J1→J2移籍は「人生で一番難しい決断」 共演は突然終焉も…カテゴリーを越えた“27番の絆”

岡山で共闘した岩渕弘人と木村太哉【写真:柳瀬心祐】
岡山で共闘した岩渕弘人と木村太哉【写真:柳瀬心祐】

岡山MF木村太哉と仙台MF岩渕弘人が交わした約束

 ピッチ上を愚直に駆け回るファジアーノ岡山のダイナモ、28歳のMF木村太哉(たかや)が所属クラブとカテゴリーを越えた戦いも繰り広げている。J2のベガルタ仙台の攻撃陣をけん引する2025シーズンまでのチームメイトで、移籍とともに木村と同じ「27番」を背負う1歳年上のMF岩渕弘人と交わした約束をかなえるために、間もなく開幕する新シーズンでも情熱をほとばしらせて昇格2シーズン目の岡山を鼓舞していく。(取材・文=藤江直人)

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 カテゴリーの垣根を越えてお互いを意識し合い、ゴールを決め続けた選手たちがいる。J1ファジアーノ岡山の木村太哉とJ2ベガルタ仙台の岩渕弘人は、今年4月以降の1カ月あまりの間に合計8ゴールをマークした。

 秋春制シーズンへの移行期だった今年前半に開催された百年構想リーグで、最終的に木村はチーム最多タイの4ゴールを、岩渕は最多の6ゴールをマーク。2人にはともに「27番」を背負う共通点もあった。

 1998年生まれの木村と、1997年生まれでひとつ年上の岩渕。2024シーズンに当時J2だった岡山で出会った2人はお互いのプレースタイルに共鳴し合い、すぐに意気投合した。木村が懐かしそうに振り返る。

「シャドーとしてコンビを組んで出る試合が多かったなかで、お互いのプレースタイルがすごく好きになったのが一番の理由ですね。2人で相手を追いかけ回してボールを奪う。その繰り返しがすごく楽しくて」

 甲南大学から加入した生え抜きの木村は「27番」を、仙台大学から加入したいわきFCでJFL、J3、J2とステップアップしてきた岩渕は岡山の出世番号の「19番」を背負った。プロ2年目の2022シーズンから木村が2年間託されながらも怪我が続いた関係から返上。ルーキーイヤーの「27番」に戻したなかでちょうど空いていた。

 しかし、心身両面で以心伝心の関係を築いた2人の共演は昨年末に突然の終焉を迎える。

 2024シーズンのJ1昇格プレーオフを制し、悲願の昇格を果たしたJ1で13位につけて残留を決めた余韻が残るクリスマスに岩渕の仙台移籍が決まった。J1からあえてカテゴリーを下げる決断を岩渕はこう振り返る。

「人生で一番難しい決断でしたけど、年齢的にもあれなので、残りの人生を賭ける気持ちで来ました」

 宮城県に隣接する岩手県一関市で生まれ育った岩渕は、自他ともに認める熱狂的な仙台のサポーターであり、大学卒業時も仙台入りを熱望していた。しかし夢はかなわず、JFLからはい上がっていく道を選んだ。

 憧れ続けてきたクラブから届いた待望のオファー。岩渕が断腸の思いで下した決断に木村も理解を示した。

「めちゃめちゃ寂しかったですし、まだまだ一緒にやりたかった思いも強かった。でも、岩手県出身で仙台の大ファンだったのも知っていたし、誰にも止められないので、僕からは『頑張ってきてください』と言いました」

 ほどなくして思わぬ連絡が木村のもとへはいる。新天地・仙台での背番号を、いわき時代から6シーズンつけてきた愛着深い「19番」ではなく、木村と同じ「27番」に決めた。受話器の向こう側で岩渕はこう語った。

「いい番号がなかったから27番をつけるわ」

 仙台ではマテウス・モラエスがすでに「19番」でプレーしていた。しかし、本当の理由は別にあった。

「岡山で一番仲がよかった選手が27番だし、ただ仲がいいだけじゃなくて、球際の激しさを含めて、すべてのプレーに気持ちを込めている選手なので。自分も負けないように、という思いを込めて27番にしました」

 百年構想リーグを戦っていた岩渕はこんな本音を残している。木村も先輩の胸中を察していた。

「恥ずかしがり屋なので僕に対してはそこまでは言わなかったですけど、連絡をもらったときはすごくうれしかったですね。僕自身も自分らしさ、といったものをしっかりともち続けようとあらためて思いました。本当にたくさんの刺激を受けた選手の一人でもあるので、そう思ってくれた先輩に恥じないように戦っていこう、と」

 以来、所属クラブだけでなくカテゴリーの垣根も越えた、直接対決のない真剣勝負が幕を開けた。

「お互いにどこかで意識する部分はあったと思います。同じチームのときも切磋琢磨し合っていたので」

 お互いにゴールを決め合った時期を振り返る木村に呼応するように、岩渕もこんな言葉を残していた。

「太哉よりも絶対に点を取る、という気持ちでいますし、そこは絶対に負けたくないですね」

 百年構想リーグは、岡山が浦和レッズとのプレーオフラウンドを1勝1分けで制して11位でフィニッシュ。仙台はJ2とJ3の計40チームの頂点に立った。そして戦いは間もなく開幕する2026-27シーズンへと続く。

 仙台ですぐに攻撃の中心を担う存在となった岩渕を特集しようと、百年構想リーグの期間中に仙台のテレビ局が木村のもとへ取材に訪れている。そのときのやり取りを、木村は苦笑とともに振り返る。

「ビデオメッセージを送ってくださいと言われたので『ユニフォームを交換しましょう』と伝えました」

 思い描く光景は、岡山が2シーズン連続で残留を、仙台が2021シーズンを最後に遠ざかっている昇格をそれぞれ果たす先に待つJ1の舞台。来夏から幕を開ける2027-28シーズンでの直接対決を木村は心待ちにしている。

「今シーズンは自分たちもさらに上の順位で終われるように、しっかりと戦っていきたい。そのなかで僕自身もまだまだ頑張らないといけない、という思いでいっぱいです」

 百年構想リーグに続いて新シーズンでも、木村と岩渕はともに「27番」を背負う。岡山はセレッソ大阪、仙台は藤枝MYFCとともに敵地に乗り込む8日の開幕戦から、ピッチ上での再会もかなえる戦いをスタートさせる。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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