最年長の異例行動「戸惑ってはいけない」 未経験の大舞台…3人が挑むW杯「しっかり見ておいて」

北中米W杯に選出されたGK陣【写真:徳原隆元】
北中米W杯に選出されたGK陣【写真:徳原隆元】

過去のW杯で一度も出番がない第2、第3GKの存在意義

 これまでの日本代表において、第2、第3GKはワールドカップ(W杯)本大会のピッチに立つ機会を得ていない。フィールドプレーヤーなど他のポジションの選手と異なり、彼らに出番が回ってくる可能性は極めて低いのが実情だ。

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 だが、めったに出場機会が訪れない立場に置かれながらも、彼らがどのような態度でチームに同行しているかは、チーム全体の雰囲気に大きな影響を及ぼす。

 直近の大会で言えば、2022年カタールW杯における川島永嗣がひときわ大きな存在感を示していた。2010年南アフリカW杯から2018年ロシアW杯まで、長きにわたり正GKとして日本のゴールを守り続けたものの、カタール大会ではベンチからチームを支える立場となり、ピッチに立つ出番を失う形となった。

 試合に出場する機会が巡ってこない状況にありながら、川島は大会の最後まで自分がピッチに出るものと想定し、入念な準備を怠ることはなかった。その川島から発せられるギラギラとした熱量や練習に対する姿勢そのものが、チーム内に適度な緊張感を生み出していたと言える。

 今回の代表チームにおけるGK陣を年齢順で見ると、27歳早川友基(1999年3月3日生まれ)、26歳大迫敬介(1999年7月28日生まれ)、23歳鈴木彩艶(2002年8月21日生まれ)という並びになる。

 これまでの日本代表においては川島という絶対的な存在もあり、練習メニューをこなす際は年齢順で行われるのが通例となっていた。実際に2014年以降の代表活動において、常に最初にメニューをこなすのは川島であった。

 過去のW杯本大会を経験した選手が1人もいない今回の編成において、練習の順番がどうなるかは1つのポイント。現在のところ、レギュラーポジションを掴んでいるのは鈴木だと考えられる。

 鈴木は2022年7月19日、19歳のときにE-1選手権の香港戦で代表デビューを飾った。もっともこのときは国内組で構成されたメンバー。A代表とも言えるメンバーの中で初出場を果たしたのは2023年10月17日のチュニジア戦だった。

 この試合では試合終盤、バックパスへの対応のタイミングが合わずにゴール前で尻餅をついてしまう。しかし相手も詰め切れず事なきを得た。だが2024年1月から2月に行われたカタールアジアカップでは全試合で先発したものの、森保一監督に「試練を与えている」と言われる、苦しいプレーが続いた。

 それでも同年7月、イタリア1部パルマに移籍するとたちまち正GKに。そして日本代表でもしっかりゴール前のポジションを勝ち取り、川島がいなくなって代表歴の浅い選手ばかりになったGK陣の中でキャップを重ねていった。

 2010年W杯で日本のゴールを守ることになった川島は当時、代表出場歴がわずか10試合。そう考えるとここまで24試合の経験を積むことができている鈴木は、決してもう経験不足ではない。

 その事実を踏まえれば、レギュラーと目される鈴木が3人の中で優先的にメニューをこなしてもおかしくない。ところが現実は違う。かつてのように年齢順を採用しているわけでもない。

 実際の練習は、大迫、早川、鈴木という順番で進められている。3人の中で最年長にあたる早川が、大迫に一番手を譲っている形だ。昨年のリーグ戦において鹿島アントラーズで抜群の安定感を誇り、チームの王座獲得に大きく貢献した実力者が、代表の舞台では一歩引いた立ち位置を取っているのだ。また、鈴木も不満を見せることなくメニューを最後にこなしている。

 この練習の順番について早川本人に話を聞く機会があった。

「僕よりも大迫選手のほうが、(下田崇コーチから年齢別代表チームで指導を受けていて)メニューをよく分かっていると思いますから、大迫選手が一番でやったほうがいいと思います。最初の選手が戸惑ってはいけないですから」

 早川は笑顔を交えながらそのように語った。自らの実績や年齢を誇示するのではなく、状況を見極めて周囲を生かすための行動を取る気配りこそが、早川の非凡な部分だと言えるだろう。

 一番手の順番を譲られた大迫のほうも、決して静かに控えているわけではない。彼の内面にもギラついた闘争心が宿っている。

「調子いいです。しっかり見ておいてください」

 上気した表情でそう語りかけてきたときの彼には、普段の様子からは想像できないほどの迫力が漂っていた。

 今回選出された3人のGKは、いずれもW杯という舞台を経験したことがない陣容だ。未知の領域に挑む中であっても、この3人が互いの特性や状況を理解し、力を合わせて大会を乗り切っていくことは間違いない。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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