欧州挑戦→半年で出戻り「試合に出てなんぼ」 唯一無二の左足…Jで誓う再起「どんどん前に」

FC東京の稲村隼翔【写真:増田美咲】
FC東京の稲村隼翔【写真:増田美咲】

稲村隼翔がFC東京にもたらした新たな武器

 リーグ戦で6戦連続無敗を継続して5位へ浮上したFC東京で、センターバック(CB)稲村隼翔が放つ存在感が増している。敵地に乗り込んだ9月12日のガンバ大阪戦では、利き足の左足から放った正確無比な縦パスで貴重な追加点の起点になって勝利に貢献した。さまざまな種類のパスを蹴り分け、味方から「ゲームメイカーが最終ラインにいる感じがする」と厚い信頼を寄せられつつある、加入1年目の稲村の現在地に迫った。(取材・文=藤江直人)

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 リーグ戦の第2節以降で4勝2分と無敗をキープ。首位のFC町田ゼルビアと勝ち点3ポイント差の5位に浮上したFC東京のボランチ高宇洋が、チームに生まれた新たなストロングポイントに声を弾ませた。

「ゲームメイカーが最終ラインにいる感じがするというか。彼の存在は本当に大きいですよ」

 高が頼もしげな視線を送ったのはCBの稲村隼翔。今年1月にスコットランドのセルティックから期限付き移籍で加入し、開幕前の6月末には完全移籍へと移行した左利きの24歳へ、高はさらにこう続けた。

「一番後ろから見えている分、対角にも縦にもパスを入れられる。そこを稲村としゃべりながら、刺すときと外に揺さぶるとき、あるいはやり直すときの使い分けがうまくできているし、今はそのバランスが本当にいい」

 G大阪のホーム、パナソニックスタジアム吹田に乗り込んだ12日のJ1リーグ第7節。FC東京が1点をリードして迎えた後半7分に今シーズンで初めて、稲村の左足から放たれた縦パスがゴールの起点になった。

 センターサークル後方の自陣でパスを受けた稲村が、ボールタッチを繰り返しながら視線を上げる。

「試合を通して自分のパスから攻撃が始まるケースが多いなかで、どの道筋でいくか、みたいなものを考えながらプレーしている。チームが好調だからこそ、自分が思い描いたような攻撃ができていると思う」

 ピッチ全体を俯瞰して味方と敵の位置を確認しながら、パスの送り先を探していたと振り返った稲村と目が合ったのが2トップの一角で先発していた長倉幹樹。次の瞬間、背番号4は迷わずに左足を振り抜いた。

 グラウンダーの縦パスは敵陣にいたもう1人のボランチ常盤亨太、中央にシフトしていた右サイドハーフ安斎颯馬の間を瞬く間に縫って、約30メートル前方にポジションを取っていた長倉の足もとにピタリと入った。

 東洋大学の4年生だった2024シーズン。卒業後の加入が決まっていたアルビレックス新潟にJFA・Jリーグ特別指定選手として認定され、現在はFC東京を率いる松橋力蔵監督の下でチームメイトになったのが長倉だった。当時からお互いの特徴を知り尽くしている長倉との特別な関係を稲村はこう語る。

「基本的に前進するときには長倉選手は常に僕の視野に入っていますし、長倉選手も僕がボールを持ったときは必ず僕が出せる位置に立ってくれる。そういうところで信頼がありますし、あのパスもちょっと難しいボールだったと思いますけど、長倉選手だからこそ球種を選ばずにパスを出せるという信頼も僕は持っているので」

 このとき、安斎と入れ変わる形で右サイドにいた高は「本当によく見えているな、と感じました」と稲村の的確な視野に惚れ直していた。そして、美しい軌道を描いた縦パスに導かれる光景を思い浮かべていた。

「前線にも強烈な選手たちがたくさんいるので、稲村の縦パスが通った瞬間にゴールの匂いはしました」

 予感は的中する。長倉は相手の意表を突くワンタッチのフリックパスを、2トップを組むマルセロ・ヒアンへ通した。そのままペナルティーエリア内へ侵入したヒアンに、ガンバのCB中谷進之介も必死に食らいつく。

 しかし、ヒアンの決定力を警戒する分だけ、ほかの選手へのマークが甘くなる。右側をキャプテンのDF室屋成が走り込んできたなかで、ヒアンは左側へ侵入してきた長倉へのパスを選択。貴重な追加点をアシストした。

 後方から見届けた長倉とヒアンの以心伝心のコンビネーションと、さらに勝利を決定づけるゴールに「想像通りの展開でした」と声を弾ませた稲村を、さらに喜ばせたのがG大阪を無失点に封じた守備だった。

 退場者を出した町田との開幕戦では大量5失点を喫し、稲村自身も後半40分に交代を告げられた。2-2で引き分けたヴィッセル神戸との第2節ではリザーブのまま勝ち点1獲得を見届けた。一転して自身が先発したリーグ戦では、これで4試合続けてクリーンシートを達成。試合後には「すごくこだわっています」と胸を張った。

「今まで自分の攻撃の部分がフォーカスされてきたなかで、センターバックとして海外へ行って守備の部分を何度も言われましたし、そこが自分の課題だと自覚してきました。これを続けていくのはすごく大事ですけど、このチームは前線からの守備のおかげで無失点になっているので、そこに感謝しながら続けていきたい」

 東洋大学を卒業し、正式にチームの一員になった新潟を半年あまりで退団した昨夏。オファーを受けたセルティックへ4年契約で完全移籍したものの、リーグ戦出場がわずか1試合でFC東京へ期限付き移籍した。

 半年あまりで幕を閉じたセルティックでの日々で何が最大の収穫だったのか。稲村は迷わずに言う。

「一番は悔しさですね。情けない思いもしましたし、それが自分の成長につながっているのかな、と」

 完全移籍ともに背番号を「17」から「4」に変更。FC東京の最終ラインを支える今はどうなのか。

「リスタートじゃないですけど、やはり自分は試合に出てなんぼ、という考え方を持っている。なので、たくさん経験を積んで、どんどん、どんどん前に進んでいきたい。そういう思いでプレーしています」

 そして秋春制の新シーズンで出場5試合目にして、ようやく自慢の左足がゴールの起点になった。稲村は「特別指定で出ていた新潟のほうがフィーリング的にはよかった」と苦笑しながらも、こんな言葉を紡いでいる。

「まだまだ納得のいくボールを蹴れてないのが現状ですけど、僕としてはタイミングで蹴っているようなイメージです。ボールの回転の仕方やスピードも含めて、いろいろな要素が掛け合わさって1本のパスになっているので、そこはみなさんにも楽しんでもらえたらとうれしいですし、そういう思いも込めて蹴っています」

 全7試合で得点中のFC東京だが総得点は「13」と1試合平均で2点に届かず、最多で並んでいる町田とサンフレッチェ広島の「19」に少し差をつけられている。最終ラインからゲームメイクを担う、リーグ全体でも稀有な存在の稲村の左足の精度が増すほどにゴール数が増え、必然的に勝利数も増してくるはずだ。

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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