プロの映像で研究「できないと上にいけない」 名門校CBが決めた同点弾…培い続けた観察眼「自分の意思で」 

市立船橋高の斉藤健吾【写真:安藤隆人】
市立船橋高の斉藤健吾【写真:安藤隆人】

市立船橋3年斉藤健吾「どのポジションでもできないと上に行けない」

 9月5日に夏の中断期間を終え再開したプレミアリーグとプリンスリーグ。1年を通じた戦いもいよいよ後期へ突入し、夏を経て成長した選手たちが凌ぎを削っている。

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 ここではリーグ戦で躍動を見せる選手たちをピックアップしていきたい。今回はプリンスリーグ関東1部・第11節の市立船橋vsヴァンフォーレ甲府U-18の一戦から。0-1からの逆転勝利を飾り、首位に躍り出た市船において、貴重な同点ゴールを決めたのは3年生CB斉藤健吾だった。彼はなぜ、「そこ」にいたのか――。

 0-0で迎えた後半19分。後半に入ってかなり押し込んでいた市船だったが、カウンターから失点を喫した。これまで5失点とリーグ最少を誇っていた堅守のなかで、わずかに生まれた隙。3バックの左CBとして不動の地位を築いている斉藤にとって、非常に痛恨の一撃だった。

「ここからだ! やるぞ!」

 大きな声で仲間たちに檄を飛ばしたあと、彼は大胆な行動に出た。後半立ち上がりから積極的な攻撃参加を見せており、失点前にはFKからポスト直撃の惜しいヘディングシュートも放っていた。だが、失点後はずっと背番号20が相手陣内にいた。

 相手にクリアされてもCBのポジションに戻らない。ボランチとインサイドハーフの間や、インサイドハーフと並ぶような立ち位置を取り続ける。そこから何度も裏抜けを狙い、インサイドハーフのMF秋元大樹や孫本晟馬を最前線に押し出しながら、攻撃をサポートした。

 そして、ついに自らゴールをこじ開けた。後半28分、FW俣野寛太に縦パスが入ると、その瞬間、斉藤は相手最終ラインの背後へ一気に飛び出した。俣野からのスルーパスを受けると、そのままダイレクトでGKとの1対1を冷静に制してフィニッシュ。CBとは思えない鮮やかなラインブレイクから、試合を振り出しに戻す同点弾を叩き込んだ。

 すると、斉藤はCBのポジションに戻って堅守を支え、チームも彼がつけた勢いそのままに後半45分、FW秋山駿が執念の逆転ゴールを叩き込んで、勝ち点3を掴み取った。

 あの大胆な攻撃参加は当初、シンプルなポジションの入れ替えだと思っていた。しかし、試合後に本人の話を聞くと、「あれは自分の意思で決めました」と口にしたように、ベンチからの指示ではなかった。

「ずっと自分たちのペースで試合が進んでいたし、ボールも保持できていたので、僕が上がってインサイドハーフの位置まで行っても問題はないと思ったんです。逆に僕が高い位置にいれば、縦パスも増えて大樹や能力のあるアタッカー陣がより攻撃力を発揮できるし、僕がサイドを含めた彼らのサポートもできると思ったので上がりました」

 ハーフタイムの時点で、3バックを組む矢部翔太郎と奥田郁哉にはすでにその意思を伝えていた。

「2人には『俺、どんどん上がっていくし、そのまま攻め残ったりするから、リスク管理と枚数は頼む』と伝えました。前半の自分のプレーが悪かった分、後半は絶対にチームに貢献しないといけないと思っていた。その中で先に失点してしまったので、思い切って実行して、みんなより多く走って、自分が点を決めてやろうと思いました」

 驚かされるのは、インサイドハーフやFWでプレーした経験がほとんどないなかで、ゴールまでの動きがあまりにも理にかなっていたことだ。

 同点ゴールのシーン。俣野にボールが入る前に一度外へ開き、相手CBの視野から消えた。そこからCBとサイドバックの間が空いた瞬間を見逃さず、縦パスが入るタイミングで一気に走り出した。

「寛太にボールが入る前に相手が割れているのが見えた。あいつは上手いので、縦パスが入った瞬間に動き出せば、ターンしてボールを出してくれると思った。イメージ通りに身体が動いたし、ちょうど同じタイミングで大樹も走り出していたのですが、大樹が『打て!』と指示をしてくれたので、冷静に打つことができました」

 まるでFWのような動きとゴール前での冷静さだった。だが、それは偶然でも、その場だけのひらめきでもなかった。

 斉藤は普段からJリーグや海外サッカーの映像を頻繁に見るという。大好きな鹿島アントラーズの試合はフルタイムでチェックし、天皇杯の柏レイソルvs専修大も現地まで足を運んだ。そこで同じポジションのCBだけを見るのではなく、FWやトップ下、サイドの選手がいつ、どこを見て、どのタイミングで背後を狙うのかにも目を凝らしてきた。

「プロのFWは何度も駆け引きをして、ボールが来なくても何度も背後を狙ってスプリントしていた。僕はずっとCBをやっていますが、今のサッカーはどのポジションでもできないと上に行けない。前の選手の動きも、自分が上がった時にできないといけないと思って見ています」

 他のポジションのプレーを他人事にしない。

 映像で見た動きを自分だったらどうするかと考え、練習や試合で攻撃参加した時にそのイメージを落とし込む。その地道な積み重ねが、経験したことのないポジションに飛び込んだ瞬間、身体を自然に動かした。

 しかも、本職を疎かにしているわけではない。市船は第11節を終えて6失点。リーグ最少失点を誇る守備陣の一角をしっかりと担っている。

 だからこそ、この日のゴールには価値がある。ゴールを守ることが仕事のセンターバックが、チームを勝たせるために自らの判断で一列、さらにもう一列と前へ出た。そして同点に追いつくと、自ら3バックへ戻った。

「追いつけたので、あとは任せました。負けていたのでガンガン行けた。上がる以上、絶対に結果を残さないといけなかったので、そこはほっとしています」

 CBがアタッカーになった約10分間。その大胆な決断と同点ゴールには、斉藤健吾が積み重ねてきたものと、チームを勝たせようとする強烈な意思が凝縮されていた。

「インターハイ初戦で富山第一に負けて(0-0からのPK負け)、それを受け止めて次に生かさないと意味がないと、この夏はみんなで話し合いを増やしたし、個人的にも責任感を持ってやることを大事にしていました。そうしないと1年でのプレミア復帰(昨年度プレミアEASTから降格)はもちろん、(インターハイ予選準決勝で勝っている)流通経済大柏にも選手権予選で勝てないと思うので、全員がスイッチを入れないといけない。今日、勝ち切れたのはいいですが、それを継続していかないといけない。ここからです」

 ヒーローはその日まで。翌日からは次の試合に向けて、そしてこれから始まる選手権予選に向けて、その牙を研ぎ澄ませなければならない。堅守の象徴として、気合と勝利への執着心の発信源として。斉藤の目はすでに次の勝利に向けられている。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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