惨敗の宿舎で「なんで呼ばなかったの」 大久保嘉人の本音…沸き上がった”怒りに似た感情”

元日本代表の大久保嘉人【写真:AP/アフロ】
元日本代表の大久保嘉人【写真:AP/アフロ】

惨敗に終わったブラジルW杯 他の選手とは違った感情

「史上最強」の呼び声高く臨みながら、1勝も挙げられずグループリーグ敗退となった2014年ブラジルW杯での日本代表。「FOOTBALL ZONE」で今回の北中米ワールドカップ(W杯)の特別解説を務める大久保嘉人氏にとっては虚しさに近い感情が生まれていた。惨敗のブラジルの地で指揮官にぶつけた「最後の言葉」とは、いったいどんなものだったのか。スペインから見つめる現在の日本代表に対して、熱いエールを送った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・瀬谷宏/全4回の4回目)

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 1分け2敗。1勝もできずに終わったブラジル大会は、不完全燃焼のまま幕を閉じた。敗退が決まった後、宿舎へ戻ったチームを包んでいたのは、重く、悲痛な空気だった。大久保氏の胸の内にあったのは、4年前の南アフリカ大会のような「チームの団結」を生み出せなかったことへの悔しさと、直前でサプライズ招集された自身への歯がゆさだった。

「やっぱり2010年にあったような、あの団結っていうのはないし、なんか残念やな、悔しいなっていう思いでしたね。自分についても『なんで早く呼ばなかったんだろうな』というのはずっとありました」

 帰国の途につくアルベルト・ザッケローニ監督との、宿舎での最後のお別れの場。4年間苦楽を共にしてきた選手たちは次々と涙を流し、指揮官自身も泣きながら1人1人と握手を交わして別れを惜しんでいた。だが、その列に並んだ大久保氏は、自身の番が来ると、通訳を介してザッケローニ監督に率直すぎる思いをぶつけた。

「なんで(もっと前から)呼ばなかったの?」

 サプライズ選出ながら、結局は全3試合に出場(うち2試合はスタメン)し、前線の主力を担ったからこその“偽らざる本音”だった。もっと早くからチームに合流し、戦術を理解し、チームメイトとの連係を深めていれば、絶対に違う結果が出せたはずだというストライカーとしての強烈な矜持。このストレートな問いかけに対し、ザッケローニ監督は目を潤ませながらこう答えたという。

「早く呼べばよかった……」

 その言葉を聞いた大久保氏は、「そうだよね」とだけ返した。周りの選手が涙に暮れるなか、大久保氏の目から涙が出ることはなかった。「その悔しさっていうか、そっちの方がやっぱ強かったですね」。万全の準備をして本番に挑みたかったという思いは、涙を超えた怒りにも似た感情となって心に刻まれた。

 南アフリカW杯の頃から、本田圭佑らを中心に「W杯優勝」という高い目標が日本代表の中で語られるようになった。現在の代表チームも明確にその目標を掲げているが、当時のチーム内における「W杯優勝」という言葉の熱量について、大久保氏はロッカールームの“リアルな空気”を冷静に分析する。

「あれって結構、本気で思ってる人と、思ってない人が絶対いると思うんですよ。『優勝なんてまだ早いだろ』って思ってる人もいれば、代表選手だからこそ、そう言って示さないといけないと思っている人も多い。だから発言しているんだと思います」

 目標を「ベスト16」や「ベスト8」と口にすれば、メディアやファンから「なぜ優勝を目指さないのか」と批判される風潮があることも事実だ。だからこそ、周囲の期待に応えるために高い目標を口にしている部分もあったはずだと振り返る。

 しかし、大久保氏は「今の代表選手たちは、当時とは熱や空気感が違うかもしれない」と目を細める。その最大の理由は、選手たちの「日常」が劇的に変化したからだ。

「今はもう海外のクラブでみんな出ているし、海外のスーパースターの選手たちと今普通に試合でやっているんで。世界に対する抵抗だったり、そういうビビりみたいなのが多分ないんですよね。やっぱりチャレンジャー精神を持って行けば、より日本は力を発揮するかもしれないなと思いますね」

 かつては「世界との差」に怯え、極端な戦術で泥臭く勝ちをもぎ取った時代から、「自分たちのサッカー」を追い求めて理想と現実のギャップに苦しんだ時代へ。それらの歴史を経て、現在の日本代表は日常的に世界最高峰の舞台で戦う選手たちの集団へと進化した。

 現在スペインに拠点を置き、本場のサッカー文化やシビアな個人主義を肌で感じている大久保氏。だからこそ、日本人が本来持っている「自己犠牲の精神」や「団結力」の尊さも誰よりも深く理解している。

「海外の個人主義の環境だったら、代表チームは絶対に成り立たない。プライドを捨てて日本のためにサポートに徹することができるのは、本当に日本ならではの良さです」

 世界基準の「個の力」を手に入れつつある現在の日本代表が、南アフリカ大会で見せたような究極の「団結力」を掛け合わせた時、悲願の新しい景色が見えてくるのかもしれない。酸いも甘いも噛み分けた熱き闘将は、海を越えた熱い国から後輩たちの挑戦を温かく見守っている。

(瀬谷宏 / Hiroshi Seya)



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