選手権準V→降格危機に「背中を押して」 母国も支える逸材…勝負の残り半年「みんなで上を目指して」

鹿島学園GKプムラピー・スリブンヤコ「落ち着きができたと思っています」
9月5日に夏の中断期間を終え再開したプレミアリーグとプリンスリーグ。1年を通じた戦いもいよいよ後期へ突入し、夏を経て成長をした選手たちが凌ぎを削っている。
ここではリーグ戦で躍動を見せる選手たちをピックアップしていきたい。今回はプリンスリーグ関東2部・第11節の鹿島学園vs桐光学園の一戦から。最下位に沈む鹿島学園に頼もしき守護神が帰ってきた。
実に全国選手権決勝の神村学園戦の準優勝以来となる鹿島学園での公式戦ピッチだった。鹿島学園のタイ人GKプムラピー・スリブンヤコは選手権後、学校としては選手登録に際して手順を踏んでおり、そこに問題はなかったが、登録の確認を終えるまでの期間、出場できない状況になってしまった。
そのため、その間は学校に通いながらもJクラブの練習に参加をしたり、年代別タイ代表の活動に参加をしたり、コツコツと貴重な経験を積んできた。そして、9月13日に待ちに待った瞬間がやってきた。
「この鹿島学園のユニフォームも、エンブレムも僕は大好きだし、もっと学校のためにプレーしたいと思っていたので、素直に嬉しいです」
素直な思いだった。この試合の直前まで彼はU-19タイ代表の守護神として、AFC U-20アジアカップ予選Fグループの全3試合に出場し、UAE、イラク、トルクメニスタンと強豪が揃ったグループを突破し、来年中国で開催されるU-20アジアカップの出場権獲得に大きく貢献した。
その喜びのなか、彼は10日に鹿島学園に戻ると、急ピッチでチームの練習でコミュニケーションを取ってから桐光学園戦に臨んだ。
落ち着いた佇まいでゴールマウスの前に立つと、193センチのサイズを生かしたクロス対応と、精度の高いロングキックを駆使して、チームに安定感をもたらした。
前半21分にはゴール前の混戦から相手MF米川洋輝がペナルティーエリア外で放ったシュートが、味方DFがブラインドとなって反応が遅れ、先制点を浴びてしまったが、そこからは「すぐに気持ちを切り替えた」と再び安定したプレーを披露し、これ以上の失点を許さなかった。チームも後半21分にエースストライカー・内海心太郎が自ら得たPKを沈め、ドロー決着となった。
「これまでJクラブの練習参加だったり、代表でアジアカップなどの舞台に立ったりしてからの合流だったので、その経験を生かすことを大事にしたので、緊張はそれほどなく冷静にできました。半年前の僕にはなかった落ち着きができたと思っています」
経験を積んだ彼の顔は幼さが残っていた選手権当時と比べ、かなり引き締まっているように見えた。ただ、戸惑いもあったという。
「(U-19)タイ代表ではタイ語メインでコミュニケーションを取っていました。成田空港に着いた時点で、タイ語は一度置いてきたつもりだったのですが、今日も試合中に指示を出そうと思ったら、日本語が出てこなくて指示できなかったシーンもありました(笑)。それは思い出しながらやっていきたいと思います」
もちろん、ピッチに立ったことの余韻に浸っている暇はない。前述した通り、鹿島学園は現在プリンス関東2部最下位。降格となると、茨城県1部リーグになってしまう。先輩たちが積み上げてきたプリンス関東での歴史をここで途絶えさせてはいけない。それはプムラピーも重大な責任と捉えている。
「鹿島学園は毎日みんなで上を目指してサッカーに頑張れる環境だと思っています。でも、今年の前期は練習ではみんな凄くみなぎってやっているのに、なぜ試合になると縮こまってしまうのかと思っていました。せっかくの本番なのに縮こまってしまっていたら、今までやってきたことの成果を出せないよと思うんです。だからこそ、僕がGKとしてみんなの背中を押したかった。
なので、もともと僕は『もっとやろうぜ』とか自分から言うタイプではないのですが、でも今は厳しい状況だし、これからも厳しい試合がどんどん待っているので、自分がもっとチームに言わないといけないと思ってこの試合に臨みました。2位の桐光学園を相手に1-1という結果は、決して悪くない結果だと思うし、ここからもっと前に進めると思うので、プリンス残留と選手権出場、その先にある優勝に向けて、僕はもっとみんなの背中を押していけるGKになっていきたいと思っています」
大好きな仲間たちと残り半年の高校サッカーに全てを懸ける。大事な場所に戻ってきたプムラピーは、強い自覚と責任感を持って、鹿島学園のゴールマウスの前に立ち続けていく。
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。






















