スペインはメッシをどう封じるか 勝敗左右する中盤の攻防…夢の決勝“勝負のポイント”

スペインとアルゼンチンが激突する夢の決勝、勝負のポイントとは
北中米ワールドカップ(W杯)は欧州王者スペインと南米王者アルゼンチンの対決になった。スペインはフランスを2-0で完封。世界最高峰のアタッカー陣を最後まで機能させず、試合を通して攻守両面での完成度を示した。一方のアルゼンチンはイングランドに0-1から終盤の2ゴールで劇的な逆転勝利。追い込まれるほど真価を発揮する勝負強さを見せつけ、MOMに輝いたリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)を中心に、驚異的なメンタリティを証明した。
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スペインのルイス・デ・ラ・フエンテ監督は、準決勝を前に「きょう対戦するのは、おそらく世界最高の代表チームの一つだ。しかし、その前に立ちはだかるのは『世界最高のチーム』だ」と選手に伝えたという。アンカーのロドリを軸にファビアン・ルイス(パリ・サンジェルマン)、ダニ・オルモ(バルセロナ)が中盤を支配し、ボール保持だけではなく、相手のカウンターの起点まで消し去る。ボールを失えば即座にカウンタープレスを発動し、相手に前を向かせない。攻守が一体化した組織力によって、フランスは最後まで自分たちのリズムをつかめなかった。
19歳のラミン・ヤマル(バルセロナ)をはじめとした個のタレント力はもちろんある。しかし、スペインの本質は一人のスターではなく、11人が連動する完成度の高さにある。U-19代表から地道に指導実績を積み上げてきたデ・ラ・フエンテ監督も「このチームは試合ごと、大会ごとにバージョンアップしている。それは才能だけではなく、ハードワークと犠牲、努力の積み重ねだ」と胸を張った。W杯ファイナルはアンダー世代から知る選手たちとの集大成になる。
一方で、アルゼンチンはまったく違う形で決勝進出を決めた。イングランドに先制されながらも最後まで攻め続け、後半40分にエンソ・フェルナンデス(チェルシー)が鮮やかなミドルシュートで同点に。そしてアディショナルタイムにはメッシの意表をついた右足クロスから、ラウタロ・マルティネス(インテル・ミラノ)が決勝ゴールを奪った。前回大会の優勝を経験しているリオネル・スカローニ監督は「このチームは、困難な状況に陥ったときほど、より素晴らしいプレーを見せる。我々は血の匂いを嗅ぎつけたら、それがどこであっても地の果てまで攻め込むんだ」と語っている。
その言葉はただの精神論ではない。アルゼンチンはリードされると前線から圧力を強め、メッシは最前線から一列下がってゲームメーカーへ変貌する。そしてベンチに回っていたロドリゴ・デ・パウル(インテル・マイアミ)やラウタロが流れを変え、最後まで攻撃の勢いを落とさない。スカローニ監督は「私は魔法使いではない。彼ら(選手たち)がいるから勝てる」と語り、ベンチメンバーも含めたチーム全体の力を強調した。
そんな両者が激突するファイナルにおける最大の焦点は、中盤の攻防になる。スペインはロドリ(マンチェスター・シティ)を中心にボールを握り、試合のテンポを支配したい。一方のアルゼンチンはアレクシス・マック・アリスター(リバプール)やエンソが強度の高い守備から試合を激しくし、レアンドロ・パレデス(ボカ・ジュニアーズ)が驚異的なボール回収力で支える。スペインに快適なボール保持を許さないはずだ。どちらが自分たちのリズムへ持ち込めるか。それが試合全体を左右する。
そしてもう一つの見どころは、スペインがメッシをどう封じるか。フランス戦では、スペインは相手エースのキリアン・エンバペやウスマン・デンベレのスピードを組織で封じ込めた。しかし、メッシはタイプがまったく違う。最前線で待つのではなく、中盤まで下がってゲームを組み立て、相手を引き付けながら味方を生かす。イングランド戦でも終盤は右サイドへ流れ、一瞬の間合いから決勝点となる正確なクロスを供給した。
スペインは特定の誰かがメッシを見るより、ロドリを中心に周囲が距離感を保ちながらパスコースを消し、自由を奪う形を選ぶはず。一方のアルゼンチンにとって最大のテーマは、スペインのカウンタープレスをどう突破するか。フランス戦は相手がボールを奪っても、その場から鋭いプレスをかけて前を向く時間すら、なかなか与えられなかった。アルゼンチンはイングランド戦のようにメッシが低い位置で受け、デ・パウルやマック・アリスター、エンソが近い距離でサポートしながら、プレスを一つずつ外していく作業が欠かせない。
90分を通して見れば、ボールを保持する時間はスペインの方が長いだろう。しかし、アルゼンチンはそれでも慌てない。スカローニ監督は「0-1で負けていても、最後まで戦い抜いたなら私は満足だった」と語った。目先の展開ではなく、試合終了の笛まで勝負を諦めない。それが今大会のアルゼンチン最大の武器なのだ。
一方、デ・ラ・フエンテ監督も「決勝は勝つためにあるのではない。戦うためにある。その舞台に立てること自体が誇りだ」と語る。両監督に共通するのは、個の力だけに頼らないチーム作りへの信念だ。スペインは組織によって個を輝かせる。アルゼンチンはメッシを中心としながらも、長くチームを率いる指揮官のもとで、個人と組織がうまくブレンドしている。そこに無類の勝負強さを発揮できるメンタリティが加えられているのだ。
未知の戦いになるが、一瞬の機を引き寄せた側に勝利の美酒がもたらされるはず。もちろん両者一歩も譲らず、延長戦、PK戦に勝負が委ねられる可能性も含めて、世界最高峰のハイレベルな戦いになることは間違いないだろう。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。




















