王者撃破の2発「日頃の行いかな」 昨季はJ2→新天地で爆発へ…2159日ぶりの白星呼んだゲン担ぎ

柏の山内日向汰【写真:徳原隆元】
柏の山内日向汰【写真:徳原隆元】

山内日向汰が毎日行うルーティン

 昨シーズンの優勝を最終節まで争った鹿島アントラーズと柏レイソルの今シーズン初対決は、敵地メルカリスタジアムに乗り込んだ後者に3-2で軍配が上がった。ヒーローは逆転、ダメ押しとプロで初めて1試合複数ゴールを決めたシャドーの山内日向汰。今年1月に川崎フロンターレから完全移籍で加入した25歳のアタッカーは、ほかの選手たちとは明らかに一線を画した、ユニークかつ独自のゲン担ぎを日々実践していた。(取材・文=藤江直人)

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 スパイクを必ず決まった側の足から履く。ストッキングに関しても然り。あるいはスタジアム入りする際には決まった音楽を聴くなど、ゲン担ぎとしてキックオフ前に同じルーティンを繰り返すJリーガーは多い。

 柏レイソルに所属するプロ3年目の25歳、山内日向汰も試合日を含めて毎日のように同じルーティンを課している1人。もっとも山内の場合はゲン担ぎというよりは、一種の自己暗示といっていいかもしれない。

 敵地メルカリスタジアムで対峙した鹿島アントラーズから、自身の2得点を含めて3ゴールを奪取。柏を3試合ぶりの勝利に導いた24日のJ1リーグ第12節後に、シャドーで先発した山内はこんな言葉を残している。

「毎日のように『今日はいい日になる』と自分に言い聞かせながら生きています」

 山内が1ゴール目は決めたのは1-1で迎えた前半アディショナルタイム1分だった。左サイドのポケットを突き、MF遠藤渓太からパスを引き出した山内は、間合いを詰めてきた鹿島のDF植田直通の眼前でワンフェイクを入れて間合いを外す。間髪入れずに右足を振り抜き、ファーサイドのゴールネットを射抜いた。

 日本代表に名を連ねる鹿島の守護神・早川友基が一歩も動けなかった美しく、それでいて豪快な一撃。逆転ゴールを生み出したワンフェイクに、山内は「自分が課題として取り組んできたものです」と声を弾ませた。

「そこが少しずつ数字につながってきていて、非常にいい感触でプレーできていると思います」

 エンドが変わって迎えた後半14分。2024シーズンにプロとしての第一歩を踏み出した川崎フロンターレ時代を含めて、山内にとっては初体験となる1試合での複数ゴールが決まってリードを2点に広げた。

 鹿島のFWチャヴリッチが前線へ出した縦パスを、山内が果敢なスライディングでカット。こぼれ球を柏のボランチ中川敦瑛がワンタッチで中央へ折り返す。反応したのはすぐに立ち上がった山内だった。

 中川のパスを頭で受けた山内は、そのまま前方へ加速しながら右足のアウトサイドをワンタッチ。マークについた植田の前方に入り込んだ次の瞬間に、体勢を大きく崩しながらも利き足とは逆の左足を振り抜いた。

 強烈なシュートは早川の真正面に飛んだ。しかし、降りしきる雨でボールの表面が濡れていた影響もあったからか、早川がキャッチできず、その後方へと飛んでいったボールは鹿島のゴール内で弾んだ。

 試合後に登場したヒーローインタビュー。2ゴール目を問われた山内がはにかみながら明かした。

「コースが甘かったんですけど、日頃の行い(の良さ)なのかなと思います」

 その場では「行い」の内容に言及しなかった山内へ、試合後の取材エリアですかさず質問が飛んだ。自己暗示的な言葉の成せる技なのか。こう問われた山内は「はい、良くなります」と笑顔で即答して周囲を笑わせた。

 小学生年代のU-12からU-18まで所属し、桐蔭横浜大学を経て加入した愛着深い川崎で、昨シーズン途中までわずか1ゴールと結果を残せなかった。夏場以降はJ2のベガルタ仙台へ期限付き移籍している。

 伸び悩んでいると痛感した山内は川崎への復帰ではなく、昨シーズン後にオファーを受けていた柏への完全移籍を決めた。背番号は川崎での「26」でも、仙台での「32」とも異なる「87」を選んでいる。

 山内は大学時代に背負った「8」に加えて「7」が好きな番号だった。それらを並べた「87」は、語呂合わせで名前の「ひな」にも通じると屈託なく笑う。どのように考えても「はな」だが、移籍に合わせてチームカラーに近い金髪に変えるなど、憎めないキャラクラーの持ち主でもある山内にかかれば不思議と説得力を帯びてくる。

 熱い言葉で移籍を後押ししてくれたロドリゲス監督からは「毎試合、数字を残せ」と檄を飛ばされてきた。百年構想リーグで1ゴールに終わっていた山内にとって、プレッシャーにはならなかったのだろうか。

 答えはノー。結果を残さなければ生き残っていけない。弱肉強食とも形容されるプロの世界の掟を、川崎時代から味わってきた山内は動じなかった。ロドリゲス監督の要求を当然とばかりにこう受け止めている。

「シャドーを務められる選手は大勢いるし、そのなかで自分が出ている意味を証明し続けるためには(数字は)必要なものだと思っているので。本当に熱い監督だし、それほど重荷には感じていませんでした」

 そして自己暗示通りに「いい日」になった試合後のロッカールーム。昨シーズンの覇権を最終節まで争った王者・鹿島を破り、敵地に限れば2020年11月25日以来、実に2159日ぶりとなる白星をもぎ取るヒーローになった山内を待っていたのは、ロドリゲス監督の「ナイス!」という大声と熱いハグだった。

 嬉しさを募らせる一方で、山内はちょっぴり不満ものぞかせた。今夏にFC東京から加入した遠藤のチャントが敵地に響いたなかで、半年早く柏の一員になっていた自身のチャントがまだ生まれていないからだ。

 そろそろほしいのでは。こう問われた「本当にそうですよ」と再び周囲を笑わせている。

「寂しいです。僕も一生懸命戦っているので、カッコいいチャントをぜひお願いします」

 鹿島を撃破した柏は前節より順位を1つ上げて4位に浮上し、首位のFC町田ゼルビアに勝ち点2ポイント差に肉迫した。首位への再浮上をうかがう柏の攻撃陣で、愛嬌たっぷりの存在感でチームメイトの誰からも可愛がられ、ユニークなゲン担ぎを介してプラス思考を脈打たせる山内の存在感がますます大きくなっていく。

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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