高卒→即ドイツ行きも「もうダメなのかな」 叶わなかった移籍…脳裏に焼きついた「苦しい時間」

5大リーグ行きを勝ち取った水多海斗の歩んだ道
フランス1部ル・アーブルへ移籍したMF水多海斗のキャリアは、決して一直線ではなかった。順風満帆とは程遠い道のりだったからこそ、本人の口から何度も出てきた言葉がある。(取材・文=中野吉之伴/全3回の最終回)
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
◇ ◇ ◇
「諦めなかったから、ここまで来られた」
その一言に、7年間のすべてが詰まっている。
「改めて自分のキャリアを振り返ると、こういう形でステップアップできるケースは決して多くないと思います。同じ国でプレーを続けながら五大リーグまでたどり着くことは、ドイツ人選手でも簡単なことではないかなと。もちろん、自分自身にも運やタイミングはあったと思います。今回の移籍もそうですし、これまでを振り返っても、スイスへの移籍が実現しなかったことや、マインツでトップチームに残れるかどうかという場面など、『運やタイミングが足りなかった』と感じたこともたくさんありました」
高校卒業後すぐにドイツへ渡ったことについても、成功談だけを語ることはない。「プロと学生サッカーの差はかなり大きく感じた」と明かしている。その点に関しては、その後マインツU-23に入団できたことが大きい。
「そこでフィジカル面も徹底的に鍛えてもらいましたし、同時にプロサッカーそのものも学ぶことができました。もちろん簡単ではありませんが、高校卒業後に海外へ行くこと自体は十分に可能だと思っています」
「もし、もう一度18歳に戻れるなら」と尋ねてみた。水多の答えはは変わらない。
「もう一度同じ選択をするとしても、自分は高校卒業後すぐに海外へ来る道を選びます。早い段階で海外へ出て、言語や海外サッカーに触れたかったという気持ちは今も変わりません。自分は日本向きというより、海外のサッカーのほうが合うタイプの選手かなって思っています」
海外挑戦してからの7年間には叶わなかった移籍もあれば、あと一歩届かなかったチャンスもある。だからこそ、今の自分があるのは「運が良かったから」だけではないと続ける。プロになってからは結果を出さなければ契約も切られる。厳しさや悔しさだって増えてくる時期もある。
今回のインタビューの中で、水多が最も力を込めて語ったのは、ビーレフェルト(ドイツ3部)で過ごした時間だった。
「ビーレフェルトではほとんど出場できずに苦しい時間を過ごしました。試合に出られない時は全然楽しくなかったですし、自分のキャリアを考えて、『もうダメなのかな』と思ってしまった時もありました。楽しむことが一番大事ですけど、それすらできていなかった時期もありました。ただそこからエッセンへ移籍して、自分自身も結果を残すことができました。チームとしては昇格できませんでしたが、個人としては今回の移籍につながったし、エッセンでずっと試合に出て活躍していた時は、本当に楽しかったですね」
そんな苦しい時間を乗り越えられた理由を尋ねると、水多は少し考えた後、自分自身と、もう一人の存在を挙げた。
「一番はやはり自分自身です。自分には負けたくないという気持ちがありますし、目標に対するこだわりもあります。でも、それだけではありません」
そう話したあと、自然と名前が出てきたのがMF横田大祐(レンジャース)だった。
「横田選手は、ほぼ同じタイミングで海外へ来て、一番仲のいい友人でもあります。だからこそ、彼には負けたくないという気持ちがずっとありました。彼も同じように思っているはずです。同じチームでプレーすることはありませんでしたが、お互いに少しずつキャリアを積み重ねながら上へ進んできました。そういう意味では、自分の近くにいる選手たちに負けたくないという思いが、大きな原動力になっていたと思います」
そんな水多には今でも忘れられないワンプレーがある。昨季、3部リーグ3位でシーズンをフィニッシュし、ブンデスリーガ2部昇格を懸けた入れ替え戦。あと一歩届かなかったあの試合だ。
「チャンスはこちらにもありましたし、でも自分も外しちゃったんで、そこが最後足りなかったところですね。そこを決めていれば、自分たちは絶対上がっていたと思います」
あの場面はいまでも心に残っている。
「いい思い出はいつでも思いだせます。でも、良くない思い出はずっと残り続ける。最後に外したところは、たぶん一生忘れないと思います。でも、その教訓を生かすことはできます。これからは、もっと大事なところで結果を出せる選手になっていかなくちゃいけないと思っています」
悔しさを消そうとはしない。忘れようともしない。その経験ごと背負って、次へ進もうとしている。だからこそ、今の水多がいる。挑戦し続ける姿勢は、高校卒業時から何ひとつ変わっていない。
「もちろん簡単ではありません。でも、ここまで来られたのも、『無理だ』と思わずに挑戦し続けてきたからです。だからこれからも、自分の可能性を信じてチャレンジし続けたいと思っています。まだリーグ・アンがどれだけのレベルなのか、本当の意味では分かっていません。開幕戦はモナコですし、その後もリヨンなど強い相手との試合が続きます。厳しい試合になると思いますが、勝てたらいいなと思っています。でも相手が強いほうが楽しいですし、ワクワクします。まずは開幕スタメンを目指して、プレシーズンをしっかり頑張りたいと思っています」
ビーレフェルトで苦しんだことも、エッセンで昇格を逃したことも、すべてが今の自分をつくっている。水多海斗のキャリアは、「諦めなかった者だけが次の景色を見ることができる」という事実を、静かに物語っているのではないだろうか。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。






















