名門を救った逸材FW「俺がやってやる」 0-2→3-2で逆転勝利…悲願の初Vへ「静岡の人たちに」

静岡学園3年FW坂本健悟「日本一を静岡の人たちに届けたい」
7月25日から福島県で開催されているインターハイ。全国の予選を勝ち抜いた51校が、一発勝負のトーナメントでしのぎを削っている。今回はこの大会で輝いた選手をピックアップしていきたい。
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準々決勝・静岡学園vs旭川実業の一戦。窮地に追い込まれた静岡学園を甦らせたのは、エースストライカーの坂本健悟だった。
後半12分のヘディング弾を皮切りに、前線での正確なポストプレー、クロスへの質の高い飛び込み、そして足元の技術を生かした崩しへの参加など、圧倒的な存在感を放ち続けた。
チームは同27分に同点に追いつくと、後半アディショナルタイムにDF佐野泰聖が決勝ゴール。0-2から3-2という劇的な逆転勝利を収め、5年ぶりとなる準決勝進出を決めた。
ピッチ上で放っていた圧倒的な雰囲気。まさにエースの貫禄を見せた坂本には、心に秘めた熱い思いがあった――。
最悪の展開だった。前半16分にビルドアップのミスを突かれて失点すると、後半開始直後には副審のフラッグに反応して足を止めてしまい、痛恨の追加点を奪われた。いずれも自分たちのミスから生まれた2失点。精神的なダメージも含め、重くのしかかってもおかしくなかった。このままズルズルと崩れてしまう可能性すらあった。
だが、ここでエースストライカーのスイッチがバチンと入った。
「もう『俺がやってやる』という気持ちしかなかった。下を向くとか、『なんでだよ』という気持ちは一切なかった」
坂本は昨年からチームのエースストライカーとして君臨してきた。昨年度のプレミアリーグWESTでは7ゴールをマーク。チームはプリンスリーグ東海へ降格してしまったが、184cmのサイズとスピード、さらに足元の技術も兼ね備えた万能型ストライカーとして注目を集める存在だった。
だが、今年に入ってから、その雰囲気が一変した。これまではスケールの大きな将来性あるストライカーという印象だったが、最高学年を迎え、『危険な香りがするゴールハンター』へと変貌した。最前線で纏うオーラはより獰猛になり、そのプレーからはこれまで以上の迫力が伝わってくる。
そして、それは今大会に入ってさらに大きなものになっていった。
「この状況で何も感じないわけがない。僕にはやらないといけない理由しかないんです」
大会前にチームの攻撃の中枢を担う10番のMF松永悠輝と、期待の2年生MF杉ノ原芽生という主軸2人が怪我で離脱。大きな痛手を抱えて大会に臨む中、初戦となった大分戦では前半17分にキャプテンのMF足立羽琉まで負傷し、ピッチを退いた。
「松永と杉ノ原が離脱して、ずっとチームを引っ張ってきてくれた足立まで離脱せざるを得なくなった。副キャプテンとして僕がキャプテンマークを託された以上、『自分がやるしかない』という気持ちがより一層強くなりました。エースナンバーの9番を背負ってキャプテンマークを巻いている選手が、情けないプレーなんてしてはいけない。何がなんでも自分が勝たせるという気持ちを持っています」
大分戦ではハットトリックの活躍を見せた。しかし、3回戦の鹿島学園戦では2-0でリードしていた後半、「自分のミスから失点をしてしまった」と唇を噛んだように、失点に絡んで相手に流れを与えてしまった。
「PKで勝てはしましたが、あれはやってはいけないこと。川口(修)監督からも『明日、絶対に挽回しろ』と発破をかけてもらったので、さらに気持ちが入っていました。失点をしても『問題ない、俺がやる』という気持ちが強かった」
最前線のエースが醸し出す、殺気にも似た雰囲気。旭川実業のDF陣は徐々に押し下げられていった。ライナー性のボールでも足元へのボールでも確実に収め、技巧派揃いの2列目以降の選手たちが前向きに仕掛ける状況を作り出す。ブロック間でも巧みにポジションを取りながら、クロスに対してはファー、ニアを問わず、ゴール前へ鋭く飛び込んでいった。
反撃の狼煙を上げたのも、やはり坂本だった。後半12分、右サイドからMF高丘泰昂が上げた山なりのクロスに反応。ファーサイドで高く跳び上がると、高い打点から強烈なヘディングシュートをゴールに突き刺した。
エースの一撃で、静岡学園の空気が一気に変わった。同27分にはFW沢井翼が左足で同点ゴールを叩き込む。この場面でも坂本は中央で沢井のドリブルコースを空けながら、自らもパスを受けられる絶妙なポジションを取っていた。
さらに試合終盤になっても、坂本のゴールへの執念は衰えなかった。クロスに対して相手GKと競り合いながらヘディングでゴールを狙うなど、最後まで相手ゴールに襲いかかり続けた。そして後半アディショナルタイム、途中出場の佐野が決勝ゴールを叩き込む。ついに静岡学園が試合をひっくり返した。
「常に川口監督から『ここぞという時に取れる選手になってほしい』と言われ続けてきました。今はその言葉の意味や思いが痛いほど伝わるからこそ、どんな時も最後まで狙い続ける。ゴールへの気持ちは絶対に強く持ち続けたいです」
この活躍に満足している気持ちは微塵もない。むしろ、坂本からはゴールへの、そして勝利へのさらなる渇望が滲み出ていた。
悲願の初優勝まで、あと2勝。エースであり、チームリーダーでもある自覚を滲ませながら決意を口にした。
「静岡の人たちは本当に熱心に応援してくれるし、サッカーを愛している。県予選を勝ち上がる難しさはいつも感じるし、この厳しさは静岡ならでは。県内では凌ぎを削って、そこで勝ち上がって静岡の代表になれば、静岡の人たちはみんなが1つになって応援してくれる。それが静岡の素晴らしさだと思います。だからこそ、僕らは『サッカー王国・静岡』の代表としての自覚を持ちたいし、日本一を静岡の人たちに届けたいと思っています」
背番号9とキャプテンマーク。怪我でピッチを離れた仲間たちの思いも、静岡を代表して戦う責任も、その両肩に背負っている。
技巧派集団の魂を宿すエースストライカーは、強い思いという刃でその牙をさらに研ぎ澄ませ、準決勝・大津戦に挑む。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。




















