日本サッカーの「発展は驚異的」 元独幹部が感じた確かな成長…求める覚悟「決断したほうがいい」

北中米W杯に臨んだ森保ジャパン【写真:徳原隆元】
北中米W杯に臨んだ森保ジャパン【写真:徳原隆元】

元ケルン育成部長が見た北中米W杯の日本代表

「一歩ずつだよ。まずはベスト16、その次はベスト8。その積み重ねが大切なんだ。トーナメントは運もある。どんな国もそうやってたどり着いてきたのだと思う」

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 今大会、そしてこれからの日本代表について、元ケルン育成部長で日本サッカーにも精通しているクラウス・パプストに尋ねたら、冒頭の言葉を口にしていた。日本サッカーに対する評価は高い。

 時差の関係もあり、すべての試合を見られたわけではないという。それでも、オランダ戦やブラジル戦などを見た印象は総じて非常にポジティブだった。

「チームとして本当に良かった。特に印象に残ったのは、組織としての完成度。比較的モダンなシステムと戦術でプレーしていたし、センターラインもしっかりしていた。GKを含めて全体として非常に安定した点は、日本サッカーのスタンダードレベルが上がってきていることの確かな表れだ」

 だからこそ、ブラジルと早い段階で対戦したことを惜しんだ。

「別の相手との対戦であれば、もっと上まで勝ち進めた可能性もあったと思うよ。ブラジルが過去最高レベルかというと違うけど、とはいえ、さすがブラジルと思わせる試合運びがあった。あと、違いを生み出せる選手がいるかどうか、という点でも、まだブラジルの方が上だった」

 その差についても冷静に分析する。組織として戦えるチームになったことは誰もが認める。しかし、試合を動かせる個の力、そして試合の流れを自分達に引き寄せる戦術・戦略的バリエーションでは、だいぶ縮まってきてはいるものの、まだ差がある。それがパプストの見立てだった。

 大会後には「もっと攻めるべきだった」「もっと別の好対策があったはず」という議論もある。しかし、パプストはそうした論調には慎重な姿勢を見せる。

「試合が終わった後なら、誰でも何とでも言える。マティアス・ザマーも言っていたが、試合中にあのシチュエーションで決断しなければならない状況と向き合ったことがない人には、どれだけのプレッシャーとストレスがかかっているかが、なかなかわからないかもしれない。でも、人はストレスやプレッシャーで普段通りにどんどん判断できなくなる。ましてあれだけのビックステージでとなれば、その圧は計り知れない。ちょっと考えているつもりであっという間に時間が経ってしまう」

 そう話すと、日本同様の戦い方で苦杯を喫した国を引き合いに出した。

「イングランドも早めに守備を固めて、結果として失敗となってしまったけど、外からではわからないことがたくさんあるということは知っておいた方がいいと思う。僕個人としては、日本が間違った戦い方をしたとは思っていない。試合終了間際の失点は、確かにミスもあったが、でもあれはどの国でも起こりえること」

 話は自然と、日本サッカー全体の成長へと広がった。

「僕が初めて日本へ行ったのは約20年前。当時と比べれば、日本サッカーの発展は本当に驚異的とさえいえる。そしてまだその成長は止まっていないと思う」

「日本サッカーについて思うことがある」といってパプストが口にしたのが、アジア・チャンピオンズリーグ決勝の浦和レッズとアル・ヒラルの一戦。印象に残ったポイントとして挙げたのは、ビックステージでも殻を破ったチャレンジができる選手がいるかどうか、だった。

「アル・ヒラルにはヨーロッパのトップレベルを経験した選手が何人もいて、彼らはメンタリティや立ち居振る舞いだけで、日本の選手にプレッシャーを与えていたと感じたよ。本当に日本人は礼儀正しく、相手を尊重する文化を持つ。それは素晴らしい長所だ。とてもリスペクトしている。しかし、世界トップレベルの試合では、どこかでブレイクし、自分を表現し、堂々と振る舞う力も必要だ。そこは、日本がこれからさらに取り組み、そして伸ばしていける部分となるかもしれない」

 パプストが強調したのは、経験を積むことだけではない。そこでプレッシャーに飲まれず、自ら決断を下す経験を重ねることの重要性だった。

「チャンピオンズリーグのような最高レベルでプレーすれば、自然とそういう経験も積める。だから日本人選手がヨーロッパへ行き、そうした舞台でプレーすることには大きな意味があると思う。もちろん、そこでプレーすればすべてがうまくいくというわけではないよ。ドイツ代表にもCL経験豊富な選手はたくさんいたけど、結果はみんなも知っているだろう?」

 難しい状況で決断をするのは簡単なことではない。ピッチで100%の正解が用意された状況などない。だからこそ、自ら決断し、その責任を引き受ける覚悟が選手には求められる。

「選手にはいつも、『その決断をした理由を説明できるようにしなさい』と言っているんだ。後から間違っていたと分かっても、『その時はこういう理由で決めたんだ』と言えればいい。決断しないより、決断した方がいい。そして、その決断の質を高めていくことが大切なんだ。でも、『決めたことを正解にしていけばいい』という考えだけでは足りない。なぜそう決断したのか、ほかにどんな選択肢があったのかを振り返り、精査しなければ、そこから成長することはできないからね」

 日本サッカーは、この20年間で世界から称賛される組織力を築き上げた。ここから次の20年で求められるのは、どれだけプレッシャーがかかる試合でも、試合の勝敗をゆだねられるような状況でも、タイトルがかかるようなトップレベルの大会であっても、勇敢に試合をポジティブに動かせる選手が育ってくることだ。

 焦る必要はない。パプストはそう強調してこう語りだした。

「バイエルンがCL準決勝でパリ・サンジェルマンに敗れた後のヴァンサン・コンパニ監督のコメントは、本当に素晴らしかった。『結果は残念だった。でも来年また挑戦すればいい。スポーツというのはそういうものだ。優勝できるのは1チームだけ。でも挑戦は何度でもできる』。まさに、その考え方が大切なんだと思うよ」

 一歩ずつ積み重ねることの大切さを説くパプストの言葉は、日本代表が次の景色を見るための確かな道しるべになるはずだ。(敬称略)

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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