「村井って誰だ?」 目撃したはがきの山「素人同然だった」…異例のチェアマンがJリーグにもたらした革命

前Jリーグチェアマンの村井満氏【写真:増田美咲】
前Jリーグチェアマンの村井満氏【写真:増田美咲】

村井満氏は2014年1月にJリーグチェアマンに就任した

 前Jリーグチェアマンで、現在日本バドミントン協会の会長を務める村井満氏は、来年4月に中央大学に新設される「スポーツ情報学部」の客員教授に就任する。2014年1月にチェアマンに就任した村井氏は、4期8年を務め、Jリーグにデジタル革新をもたらした。開設準備室室長の中央大・渡辺岳夫教授との対談で、データサイエンスと実践知の重要性を熱弁した。(全4回の2回目/FOOTBALL ZONE編集部)

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 村井氏は新設されるスポーツ情報学部で「スポーツ統括団体(リーグ・協会)経営論」を担当する。それまでリクルートで人材育成、支援の仕事をしてきた村井氏が、Jリーグの世界に飛び込んだのは、2014年1月31日。Jクラブの運営経験がない人物がチェアマンに就任するのは、異例のことだった。

村井「クラブの人も、メディアの人もそうですよね。『村井って誰だ?聞いたことないぞ』って。クラブに行って受付で村井と申しますと言うと、『どちらの村井さんでしょうか?』と言われるようなスタートでした。そうであるならば……と、当時の51クラブ、すべてを半年かけて回りました」

 週の前半にひとつのクラブに行き、後半にもうひとつクラブを回った。クラブハウス、スタジアム、フロントオフィス。それだけではない。クラブのある自治体の商工会議所や知事室、市庁舎、さらにはサポーターが集まる居酒屋にも足を運んだ。そこである“共通項”が見えた。

村井「どこのクラブも職員の机の上がはがきの山でした。それを手で集計していて『これは個人情報を守れないのではないか』と。また、Jリーグのサイトから自クラブのサイトの順位表に勝ち点などを転記していて、『これはミスが起こらないか』と。サッカーはプロフェッショナルだけど、裏側はチケットや顧客のデータ管理など素人同然だった」

 そこでデジタル化を進めるために、各クラブに管を通すJリーグデジタルプラットフォームを構築した。公式映像や写真はもちろん、チケットセールスや物販も、このプラットフォーム上で管理できるようになった。Jクラブに“デジタル革命”をもたらした。

村井「職員たちと議論していて学んだのは、メジャーリーグベースボール(MLB)がデジタルプラットフォームを持っているということです。これだ!と思ってクラブの社長が集まる会議で提案したら、みんながやってくれと。これも僕が頭で考えたんじゃなくて、足でクラブを回って、見てそのニーズに気がついた。そして従業員の中にあるヒントが結びついた。Jリーグのデジタル化の大きな一歩、プラットフォームは現場からだったんですね」

Jリーグが持つ巨大なビッグデータ

 そのうちの一つが、2017年から導入したJリーグIDだ。Jリーグの様々なサービスを利用できる共通の会員サービスで、公式チケット販売サイト、オンラインショップ、アプリなどが同じIDで利用できる。これにより、各クラブがファン獲得へ、マーケティングが可能になった。

渡辺「JリーグIDにあらゆるデータを紐付けて、巨大なマーケティングデータベースを作るという発想は、現場を歩いて、色々観察したところから生まれてきたんですか?」

村井「そうですね。2014年に足を使って回りましたけど、当時はクラブにも、Jリーグにもハイパーなデジタルエンジニアがいなかったんです。私は人材ビジネス出身でもあったので、2015年4月1日にデジタルエンジニアの笹田(賢吾氏)を採用しました。彼(笹田)がJリーグプラットフォームやID構想を出してくれました。航空会社では、使用頻度に合わせたマイレージサービスがあるじゃないですか。推しのクラブに合わせたパーソナライズなサービスやプレゼントがあるような、クラブとつなぐデジタルプラットフォームを作ろうと。今では500万人規模にまで成長しました。だんだんクラブにも活用技術を身につけたスタッフたちが増えてきたので、このタイミングは顧客が減るとか、このカードだったらダイナミックプライシングで、値段を変えても大丈夫だと、様々になりましたね」

 2025年シーズンのJリーグ公式試合における年間総入場者数は、過去最多の1350万人超を記録した。この数字を達成することができたのは、JリーグIDに紐づけているビッグデータの存在がある。

渡辺「JリーグIDにあらゆる情報が紐づいているわけで、そのビッグデータを解析すると、色んなことが見えてきますよね。例えば無料チケットで、初回スタジアムに来場した人のうち実は16%ぐらいしか2回目に来場してくれていない。ただ、2回目来場してくれたら、3回目来場してくれる人の割合は格段に増えて40数%に上がる。ということは、2回目来場をいかに促すか。これによってリピーターが生まれる確率が格段に上がる。初めてスタジアムに来てくれた方を、なんとか2回目に足を運ばせる、これが取り組むべき課題だと分かりますよね。ただ、やっぱり具体的な策を考える時には、スタジアムを観察したり、サポーターの声を聞いたりすることが大事になる。実践知の大切さをを伝えることが重要だと思っています」

 日本のスポーツ界ではデジタルマーケティングが進んでいるJリーグだが、まだまだ“ビッグデータ”を生かしきれていない現状がある。データと実践知を結びつけることで、Jリーグ、スポーツ界は発展できる。

渡辺「Jクラブに伺っても、解析したいビッグデータがあるんだけど、手が回っていないという現状は聞くんですよ。この学部は、学生時代からデータサイエンスとビジネスの理論を学び、インターンなど何らかの形で実際の経験を積みつつ、将来Jリーグの現場において豊富な施策を考案したり、新しい提案ができる人材を輩出していきたい。Jリーグに限らず、色んなリーグに輩出していくことができたらなと考えています」

村井「おっしゃる通りですね。僕はPDMCAだと言っていました。プラン(P)、ドゥ(D)、チェック(C)、アクション(A)の中に、ミス(M)を入れる。サッカーはプロが90分やっても、0対0で終わることが多々ある。これは、どれだけミスをしているかということですよね。このミスの部分は、実践知。プランやチェックはサイエンスの領域なのでいわゆる客観ですが、ミスは意思を持ってやってみて失敗するという主観になる。データばかりのサイエンスでいけば、物事が伝わりやすいので破壊力はあるけれど、そればかりやっていても、エンターテインメントとしては誰もついてこない。一方、主観で感動する、泣く、笑う、ワクワクするという世界も、ぐっと押し付けるだけでは、やっぱり再現しない。だから実践という部分と、データサイエンスが交錯する所が、スポーツの発展にとても重要な要素だと思っています」

 泥臭い現場の観察から生まれたJリーグのデジタル革新。その知見を次世代の若手に伝えていく。

(第3回に続く)

(FOOTBALL ZONE編集部)



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