若手から強烈指摘「村井さん、分かってないですね」 常識覆した“提案”…Jリーグ×DAZN巨額契約の舞台裏

10年越しの構想で誕生する「スポーツ『で』学ぶ」新学部
2027年4月、中央大学に「スポーツ情報学部」が誕生する。データサイエンスを学び、アナリストやスポーツビジネスで活躍する人材を育てることを目的としている。同学部の客員教授に就任するのは、前Jリーグチェアマンで、現在は日本バドミントン協会の会長を務める村井満氏。「FOOTBALL ZONE」では、村井氏と開設準備室室長の渡辺岳夫教授の特別対談を実施。Jリーグチェアマン時代に手がけた「DAZN」の巨額契約の真実など、データサイエンスの重要性を語ってもらった。(全4回の1回目/FOOTBALL ZONE編集部)
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10年前から始まったスポーツ情報学部の構想。新設するにあたり、渡辺教授はスポーツ界の第一線で変革を起こしてきた実務家たちの参画を熱望した。その中でオファーを出したのが、Jリーグのチェアマンを約8年間にわたって務め、現在はバドミントン協会の会長を務める村井満氏だった。
渡辺「最近はAIの進化の凄まじさがあって、これから単に上司から課題を出されて、指示された通りにやっている人材は、この世の中で生きづらくなってくる。そうなった時に何が必要なのかを考えると、自ら取り組むべき課題を見つけて、それに率先して取り組んでいく人材だと考えました。そんな人材を育てるために、データサイエンスの力とビジネスの力を組み合わせることが大事だと思ったんです。
じゃあどこが最も適切なフィールドかと考えていったらスポーツだったんですね。スポーツは課題を発見して設定する能力を育む上で最適なフィールドなんです。サッカーであれば、必ずどの世界に行っても11対11ですし、フィールドの大きさもだいたい同じです。ある意味、いろいろな要因がコントロールされた『実験室』みたいな場にあるんですね。そこで課題を見つけて取り組んで、設定した課題が正しかったかどうか判断する上で、程よい複雑性がある。サッカーであれば年間、何十試合もありますし、何回も取り組める。だからスポーツ『を』ではなく、スポーツ『で』学ぶ学部なんです。具体策を立案するには現場の実践知が必要ですから、Jリーグやスポーツビジネスのマーケットを大きくした実績のある村井さんに、1年半ほど前からアプローチして客員教授をお願いしました」
村井「Jリーグのチェアマン時代に、中央大学さんでJリーグビジネス論という講座を4年ぐらいやっていました。学生たちが本当に熱心に聞いてくれて、日常のJリーグの業務とは異空間で、自分の中ではいろんなものがリフレッシュされる機会でもありました。私自身のキャリアは、ビジネスマン時代はリクルートという会社にいて、大学生が新規学卒者として就職する時の企業とつなぐ仕事をやっていました。その後、中途採用や海外での日系企業でのリクルート、いわゆるヘッドハンティングと言われているようなことまで、国内外の学生からベテランのエグゼクティブまで、人と組織をつなぐことをやってきました。
一方で今度は、Jリーグだったり、バドミントン協会だったり、全くの門外漢がスポーツの世界に身を投じることになるんですけれども、私がスポーツを見る軸は一貫して人がどうやって最高のパフォーマンスを発揮するのか、もしくは最高の組織はどういうものなのか、という観点でした。中央大学のJリーグ講座というのは、私にとってはライフワークのど真ん中にあったわけですね。
今までビジネスマンは多くの年月をかけて、ナレッジやケーススタディ、ノウハウ、ビジネスモデルを誰かが成功したものを学んで、膨大な時間をかけてきました。でも今はAIによってギュッと誰もが手にするようになってしまった。これからはそういうデータ、知見を実践に転用していくにはどうしたらいいかが大きなテーマだと思っていたので、今回のお話は学生に向けてというのが、私も思っていた所にピッタリはまりました」
JリーグとDAZNの大型放映権契約
Jリーグチェアマン時代、まさにデータサイエンスとビジネスの融合によってスポーツ界に大きなイノベーションを起こした代表例があった。2017年から10年間、スポーツ動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」を運営する英パフォーム社と大型放映権契約を締結した。
当時、年間1000試合にも上る全試合ライブ配信をスマホで視聴する習慣は世界中どこにも存在しなかった。既存のテレビ局や放送業界からの反発も予想される中、巨額契約へと踏み出す最大の決定打となったのは、Jリーグに所属していた若手職員たちからの指摘だったという。
