディショナルタイム、ゴール前で浮き球を収めると、シュートを打つと見せかけて鋭く切り返した。ブロックに来た相手の足が引っかかり、PKを獲得。これを自ら決めて先制点をもたらした。

「最初はシュートを打とうと思ったのですが、相手がブロックに来ていたので切り返しに変えました」

 後半開始早々に追いつかれ、延長戦を含めてさらに押し込まれる時間が続いた。それでも守備陣が体を張って耐え抜き、1-1のままPK戦へ。小川はここでもキッカーを務め、きっちりと成功させると、チームもPK戦を5-3で制し、7年ぶりとなる準決勝行きの切符をつかんだ。

 小川は1年時から出場機会を掴み、昨年から背番号10を背負ってきた。もともとはボランチを主戦場とし、ボールを受けて周囲に散らすプレーを得意としていたが、今年の夏前に加藤悠監督からFWへのコンバートを打診された。

 最前線でボールを収め、周囲を生かす。慣れないポジションで試行錯誤を続けながら、今大会ではMF舘美駿(清水エスパルス内定)を擁する修徳との初戦でもPKによる決勝点を挙げ、1-0の勝利に導いている。

 強豪私立を次々と撃破し、東京の高校サッカーの聖地・西が丘にだどり着いた都立の星。だが、小川にはもう1つ、特別な思いがあった。双子の兄・小川稜太の存在だ。

 兄は強豪・堀越高でプレーしている。2人は小学生時代までは同じチームでサッカーに打ち込んできたが、中学進学を機に別々の道を選んだ。兄はFC東京U-15深川に進み、小川は地元の東京久留米FCに進んだ。

 そして高校進学時、早々にオファーを受けて堀越進学を決めていた兄に対し、小川自身にも遅れて堀越から誘いが来た。同時に中学時代のチームメイトが多く進み、練習環境も変わらない都立東久留米総合からも誘いがあった。

「正直、かなり悩みました。でも、堀越は強豪なので、試合に関わる機会が少なくなるのかなと思ったし、気心知れた久留米FCのみんなと一緒に東久留米総合に行って、都立から全国を目指すという道も魅力的だったんです」

 多くの高校がひしめき合う東京都において、都立校が全国に辿り着く難しさは十分に理解していた。それでも、自分が信じた仲間たちと、自分が選んだ道で挑戦したかった。

「僕らは都立の代表のような気持ちを持って戦おうと思っています」

 覚悟を持って過ごした高校3年間。チームのエースに成長し、選手権出場を果たした2019年度以来のベスト4進出に導いた。この成長譚の中で、兄に対する思いも大きく変化をしていた。

「正直に言うと、小学生の時は一緒にプレーしても楽しくなかったんです」

 意外な告白だった。双子ゆえに周囲から比較されることもあった。実力的にも兄との差を感じることは少なくなかった。「言われることの方が多かった」と、幼心の中に窮屈さを感じていたという。

 しかし、別々の中学、高校でサッカーに打ち込むようになってから、その思いは変わった。昨年、小川が選手権予選で敗れた時、兄は「その分、俺が絶対に全国に行くから」と励ましてくれ、実際に東京A決勝でゴールを決めて選手権出場を果たした。サッカーで悩んだ時も、いつも話を聞いてくれた。そして、実践学園との大一番を迎えた朝。先に家を出た兄からLINEが届いた。

「頑張れよ」

 たった一言だったが、そこには同じ夢を追いかけてきた兄弟の絆があった。

「僕は稜太に対して憧れではないんですが、尊敬をしていて、かつ負けられないライバル。別々のチームで過ごしてみて、『やっぱり一緒にやりたいな』という気持ちが今は強いですし、一緒にプレーしたら本当に楽しいんだろうなと思うんです」

 今大会、東久留米総合は東京Bブロック、堀越は東京Aブロックに分かれた。

「全国に出ない限り、対戦するチャンスはないけど、2人で西が丘のピッチに立つチャンスがあるんで、そこを目指していました」

 先に西が丘行きを決めた翌日、兄も自らのゴール(2ゴール)で成立学園を2-0で振り切って準決勝進出を手にした。それぞれ次の西が丘でも勝利し、東京A・B決勝が同日(11月15日)に行われる駒沢陸上競技場のピッチで、ともに全国の扉をこじ開けられるように。

「準決勝ではチームが勝つために前線でしっかりボールを収めること、FWとしてゴールを決めることをやっていきたい。目の前の一戦を全力で戦います」

 自ら下した決断の重み、兄弟の絆、6年間ともにした仲間との絆、そして都立校としてのプライド。これまでの思いのすべてを抱いて、まずは聖地でカナリア軍団・帝京との決戦に挑む。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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