入部者ゼロ弱小校→県大会優勝「自ら考えて」 監督は元Jリーガー…歩んだ異色の経歴

聖望学園中学サッカー部を率いる生方繁監督【写真:河野正】
聖望学園中学サッカー部を率いる生方繁監督【写真:河野正】

聖望学園中学の生方繁監督「自ら考えて発信できる選手の育成に主眼を」

 強化に本腰を入れて5年目の聖望学園中学サッカー部がこの夏、全国中学校大会につながる中体連のビッグタイトル、埼玉県学校総合体育大会で初優勝を飾った。Jリーグクラブのアカデミーで、長らく育成年代の指導に当たった元Jリーガー生方繁監督の下、豊かな発想力と主体性を重んじた戦法で勢力を拡大中だ。

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 サッカー部はかつて入部者がゼロという年度もあったように、タイトルとはまるで無縁の弱小だった。そんなチームをてこ入れしようと、2021年4月に生方監督を招請し、翌年の強化元年に向けて準備をスタートさせた。体験練習会を何度も開催したほか、聖望学園高校の山本昌輝監督と一緒に小学生の試合を視察しては、目に留まった好素材に入学を打診したのだ。

 生方監督は東京・国士舘高校卒業後、当時イタリア5部リーグの2チームに2シーズン在籍。1999年に帰国し、横浜F・マリノスや柏レイソルなどJリーグ6チームの審査会に挑戦したが、“6連敗”を喫した。

 そこでアルビレックス新潟と提携するアップルスポーツカレッジ(現・JAPANサッカーカレッジ)に加入。ミッドフィールダーの要人として2000年度の第80回天皇杯全日本選手権初出場に力を貸したことで、2001年には新潟入りが決まり念願のJリーガーとなった。だがリーグ戦出場はなく、第81回天皇杯1回戦に交代出場したのが唯一の経歴で、1年限りで契約満了を告げられる。

 現役に未練が残り、2002年に当時県リーグ1部のザスパ草津(現・ザスパ群馬)に移籍して3年間プレー。ここでも結果を残せず、九州リーグのロッソ熊本(現・ロアッソ熊本)の加入テストに挑んだものの、合格通知を受け取れず引退を決めた。

 2005年から指導者に転向すると、草津U-18コーチやU-15監督、アカデミーダイレクター補佐などを歴任。2014年からはSC相模原ジュニアユースコーチと兼務し、日本サッカー協会「こころのプロジェクト」東日本大震災復興支援に参画した。2021年3月まで“夢先生”として主に小学生と向き合い、同年4月に聖望学園の事務職員となって中学サッカー部の再建に取り掛かった。

 クラブチームの草津と相模原で計13年、育成年代の指導を担った。異色の経歴を持つ監督は、その経験を中体連のチームにどう生かしていったのか。

「あの頃は、何でもかんでも自分が教えてやるんだって意識が強すぎましたね。もっと選手に主体性を持たせるべきだったし、試行錯誤を重ねながら自分たちで考えて行動する練習メニューや声掛け、上手なアプローチができなかったかと後悔しました。そんな反省を生かし、聖望では自ら考えて発信できる選手の育成に主眼を置くようにしたんです」

 現在、聖望学園高2年でトップ下を担当する中学1期生のMF指田風太は、「自分で発信してプレーすることの重要性を教わった。いろんなポジションを任されたので、トップ下でも2列目でもボランチでもどこでもできます」と頼もしい。役回りを複数与えることも指導手法のひとつだという。

 創部2年目の2023年11月、埼玉県新人大会で初優勝すると昨秋までに3連覇。だが肝心な夏の学校総体は1回戦、3回戦、3回戦、準々決勝敗退と4強すら逃してきた。全国中学校大会の予選を兼ねた関東中学校大会の出場権を得られる決勝までたどり着けないでいた。それが5度目の挑戦となる今回、好敵手のさいたま市立南浦和や西武台新座を破って初の頂点に立った。

 日進月歩の躍進ぶりに聖望学園高・山本監督の表情も緩む。「うちのサッカーをよく理解している中学生の入部は、指導する側としてもありがたい。今までは外部の有力選手をスカウトしてきたが、今後は中学から好人材の昇格が多くなってくると思いますね」と喜ぶ。

 人工芝のピッチとフットサル場で平日に3日間行う練習は、個の技術力向上を図る内容に時間を割く。指揮官は「試合で起こりえる場面を切り取ってスキルを磨きます。練習でやっていないものは試合では出せないので、練習も試合のようなコンセプトで取り組んでいる」と解説する。

 さいたま市立南浦和との決勝で同点弾を決めたMF野口龍志朗(3年)は、「監督に求められるのは考えるサッカーです。正しい判断やいかに相手の逆を取るかも要求されるので、練習も試合も楽しい」と話し、頻繁に行う鳥かごでのボール回しで精度が高くなったそうだ。

 その野口は左腕にアームバンドを巻いているが、これは大会に参加するための便宜に過ぎない。主将を置かない理由について生方監督は、「全員に統率力を植え付けるためです。キャプテンの言う通りに行動する指示待ち人間を出さず、創造力を豊かにする狙いもあります」と述べた。

 今季、高円宮杯U-15県リーグ2部に初昇格したことも、栄冠につながった大きな要因だろう。サイドバックながら今大会のチーム得点王に輝いたDF布田颯介(3年)は、「いろんなタイプのチームと戦えて成長できました。課題もあったけど自信もついた」と答えた。

 これで関門をひとつ突破した。次は最低2勝すれば初の全国大会出場が決まる関東大会(8月6~9日・茨城県)に照準を合わせる。

 生方監督は「全国に出て静岡学園や神村学園、青森山田や日章学園といった中体連のすごいチームを倒してみたい」とうれしそうに語るが、近い将来の目標は全国大会制覇ではない。「関東U-15リーグに昇格することです。中体連のチームがいないので、うちが参入して中学チームでもやれることを示したい」と引き締まった表情で夢を語った。今季は1部A、Bと2部A~Dで計48チームが参加しているが、確かに中体連のチームは不在だ。

 日本代表のMF中村敬斗は、今夏の北中米ワールドカップ(W杯)に出場し、オランダとのグループステージ初戦で得点した。その中村を中学1年から高校2年まで、三菱養和SCで指導したのが兄の生方修司さんだ。

 昨季まで三菱養和調布で中学生を教えていたが、今季はユースで指揮を執っている。だが弟が夢をかなえ、兄が再びジュニアユースに戻ることになれば、関東U-15リーグでの兄弟対決が実現する可能性がある。

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河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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