村井「僕がDAZNと契約をした内容は、日本では初めて1000試合に及ぶ全試合をライブ中継するというものなんですよね。これは相当なジャンプだったはずなんです。今までこの業界を守ってきたテレビ局からすれば『配信』は不気味な存在だったはずですし、サポーターも当時『家にWi-Fiなんかないよ』とか『サッカーをなんでこんな小さいスマホで見るんだ』という反発心もあった。我々経験者は『どれだけテレビ局にお世話になっているんだ』と考える。一緒に育ててきた方々をある種、袖にして、海外のこれまで実績もないところにドーンと行くんですけど、そのトリガーになったのは、Jリーグの当時の若い職員たちの声でした」
当時はツイッター(現X)が広まったことで、ゴールシーンやハイライトをSNSにあげる文化ができつつあった。スーパーゴールやいいプレーが飛び出すたびに、村井氏は「早くネットに出せよ」と思っていたという。だが当時中継をお願いしていたスカパー!に制作著作権を持っていただいており、Jリーグ側でネット配信するには許諾を得て一定の費用負担をすることが必要だった。
村井「彼らが僕に言ったのは『村井さん、自社でJリーグを中継すればいいんですよ』と。『だって僕らはテレビ局じゃないし、そんなカメラだって持ってないし、できないじゃないか』と言ったら『村井さん、分かってないんですね』って(笑)。テレビ局は局員がディレクションはするけれども、実際の制作はプロダクションに発注することが多い。『発注者が制作著作権を持つんだから、Jリーグが同じようにプロダクションに発注すれば明日から撮れるんですよ』と言われたんです」
ああ、なるほどと思いましたね。DAZNに販売した権利は著作権保有を伴う放映権を販売したのではなくて、配信権だけを販売して、制作、著作はJリーグがやったんです。そういう意味では、中継は全部テレビ局がやるものだという思い込みを打ち砕いたのが若手の社員だったんです。僕もまだJリーグに来たばかりの人間で、自分の中には既成概念があまりなかったので『じゃあそれで行こうよ』ということが言えた。僕も素人だった。若手の斬新なアイデアがあった。これが実は今のJリーグの発展の基礎になっています」
渡辺「その若手の方はどういうキャリアだったんですか?」
村井「Jリーグ映像という関連会社を中心とした社員たちですね。当時、関連会社が6つあり、タオルマフラーやユニフォームのレプリカを販売する会社や静止画を販売する会社、さらには動画を作る会社など、全部で6つに分かれていたんですね。考えてみればインターネットの時代になると、高画質の画像をキャプチャーすれば静止画にもなりますし、動画もすぐ生成できます。ネットでチケット販売もECもできるので、1個の土管の中にあらゆる情報を込めていけば、6つに会社を分けておく必要もなかったんです。若手は会社の箱の中で発想していなくて、ECも、チケットセールスも、ファンサービスも1個にまとめられると考えていたわけです。今Jリーグはどんどん顧客招待をはじめパーソナライズしたサービスが展開できていますが、従来とは違う『タコツボ化』した経営ではない方向に行ったことが、大きなイノベーションだったと思います」
渡辺「そもそも村井さんはJリーグのトップなわけで、関連会社の若い人と話す機会なんて普通はないと思うんです。現場に行って色んな意見を聞くのが大事だ、とよくおっしゃっていますが、分け隔てなく若手の所にも入っていったんですか?」
村井「私はサッカーのクラブで働いたこともない、プロで選手をやったこともない、JリーグやJFAとかで常勤で働いたこともない。ひどいことに、チェアマンに就任する前の直近3年は海外にいたのでJリーグの試合を見ていない。これがある日、突然チェアマンになるわけじゃないですか。それも相当な無茶ぶりではあるんですけど、その時、私の頭の中は空っぽでしたから。学べることはとにかく足を使って全クラブに行き、全職員とも1on1の面談をやり、とにかく何でもいいから教えてくれ、と。自分が『真空』だったことが大きかったと思いますね。そういう意味では、Jリーグの社会連携『シャレン』という地域貢献活動は、中央大学出身の中村憲剛さんとディスカッションしながら学んだことを形にしたもの。先ほどのスポーツの放映権周りも関連会社の職員でしたし、ありとあらゆることが現場から学んだことですね」
若手の発想が発火点となり、Jリーグ、ひいては日本スポーツ界を大きく動かした大型契約。さらに村井氏はチェアマンの在任中、データサイエンスの重要性を実感することになる。
(第2回に続く)
(FOOTBALL ZONE編集部)

















