若手の海外流出「致し方ない」 直面するJリーグの空洞化…鹿島重鎮が警鐘「一番の要因は放映権」

大きく変化した日本代表への“パスウェイ”
かつて、高校サッカーや大学サッカーの有望株にとって、鹿島アントラーズのユニフォームを着ることは、日本代表への最短切符を意味していた。だが、そのパスウェイ(経路)は、今や劇的な変容を遂げている。
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「選手の価値観は変化してきました。昔はJリーグの強いチームに行って、勝って、評価されるというのが選手たちの目標でした。その中で海外に行く選手もいるけれど、やはりJリーグ優勝を目標にして、そこから代表に選ばれたいというのが選手の思い描いていた道だったんです。ですから、クラブは編成を考えるとき、スカウトが良い選手を取ってきて育成して、3、4年で主軸にしていく、そこから代表選手を送り出す、というような在籍期間を考えていました」
この変化は、Jリーグのブランド力、ひいては存在意義を根底から揺さぶりかねない事態である。選手にとって、Jリーグはもはや通過点であり、目的地ではなくなりつつある。鹿島アントラーズの強化責任者として数多くのタイトル獲得に邁進し、現在はクラブのフットボールアドバイザーを務める鈴木満氏。Jリーグのフットボール委員会の委員としてリーグ全体の競技力向上にも携わる立場から、鈴木氏はこの現状を「致し方ない」と受け止めつつも、一つの危機感を抱いている。(取材・文=森雅史/全5回の3回目)
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「昔は強いチーム、たとえば鹿島に行ってレギュラーになれば代表に一番近いというパスウェイがちゃんとあったんです。ところが今は海外に移籍しやすい時代になった。たとえクラブで主軸になっていなくても、レギュラーになったらすぐ海外に行けるチャンスが出てきます。すると選手のパスウェイの考え方や価値観が、『強いチームに行くより早く試合に出て、海外に行って、海外で活躍して、代表に呼んでもらう』というパスウェイに変わってきている。環境が昔とはまったく違ってきました」
日本代表が強くなり、海外からの評価が上がって移籍しやすくなったことは、日本サッカーの進歩の証でもある。しかし、実績も伴わないまま、ただ早く海外へ行けばいいという風潮には注意が必要であると鈴木氏は警鐘を鳴らす。
「実績もなく、高校や大学を出てすぐ海外に行ってしまったり、アカデミーを途中で辞めて海外に行ってしまったりする選手も増えてきました。それが本当にいいのかどうかは、しっかり、これまでの実績を分析しなければならない段階です。方向性を分析した結果をアウトプットしながら、選手の指導につなげなければいけない。
今、選手はあまりにも早く海外に行きたがっていると思います。私は早ければいいというものではないと思っている部分もあります。それに『海外に行ったら代表に近づく』ということではいけないと思います」
若手が海外を目指す流れを止めることは困難である。ならば、Jリーグ自体の価値をヨーロッパのトップリーグの背中が見える位置まで引き上げるしかない。鈴木氏は、野々村芳和チェアマンが掲げる「作品としてのフットボール」の追求に、その解決策を見出そうとしている。
「Jリーグの価値がヨーロッパの5大リーグにもっと近づいていかなければいけません。そのためにたとえば『ABC契約』をなくして、新人の年俸も上げたりするなどJリーグはいろんな施策を打っています。そうやって待遇面でも改善されてきました。あとはJリーグ全体の底上げをしていかないと、今の海外流出の流れはなかなか止まらないと思います」
「Jリーグ全体の底上げ」とは具体的に、「インテンシティの高い試合を増やすこと」「交代時間などを短縮し、アクチュアル・プレイング・タイムを伸ばすこと」だと鈴木氏は言う。試合を見てくれる人に緊張感を提供するため、あらゆるレベルでの改革を進めている。
「Jの試合内容の改善はすごく必要だと思っています。今、Jリーグでは野々村芳和チェアマンが試合のことを『作品』と言っています。その『作品』の中で魅力的なサッカーをやるために、たとえば交代にかかる時間などを少なくして、アクチュアル・プレイング・タイムを伸ばすためにはどうするかとか、見ている人が緊張感を保てる試合を提供するためにはルールをどうしたほうがいいかなどの議論を今すごくやっているんです。今年は特にそれがJリーグのテーマになっています」
一方で、経営規模の格差という現実が重くのしかかる。1993年当時、Jリーグのクラブとヨーロッパトップクラブの経営規模にそれほどの差はなかった。1995年にバイエルン・ミュンヘンからジョルジーニョを鹿島が引き抜けたのも、そのためであった。しかし今、放映権料の違いが生んだ格差は10倍以上に開いている。
「ジョルジーニョを獲得した当時、年俸の差はあまりなかったし、移籍金も今ほど高騰していませんでした。今、クラブ経営の格差は、世界のトップクラブだったら1000億円などの規模なのに対して日本は100億円。10分の1です。そういう差をつけた一番の要因は放映権です」
国内組が少なくなったことを嘆くのは容易だが、それは日本サッカーが置かれたステージが変わったことを意味している。しかし、空洞化する国内リーグに未来はない。Jリーグの「作品」が高額な放映権料で買われるくらい価値を持てば、Jリーグはまた別のステージに突入するはずだ。
Jリーグが「育成の場」から、世界と比肩する「作品の場」へと脱皮できるか。鈴木氏の視線は、グラウンド上の戦術を超え、放映権や経営規模といったリーグの存立基盤そのものに向けられている。クラブもまた、ビッグネームを受け入れ、機能させるだけの力を備えなければならないのである。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。





















