J名将の“組織を動かす力”「新しい形を具現化」 ピッチ内外で衝撃…学んだ「勝てる監督のリアリズム」

FC東京での残留争い経験と長谷川健太監督との出会い
安間貴義氏(ジュビロ磐田U-21監督兼U-18監督)は昨シーズン途中、磐田トップチーム監督に就任し、指揮を執った。その時のことを本人は「どんと構えてやっていました」と語る。なぜ、どんと構えることができたのか。この言葉の背景には、FC東京時代に火中の栗を拾った経験と名将・長谷川健太との出会いがあった。(取材・文=いしかわごう/全7回の6回目)
【PR】日本人選手の活躍を毎節無料で!ABEMAでブンデスリーガ放送中!
◇ ◇ ◇
プロの世界は美しい戦術論や理想だけで回っているわけではない。育成の現場で手腕を発揮する一方で、チームが危機に瀕したとき、その窮地を立て直す役回りを安間が担うこともあった。
2017年9月、成績不振により篠田善之監督が解任されたときのこと。リーグ戦残り9試合という状況で、FC東京の暫定監督に指名されたのはコーチの安間だった。J2で前任者の後釜を任された経験はあるが、J1という舞台で指揮をとるのは初めてである。
チームは公式戦5連敗中。このまま連敗が続けば、J2降格の危機に陥る。戦力は充実しているが、2年連続で監督が途中交代という事実が物語るように組織としての歯車が噛み合っていなかった。
その集団をまとめ上げ、チームを残留へと導かなくてはいけない。受け取ったバトンは重い。引き受ける側からすれば、失敗のリスクが重くのしかかり、指導者としてのキャリアに傷を負いかねなかったが、それでも火中の栗を拾うことを安間は選んだ。 FC東京にコーチとして呼ばれたのも、S級(現・PRO)指導者ライセンスの同期である立石敬之GMとの縁だったからである。「貴義」という名前が示すように、「義を貴ぶ」のが安間の生き方なのだ。
「あの時、GMのタテ(立石敬之)が自ら監督をやるべきだという声もクラブ内にあったんです。でも、もし監督をやってチームが降格したら、強化の最高責任者であるタテがクラブを去らなければならなくなる」
チームは大量失点が続いていたが、守りを固めるのではなく、ボールを保持することで失点を減らす方針を打ち出した。自分たちのストロングポイントを大事にするためだ。その初陣となったベガルタ仙台戦は無失点で勝利。公式戦6試合ぶりの勝利を収め、連敗街道に終止符を打った。
「残り9試合全部引き分ければ残留だと思っていたら、1試合目で仙台に勝ったんです。でも、そんなに簡単じゃなかった。次の試合ではレイソルに3点差ぐらいで負けました」
その後は勝てずに停滞し、最終順位は13位。多くは語らなかったが、「あれに比べたら、去年のジュビロの時はどんと構えてやっていましたから」と本人が振り返ったように、この修羅場をくぐり抜けた経験は、安間の腹を据えさせたようだった。その後はどんな苦境に立たされても気後れすることはなくなった。
翌18年からは長谷川健太監督の下でヘッドコーチを務めている。
この日々は「勝てる監督のリアリズム」を徹底的に叩き込まれる時間となった。世代的にも、清水東三羽烏で名を馳せた長谷川は、安間にとってレジェンドだ。そして長谷川監督は率いたクラブで結果を出すことで有名である。ガンバ大阪時代には国内三冠を達成。FC東京や名古屋グランパスでもルヴァンカップを制するなど、タイトルを手繰り寄せる勝負強さを持っていた。コーチとして支えた安間は、その手腕の裏にある「したたかなマネジメント力」に舌を巻いた。
「まず、勝てる監督っていうのは組織を動かす力が圧倒的に強いです。ケンタさんは、会社に対して『こいつを獲ってくれ。ここのポジションで何点取れる選手』と要求して、本当に獲らせてしまう。前体制では獲ってもらえなかったような選手でも、ケンタさんが言うと会社が動く。遠征の前泊ホテルひとつとっても『ここのホテルに変えろ』と言って、本当にそうなっちゃう。タイトルを獲る人間っていうのは、ピッチ外の戦いも含めてこういう人なんだなと実感しました」
ピッチ内に目を向けると、その采配も安間にインパクトを与えた。それは「試合を決定づける交代カードの切り方」。それまでの安間は上手い選手を長くピッチに立たせる考えが根底にあったが、長谷川の采配はまるで違っていた。
「自分は上手い選手を出して、長い時間プレーさせた方が勝つ確率が上がるんじゃないかって考え方だった。でもケンタさんは違った。90分のゲームコントロールのなかで、勝負どころで一気にチーム全体のスピードと強度を跳ね上げるカードの切り方をする。1枚切ってダメなら、間髪入れずに2枚目を投入して試合のギアを無理やり上げる。あの勝負への嗅覚、交代策は本当に勉強になりましたね。ここ(ジュビロ磐田)で監督をした時に『ペイショット軍団』と呼んでいたんですが、マテウス・ペイショットを入れて加速するようなカードの切り方をしていました」
学ぶだけではない。安間もまた長谷川のリアリズムに自らの戦術眼をぶつけた。移動中の車内、長谷川が「もっと前からグワーッと圧力をかけたいんだよな」と呟いた瞬間、隣にいた安間は即座に「だったら、永井謙佑とディエゴ・オリヴェイラを2人同時にスタートさせればいいじゃないですか」と、切り返した。
「ケンタさんの前線からの守備って、基本的には2トップの1人がコースを限定して、もう1人が引いて構える形だったんです。だったら(永井謙佑とディエゴ・オリヴェイラの)2人同時にスタートさせればいい。それで相手の最終ラインと同数で突っ込ませる。1人が引くから剥がされるんです。2人で行けば、相手が怖がってロングボールを蹴ってくれればマイボールになる。『1人が引くから2対1で剥がされるんですよ。2人で行きましょう』って。そうやって新しい形を具現化していきましたね」
19年には永井謙佑とディエゴ・オリヴェイラの2トップが猛威を振るい、最終節まで優勝争いを演じるシーズンを送った。結果は2位だったが、クラブ最高成績だ。2020年にはルヴァンカップ準決勝で無敵を誇っていた川崎フロンターレを2-0で破り、そのままルヴァンカップ制覇を成し遂げている。
FC東京時代に火中の栗を拾う形で指揮を執った経験や、名将の背中から吸収した勝つためのリアリズムは、すべて安間の血肉となった。のちにジュビロ磐田でどっしりと構えてトップチームを率いることができたのも、このときに培った確信があったからに他ならない。(文中敬称略、第7回に続く)
(いしかわごう / Go Ishikawa)

いしかわごう
いしかわ・ごう/北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。

















