高卒での欧州挑戦は正解か? ドイツ指導者が指摘…日本の未来を変える「本当に正しい移籍先の選び方」

元ケルン育成部長クラウス・パプスト氏が語った
ワールドカップを振り返り、「日本はチームとして本当に良かった」と評価した元ケルン育成部長クラウス・パプスト。一方で、「世界との差はまだある」とも語った。
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その差を埋めるためには、そして乗り越えていくためには、より多くの日本人選手がヨーロッパのトップリーグで経験を積むことが重要になる。しかし、それは「欧州へ行けば成功する」という意味ではない。
どのクラブで、どんなサッカーに取り組んで、どれだけの出場機会を得ながら、どのように成長と成果と向き合い、どのようにステップアップすることが望ましいのか。
クラブ名やリーグ名でキャリアアップを目指した移籍が、選手の成長を止めてしまうケースもあるのだ。では、移籍先を選ぶとき、本当に見るべきものは何なのか。
パプストが口にした答えは意外なほどシンプルだ。
「移籍を考える時一番大切なのは監督だ。クラブの名前でも、リーグの名前でも、お金でもない。行った先のクラブの監督がどんな哲学とどんな人間性で、どんなサッカーを志向しているのか。その中で自分がどのような立ち位置にいるのか。『行けばなんとかなる』『がんばればなんとかなる』わけではない」
長年ドイツで育成年代の選手を見続けてきたパプストは、数多くの子どもたちがブンデスリーガの育成アカデミーへ移籍するのを見送っていた。必ず選手たちには同じ言葉を掛けるのだという。
「プロクラブの育成アカデミーへ入ったからといって、ほとんどの選手はプロにはなれないという事実を自覚しないといけない。それが現実だと受け入れなければならない。だから毎回の練習、一試合一試合、一シーズン一シーズンを充実させることが大事だ。ひとつひとつをプレゼントだと思って過ごしてほしい。上のカテゴリーへ進むことができたら、トップチームまでたどり着けたら、本当に素晴らしいことだ。でも進めなくてもそれで終わりではないし、何かを失ったわけではないということは覚えておいてほしい。少し下のリーグにもいい監督のいるクラブはある。リーグの格やクラブの名前に惑わされたら、成長は止まる」
この言葉は、育成年代だけに向けられたものではない。クラブのブランドやリーグの格が、選手の未来を保証してくれるわけではないからだ。日本代表選手が海外移籍を考えるときも、さらに上のクラブへのステップアップを目指すときも、本質は変わらない。
移籍そのものを成功と考えるのではなく、そのクラブでどれだけ成長できるか。その視点を持てるかどうかが、その後のキャリアを大きく左右する。
これは育成年代から同じことが言える。パプストは声高に強調してきた。
「育成年代からこうしたテーマとはしっかり向き合った方がいい。親はどうしても上のリーグに価値を見出しがちになる。育成年代でも代理人が増えてきている現代では、間違った価値観でアプローチされることもある。でも、本当にそこで《良いサッカー》が行われているのか。昇格や降格が懸かると結果を優先するあまり、ロングボールやキックアンドラッシュが増えることもある。そういう環境で、選手は本当にサッカーを学べるのだろうか?技術や判断力のある選手、驚くようなクリエイティブさを持つ選手が育ちにくくなってしまう」
例えば、高卒で欧州へ挑戦すべきか。もっと早い段階で飛び込むべきか。そうした議論も大切だ。しかし、それ以上に重要なのは、自分をしっかり見てくれる監督の下で、じっくりサッカーと向き合える環境を選べるかどうかだ。当たり前だが、日本にも優れた監督・コーチはたくさんいる。
「5大リーグでプレーする」「欧州CLでプレーする」価値は高い。しかし、早くたどり着けばつくほどいいわけではないし、それだけが成功への道ではない。
実際、ワールドカップを見ても、優勝したスペインは多くの選手が国内トップクラブやヨーロッパ最高峰でプレーしていた一方で、レアルマドリード所属選手が0という驚きがあった。アルゼンチン代表には国内リーグでプレーする選手がいたし、ベスト8へ進出したスイスやノルウェーにしても、全員が5大リーグ所属というわけではない。
重要なのは、所属するリーグそのものではなく、その環境でどんなサッカーに取り組んで、どんな成長ができているかどうか。
元ドイツ代表DFルーカス・シンキビッツがこんな話をしてくれたことがある。ある若手選手が監督の指示通りのプレーをしていたことに対して、「それがミスなんだ」と言い放った。
「自分で試合を感じられなければならない。試合の匂いをかぎ取れなければ。相手が周囲にいるかどうかを把握できなければ。マッチプランをもって試合に入るだろう?それはいい。でも何回か同じアクションをしたら相手は対応を変えてくるだろう?レベルが上の相手だったらすぐに止められてしまう。それぞれの状況に適したアクションにチャレンジする。それがサッカーだ」
だとすると、そうしたプレーを認めてくれる、理解してくれる監督の下でプレーしなければ、身につけることもできない。そしてその監督が長くクラブに残れるかどうかは、人事権を持つスポーツダイレクターや会長職の哲学や人間性にも関わってくる。そして欧州でプレーする選手が増えてきたことで、クラブや監督に関する情報もこれまで以上にシェアできるようになってきたはず。
クラブの名前やリーグの格に目を奪われるのではなく、自分を成長させてくれる環境を選ぶ。その積み重ねが、一人の選手の未来を変え、日本サッカーの未来も変えていく。パプストが伝えたかったのは、そんな当たり前でありながら、見失われがちな価値観だった。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。





















