佐野海舟に同僚「別惑星から来た」 エリクセンらと比較…コーチ陣も「ビックリしている」

佐野海舟「正直最初は『絶対できないだろう』と思うようなタスクばかりでした」
残留争いの渦中から、ヨーロッパを狙う位置まで這い上がった今季のマインツ。その中心にずっといたのが日本代表MF佐野海舟だった。
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シーズン序盤、チームは苦しんだ。昨季の成功を土台にさらなる飛躍を期待されながら、現実はそう甘くなかった。結果が出ず、内容も安定しない。ブンデスリーガの厳しさを真正面から突きつけられるような時間が続いた。
だが、その苦しみこそが、チームを強くした。
「チームとしてすごく成長できたシーズンだったかなと思います。去年はいい順位で、いいシーズンを過ごしましたけど、今年は最初まったくうまくいかなかった。そこからシーズンを通して、悪いときもいいときも経験できたと思うので。悪いときを乗り越えられたのは大きかったです。ただ、やっぱりこういうときにもう一個上へ行けるチームにならないといけないなと思います」
33節ウニオン・ベルリン戦後、佐野はシーズンをそう振り返った。その言葉から伝わってくるのは、苦しい時期にどう向き合ったか、その積み重ねへの実感だった。
「本当に全員の力がないとできなかったと思います。試合に出ている選手だけじゃなくて、普段から練習している選手、試合に出られていない選手、怪我をしている選手、いろんな人の思いを背負って一試合一試合やってきたので、全員の力かなと思っています」
マインツは決してスター軍団ではない。個の能力だけで押し切れるチームでもない。だからこそ、全員で戦うことに価値がある。
ただ、佐野がいなければ、マインツの復調はありえなかったはずだ。それくらい大きな仕事をしていた。中盤の広大なスペースを一人で管理し、危険を察知して潰し、ボールを前進させ、攻撃のテンポを作る。ときには最終ラインの脇までカバーし、ときにはゴール前へ飛び出す。求められるタスクはあまりにも多い。
しかも、それをブンデスリーガという世界最高峰レベルの強度のなかでこなさなければならない。
「佐野さんはこれまでいろんな試合のあとで、攻守のバランスについて話をしていました。その辺りの成長についてはどう思いますか?」という僕の質問に対して、佐野は少し考えてからこう答えてくれた。
「真ん中一人でやる役割は、正直最初は『絶対できないだろう』と思うようなタスクばかりでした。でも、自分のなかでしっかり吸収して、少しずつ良くなっていったと思います。タスクがたくさんあるなかでも、ああいうふうにバランスを見ながら、攻撃でも変化を出せるようになったかなと。そういう意味では、自分としてはすごく成長できたかなと思います」
シーズンを通して自分のものにしていった。戦術理解、状況判断、ポジショニング、運動量、技術、メンタル。あらゆる要素を高いレベルで融合させながら、試合を重ねながら進化していった。
だからこそ、周囲の評価は驚くほど高い。
元ハダースフィールド(プレミアリーグ)、マインツ、フュルト監督のヤン・ジーベルト氏と話をしたときに、佐野を次のように絶賛していた。
「僕はマインツでU-23監督もしていたし、育成ダイレクターの仕事もしていた。マインツには当時からいるスタッフがまだたくさんいる。いまも時々コンタクトをとるんだけど、そんなときよくカイシュウの話になるんだ。コーチ陣もみんなビックリしている。フィジカルを武器に守備が強い選手はいる。推進力を武器に攻め上がりが得意な選手がいる。パスをうまく展開できる選手がいる。カイシュウはそれ全てを高いレベルでできるんだからすごい。しかもまだまだ成長途中だから底が知れない」
一つの武器に秀でた選手は多い。だが、複数の能力を高水準で兼ね備え、それを試合の中でバランスよく発揮できる選手は限られる。しかも佐野は、チーム全体を成立させるために、誰かがやらなければならない仕事を引き受け続ける。その献身性があるからこそ、攻守両面の能力がより際立つ。
同僚のシェラルド・ベッカーの言葉も印象的だ。
「僕はこれまで数多くの素晴らしいボランチの選手とプレーをしてきたんだ。マルティン・ズビメンディ、ミケル・メリーノ(ともに現アーセナル)、クリスティアン・エリクセンとはアヤックス時代に同僚だった。でもカイシュウは何でもできる。まるで別惑星から来たかと思われるようなプレーを見せることさえある」
世界的なミッドフィールダーたちを知るベッカーだからこそ、その言葉には重みがある。ただ、そんな高評価のなかでも、佐野自身は驚くほど冷静だ。
ウニオン戦の失点場面。相手カウンターに対して、不利な状況から最後まで全力で戻っていたのは佐野だった。必死に足を伸ばしたが、あとわずか届かない。多くの選手なら「仕方ない失点」と割り切るかもしれない。だが佐野は違った。
「ああいう人が嫌がることをやれるのが自分の良さだと思っています。ただ、絶対止めたかったので悔しいです」
この言葉に、彼の本質が表れている。苦しい局面で責任から逃げないこと。その積み重ねが、今季の佐野をブンデスリーガ屈指のボランチへ押し上げたのだ。
ブンデスリーガは残り1試合。怪我なくシーズンを締めくくり、その先にはワールドカップが待っている。攻守のバランスを整え、誰かの穴を埋め、苦しいときほど走れる選手。世界を驚かせる準備は、もう整いつつある。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。
















