W杯優勝目標も「毎回やってしまえば狼少年に」 強豪国へ歩む道程…求められる「腰を据えた長期戦」

北中米W杯に出場した森保ジャパン【写真:徳原隆元】
北中米W杯に出場した森保ジャパン【写真:徳原隆元】

議論が巻き起こっている日本代表の目標設定

 日本代表の「優勝」という目標設定は正しかったのか? 森保一監督の期間限定継続と大岩剛五輪監督の後継決定はどうなのか? R32のブラジル戦での采配、指示への疑問…ワールドカップが終わって、さまざまな疑問点が浮き彫りになっている。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 ファンはそれぞれに意見を言い、それに対する反論もある。SNSが盛んになって人々の反応が可視化されるようになった。良いことだと思う。いろいろな議論があってしかるべきだし、その熱量がストレートに現場に伝わるのはJFAにとってもありがたいことではないだろうか。

 優勝という目標設定に絞ると、前提としてミもフタもない話をしなければならない。

 たしかJFAは2005年宣言で「2050年優勝」を目標としていて、2030年は「ベスト4」だった。北中米大会のR32敗退をうけて「ベスト8」に下方修正したようだが、いずれにしても2026年優勝はJFAとしての目標ではなかったはず。ただ、監督や選手が「優勝」と言い出したので、それに追随する感じになっていた。

 W杯に参加するにあたり選手たちが優勝を目標にするのはむしろ当たり前だと思う。JFAとしては時期尚早だったとしても、監督や選手がそう思うなら止められない。実際、日本の優勝の可能性はゼロではなかった。強豪を倒しうる力は持っていた。90分間でスペインとアルゼンチンに負けなかったカーボベルデも理屈のうえでは優勝する可能性はあったわけで、強豪と接戦できるなら全部倒せば優勝はできる。

 ただそれはほぼミッション・インポッシブルで、実際には強豪国しか優勝しない。

 今回優勝したスペインは20年かけて現在のプレースタイルを創り上げていて、初優勝からの16年間にさらに微修正と研磨を続けてきた。フランスが初優勝した1998年はまだ強豪未満だったが、20年後の2018年に2度目の優勝を成し遂げて自他ともに認める強豪になった。

 ノックアウトステージに勝ったことのない日本が強豪になるまでは、早くても20~30年はかかると考えられる。その点、JFAの「2050年優勝」は感覚的ではあるが妥当なのだ。

 強豪でなくても優勝は可能かもしれない。だが、JFAは「まぐれ」で優勝したいわけではないだろう。1回優勝したら期待値も上がるだろうし、日本が強豪として優勝するのが目標であるはずだ。

 そうすると、日本が強豪になるまでの30年以上、毎回「優勝」と公言し続けるのは害でしかない。誰もその言葉を信用しなくなってしまうからだ。

 選手、監督が優勝を目指すのはいっこう構わないのだが、それを公言する弊害がある。今回は優勝を公言することで国民の関心と支援を得てエネルギー源にしたかったのだろうが、毎回それをやってしまえば狼少年になる。「一戦一戦」とか「8試合戦う準備がある」とか、そんな感じでいいのではないか。実際、強豪国の言い方はだいたいそうである。自ら言葉を軽くしない方が良い。

 日本は強豪を倒しうる国として、今後30年あまりを戦っていく。その間、たぶん優勝はしない。

 選手にとっては1回しかないかもしれない機会であり、優勝を目指す意気込みで臨むのだろうが、JFA、メディア、ファンは毎回夢を追う以上に、腰を据えた長期戦を自覚すべきである。優勝のために必要な国民の熱量を得たければ、選手たちの一時の熱量に流されない構えもまた必要なのだ。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



page 1/1

西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング