無名日本人の5大リーグ移籍 独3部から異例のステップアップ…実現の裏に元チェルシーFW「驚いた」

ル・アーブルの水多海斗【写真:ZUMA Press/アフロ】
ル・アーブルの水多海斗【写真:ZUMA Press/アフロ】

ル・アーヴルへ加入したMF水多海斗

 ドイツ3部からフランス1部リーグ・アンへ。

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 ル・アーヴルへの完全移籍が発表された水多海斗にとって、この夏は自身のキャリアを大きく変える転機となった。ドイツで7年間積み重ねてきた日々が、ついに五大リーグへの扉を開いたのである。本人も「驚いた」という今回の移籍。その裏側には、一人のスポーツダイレクターとの縁やクラブの補強戦略、そして条件面では他クラブを上回るオファーを断ってまで挑戦を選んだ決断があった。(取材・文=中野吉之伴/全3回の1回目)

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 ただ今回の移籍話は多くの人にとって驚きだったはず。ドイツ3部からフランス1部というルートは珍しいものだし、どういう経緯で移籍が決まったのかはとても気になるところ。ZOOMでのインタビューをお願いしたら、快く受けてくれた。

 水多は現在、ホテルで生活を送りながら、新シーズン開幕へ向けた準備を続けている。

「今のところ問題なく過ごせています。ここ最近は暑かったんですけど、この地域はもともとそこまで暑くならないらしく、今日は涼しいですね」

 新天地での生活は始まったばかりだが、環境への不安よりも、新たな挑戦への期待のほうが大きいようだ。6月上旬にル・アーヴルが興味を示し、その約一週間後には正式オファーが届いたという。契約交渉も順調に進み、6月後半にはサイン。シーズンインに合わせて7月頭にチームへ合流することとなった。

 獲得へ向けて大きな推進力となったのが新しいスポーツダイレクターの存在だ。

「元ホッフェンハイムやチェルシーでプレーしていたデンバ・バなんです。もともとはフランス2部のダンケルクでスポーツダイレクターを務めていて、その時から『絶対に獲得したい』と思ってくれていたそうです。当初はダンケルクの選手として獲得しようとしていたそうですが、その後ル・アーヴルへ移ることになり、そこでも自分を欲しいと言ってくれました。あとは監督やコーチに確認して、了承が得られればという流れでしたが、監督も『ぜひ欲しい』と言ってくれて、最終的にオファーをいただきました」

 今回の移籍の背景には以前から続いていた確かな評価があったのだ。ドイツ3部所属だったとはいえ、昨季はエッセンの中心選手として昇格争いを演じた。そのパフォーマンスが、フランスでも高く評価された。2部でプレーしている選手以上に、水多の能力は魅力的に映ったということだ。

「もちろん一般的にはまず2部の選手を見て、その次に3部を見る流れだと思います。その中で、自分は3部でプレーしていましたが、チームとして昇格まであと一歩というところまでいけましたし、ゴールやアシストだけではなく、いろんなチームを助けるパフォーマンスが評価してもらえたのかなと思っています」

 ル・アーヴルの置かれている環境とその中で水多に求めた役割には明確なものがある。

「フランスは資金面ではドイツより厳しいクラブも多いので、ブンデスリーガから選手を獲得するのは簡単ではありません。だからドイツ2部や3部のマーケットを積極的に見て、そこからいい選手を引っ張ってくる方針だと聞きました。自分については、8番や10番でプレーできる選手を探していたそうです。クリエイティブさがあり、献身的にプレーできて、最後のフィニッシュやアシストまで期待できる選手として評価してもらいました」

 一方で、今回の決断は決して簡単なものではなかった。ドイツに残るならブンデスリーガ2部。あるいはスイスやポルトガルなど、ヨーロッパ各国の1部リーグへ進む選択肢もあったという。

「3部でもう一年プレーするという選択肢もありましたが、自分が思い描いていた次のステップは、スイスやポルトガルなど五大リーグに近いヨーロッパ1部リーグへ移籍がいいなとは考えていましたし、そういったクラブからもオファーはいただいていました」

 だからこそ、リーグ・アンからのオファーは想定外だった。

「ル・アーヴルからオファーが来た時は、正直ここまでの話が突然来るとは思っていませんでした。移籍にあたっては、いきなり五大リーグへ挑戦するのか、それとももう少し確実なステップを選ぶのか、本当に悩みました」

 さらに興味深いのは、条件面だけを見れば他クラブのほうが魅力的だったという事実だ。

「五大リーグだからといって必ずしも条件がいいわけではありません。実際、ル・アーヴルから提示された条件よりも、スイスやポルトガル、ポーランドなど他クラブの方が金額は高かったです。だから本当にいろいろな人に相談しました」

 それでも、水多の結論は揺るがなかった。

「『五大リーグからオファーが来たなら挑戦すべきだ』と思いました。ここで結果を残せば、2030年ワールドカップを目指せる可能性も出てくる。そう考えると、行かないという選択肢はありませんでした」

 その決断には、高校卒業後に単身ドイツへ渡り、思うようにいかない時期を何度も経験してきた7年間が凝縮されている。

 ドイツ3部からリーグ・アンへ。決して王道とは言えないキャリアを歩んできた水多が、五大リーグへの切符をつかんだ。だが本人は、ここをゴールとは考えていない。

 この決断が2030年ワールドカップへ続く道になるのか。その答えは、これから始まるリーグ・アンでの戦いの中で示されていく。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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