遠藤コーチから指名「1番でいく」 脳裏に浮かんだ苦い記憶…青黒のエースがぶっつけ本番で示した覚悟

ガンバ大阪の宇佐美貴史【写真:柳瀬心祐】
ガンバ大阪の宇佐美貴史【写真:柳瀬心祐】

岡山戦で71日ぶりに復帰したG大阪の宇佐美貴史

 ガンバ大阪のエース宇佐美貴史が71日ぶりにピッチへ帰ってきた。セレッソ大阪との百年構想リーグ開幕戦で左足を負傷し、治療とリハビリにあてていた宇佐美は、4月19日のファジアーノ岡山戦で復帰。いきなり決めたアシストを含めて、AFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)決勝を控えるガンバに何をもたらすのか。(取材・文=藤江直人)

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 画竜点睛の思いを抱かずにはいられなかった。ドイツ出身のイェンス・ヴィッシング新監督に率いられる今シーズンのガンバ大阪の戦いぶりを、ピッチの外から見てきた宇佐美貴史はこう語っていた。

「スタイルが染みついてきたというか、みんなもやりながら手応えを感じているんじゃないかな、と」

 同時にもどかしさや、あるいは歯痒さといった感情が頭をもたげてきたとこんな言葉を続ける。

「最後の一本のパスが、最後のトラップが、最後のアイデアが、というのは見ながらすごく感じていた。そこはやはり自分にしかできないものがあると思っているので、そこを落とし込んでいければ」

 敵地・ヤンマースタジアム長居で2月7日に行われた、セレッソ大阪とのJ1百年構想リーグ地域リーグラウンドWESTグループ開幕戦でトップ下として先発フル出場。両チームともに無得点のまま突入したPK戦を5-4で制し、幸先いいスタートを切った新体制のガンバから突如として宇佐美の姿が消えた。

 6日後の13日に、セレッソとのPK戦で5人のキッカーに名を連ねなかった宇佐美の怪我が発表された。左ハムストリングと左ヒラメ筋の肉離れ。全治期間などの詳細は明かされなかった。宇佐美が振り返る。

「1か月半くらいで戻れるかな、と思ったんですけど、ちょっと難しかったですね。いかんせん再発が多い箇所なので。痛みがぶり返す、といった症状もなかったんですけど、それでもいい状態にならないと(ペースも)ちょっと上げられない。MRIなども撮りながら最短で来たつもりですけど、まあ2つ(の肉離れ)だったので」

 戦列復帰を果たしたのは、敵地で15日に行われたバンコク・ユナイテッド(タイ)とのACL2の準決勝第2戦だった。リザーブに名を連ねた宇佐美は、ガンバが3-0で快勝し、第1戦との合計を3-1で逆転勝ちを収めた展開のなかでピッチに立たないままチームの決勝進出を見届けた。

 しかし、中3日で迎えた19日は状況が違った。ホームのパナソニックスタジアム吹田に岡山を迎えた百年構想リーグ第11節。前半に1点ずつを取り合い、その後は一進一退の展開が続いていた後半16分にヴィッシング監督が最初の交代カードを切る。同時に投入された3人のなかに宇佐美も含まれていた。

 指揮官からは「君のポジションで出るから」と指示を受けた。1トップのデニス・ヒュメットに代わった宇佐美は主戦場のトップ下に入り、元チュニジア代表のイッサム・ジェバリが一列前の1トップにシフトした。

「同時に『ボールをたくさん受けて、ボールの流れも作りながら決定機を』とも言われていましたし、自分でもそう思っていた。最初のボールタッチから『今日は失わずにいけそうだな』というのもありましたね」

 過密日程下で11対11の実戦的なトレーニングも積めなかった。まさにぶっつけ本番と言っていい状況で、宇佐美の脳裏にひらめいた好感触は、ピッチに立ってからわずか4分後の同20分に眩い輝きを導いた。

 敵陣の右サイドで何度もボールに触り、逆サイドへ展開する流れを演出しながら自身も左サイドへとポジションを移していった直後。美藤倫からパスを受けた宇佐美が振り向きざまに右足を振り抜いた。

 自身から見て右斜め前方、バイタルエリアにいたジェバリへのグラウンダーのパス。百年構想リーグで無得点が続いていたジェバリが放った、巻いた軌道を描いた技ありのシュートが岡山ゴール右隅へ吸い込まれた。

「ああいう斜めのパスがもっと、もっと増えればと思っていました。いいスピードで、いい質のパスをジェバリの足元につけられたし、あとは決めてくれたジェバリのゴールだったと思っています」

 復帰戦で決めたアシストをこう振り返った背番号7は、さらにこんな言葉もつけ加えている。

「ジェバリはどちらかと言うと9番(のストライカー)というよりも、ああいったエリアでフラフラしたい選手なので。手前にも多くの選手がいたなかで見えていたし、そのなかでジェバリを選択した感じですね」

 試合は7分後の27分に岡山が追いつき、2-2のまま90分間を終えてPK戦へと突入する。セレッソとの開幕戦中に、キッカーを務められないほどの怪我を負ったPK戦へ。遠藤保仁コーチから声がかかった。

「ヤットさんから『1番手でいく』と。そう言われたので『1番なのか』という感じでした」

 こう振り返った宇佐美が思い出したのは昨年7月の天皇杯3回戦。モンテディオ山形のホームに乗り込んだ一戦は延長戦を終えて4-4でPK戦へ突入し、1番手の宇佐美の失敗が響いて3-4で敗れた。

「自分がどれだけ余裕を見せられるか。続く選手たちを安心させてあげないといけない、とは思っていたので、なるべく余裕をもったボディランゲージを出すというか、そういうのは意識していました」

 悔しさを味わった山形戦と同じくガンバが先蹴りのPK戦。岡山の守護神レナート・モーザーの逆を突き、ゴール左へしっかりと決めた宇佐美にけん引されるように、5人全員が決めたガンバが5-3で制した。

 勝利の余韻が残る試合後の取材エリア。宇佐美は表情ひとつ変えずに不敵な言葉を残している。

「何か(百年構想リーグの)あのPK戦やったら、まったく緊張しないですね」

 岡山戦ではシュート0本だった。この点を受けて、こんな言葉もつけ加えている。

「ギアをあげていって突破してシュート、みたいなところもどんどん出していきたい。今日の感じだと、そこにもっとトライしていってもいけそうな感じは何となくしている。プレーの質の高さであったり、アイデアであったり、結果であったり、そういうところでしっかりとサポートして、チームを助けていきたい」

 ポルトガル代表のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウドを擁するアル・ナスル(サウジアラビア)とのACL2決勝が、5月16日(日本時間同17日)に敵地キング・サウード・ユニバーシティ・スタジアムで待つ。日程が重複する関係で岡山戦から中2日の22日に前倒しされる形で行われた、アビスパ福岡との百年構想リーグ第17節でも、宇佐美は1-2とビハインドを背負った後半17分から投入されている。

 岡山戦とは異なりジェバリに代わった宇佐美は、南野遥海とヒュメットの2トップの背後でトップ下としてプレー。自らも2本のシュートを放ったものの、ガンバはゴールをあげられないまま敗れた。

 復帰戦で高度なプレーの質とアイデアを示した宇佐美は結果を、つまりはガンバの90分間での勝利を貪欲に追い求めるフェーズに入っている。ACL2決勝までには先発し、可能な限り長くプレーできる状態にもっていく。そのうえで「誰と組もうがしっかりと合わせられる」と絶対的な自信を蘇らせながらガンバをけん引していく。

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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