トランプの政治介入は「W杯史に残る大きな汚点」 44年前とは違う暴挙…痛烈批判されるFIFA「すべて台無し」

アメリカFWバログンの出場停止が“消えた”影響
決勝トーナメント2回戦のアメリカ対ベルギー、好試合を期待したけれど、内容は散々だった。地元アメリカに前への推進力はなく、これまでの勢いは消えていた。FKで一度は同点に追いついたものの、直後に突き放されるとミスも重なり大量失点。1-4の惨敗でホスト国はベスト16で大会を去った。
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今大会、これまでで最も注目された試合だ。1回戦のボスニア・ヘルツェゴビナ戦で退場処分となったエースFWバログンはベルギー戦は自動的に出場停止だったはず。ところが、FIFAが処分の執行猶予を発表。ベルギー戦出場が可能になった。
この謎の決定に、トランプ大統領が介入していたことが判明して、騒ぎは一気に大きくなった。FIFAのインファンティーノ会長に電話をかけ、処分の撤回を求めたというから前代未聞の異常事態だ。FIFA側は「決定は独自に決めたもの」と関与を否定したが、大統領はあっさりと「自供」。世界の驚きと怒り、失望は頂点に達していた。
ルールを無視して自国の選手のために暴挙に出たトランプ大統領もひどいが、自動的に課されるはずの出場停止処分の執行を猶予したFIFAにもあきれる。相手のベルギーが怒るのは当然だが、最も影響を受けたのはアメリカの選手たちだ。
エースが出場停止になれば、残された選手は「俺たちだけで勝とう」「彼が戻ってくるまで勝ち進もう」と一丸になる。ところが、そこに執行猶予が伝えられる。SNSなどで騒ぎが大きくなっていることも分かる。突然出場可能になったバログンをはじめ、選手たちが平常心でいられるわけがない。
バログンは前線で試合に入れず、選手たちは固さからミスを連発。数少ないチャンスに地元サポーターが歓声を上げるたびに、世界中でブーイングが起きる。こんな異常な試合は見たこともないし、見たくもなかった。どう考えても「大会への政治介入」なのだから。
過去にも権力者の「介入」はあった。1982年スペイン大会1次リーグのフランス対クウェート戦、フランスMFジレスが4-1と突き放すゴールを決めたが、これに貴賓席にいたクウェート協会会長でもある同国のファハド王子が激怒。ピッチの中にまで入って主審に猛抗議した。
「スタンドの笛が主審の笛に聞こえた」としてゴールの無効を求めると、主審が前代未聞のゴール取り消し判定をした。その後FIFAは事態を重く見て、王子と主審、クウェート協会を処分。W杯史に残る大きな汚点になった。今回は試合中ではないとはいえ、これに並ぶW杯の汚点になる。
昨年12月の組み合わせ抽選会から異常だった。インファンティーノ会長からトランプ大統領に贈られたのは謎の「FIFA平和賞」。最初から最後まで大統領に配慮した演出だった。大会を無事に運営するために、何を言い出すか予想もつかないトランプ大統領への賄賂にさえ思えた。
さすがに敗退したアメリカ代表を復活させるようなことはないと思うけれど、本当に何を言い出すかは予想がつかない。エンタメに思い切り振った大会は楽しく、盛り上がっていたと思うが、ルールを捻じ曲げる「政治介入」で、すべては台無しになる。まだ、大会は続く。世界中の人々が試合に、サッカーに集中できるように、外野は静かにしてほしい。
トランプ大統領はW杯をどう思っているのか。少なくとも、大会は世界中のサッカーファミリーのもので、一個人が自由にできるものではない。7月19日、紙吹雪舞うピッチの上でワールドカップを掲げる世界一の選手たちの中に、その姿がないことを切に祈っている。
(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)
荻島弘一
おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。




















