女子2部なのに…観客3万1736人に選手感激「足が震えた」 史上最多動員を記録した理由

VfBシュツットガルトのサポーター【写真:ロイター】
VfBシュツットガルトのサポーター【写真:ロイター】

VfBシュツットガルトと1.FSVマインツ05の一戦に、3万1736人が来場した

 3月21日、女子ブンデスリーガ2部で、歴史的な一戦が実現した。VfBシュツットガルトと1.FSVマインツ05の一戦に、実に3万1736人が来場。女子2部リーグとしては史上最多の観客動員を記録した。

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 赤と白の旗が揺れ、「VfB!」の大合唱がスタジアムを包み込む。その光景は、従来の女子サッカーのイメージを大きく塗り替えるものだった。

「ファミリーとして、大きなサッカーの祭典を一緒に祝おう」

 クラブらのメッセージは、そんなファンの心にスッと届いたことだろう。1部昇格争いというスパイスには、ファンの好奇心をくすぐるものもある。クラブを愛するファンの思いが、自然とスタジアムに足を運ばせる。「自分も支える当事者の一人」というアイデンティティがベースにある、ドイツクラブ文化が誇るコミュニティのすごさを改めて感じさせられる。

 そしてピッチに立った選手、そして指揮官たちが感じ取ったものが、現在の女子サッカーの到達点と、未来への可能性を物語っている。

 マインツを率いる山下喬監督は、試合後にこう振り返った。

「女子サッカーにとってもすごくいい試合になったんじゃないかなと思います。前半は相手も僕たちも、雰囲気というか緊張感もあって、お互いにあまり自分たちのサッカーができていなかったけど、後半は徐々に雰囲気にも慣れて、普段のプレーができるようになってきました」

 女子サッカーの社会における認知度は欧州でどんどん上がってきているのは間違いない。昨夏スイスで行われた女子欧州選手権では2試合を除いて全ての試合でスタジアムは満席だったし、ドイツサッカー連盟(DFB)によると、女子ブンデスリーガのライブ配信の平均視聴者数は7%増加。昨季、全132試合のうち32試合は地上波で放送され、平均で約37万人が視聴した。今季平均入場者数は約2700人。これはイングランドのトップリーグの6658人に次ぐ記録となっている。ブンデス2部だともちろんその数字はさらに低くなる。

 男子サッカーと比べるとまだまだ改善点は多いだろうが、それでもブンデス女子1部開幕戦のバイエルン対レバークーゼンはアリアンツアレーナで開催され、実に5万7762人が詰めかける。トップゲームに対する注目度は非常に高い。

 今回のシュツットガルトとマインツの一戦が象徴しているのは、ドイツ女子サッカーの確実な成長だ。

「唯一無二のものです。女子サッカーにとって大きな一日になりました」と、感慨深げに語ったのは、シュツットガルトで女子・少女サッカー部門スポーツディレクターを務めるサッシャ・グラス。

 シュツットガルト選手のダフィナ・レジェピはこう振り返る。

「最高の気持ちでした。2部でこんなにも多くの観客が私たちを応援するために来てくれるなんて。本当に素晴らしかったです」

 マインツのキアラ・ブジアーネは、感動を口にした。

「これほどの雰囲気のなかでプレーできるのは、本当に素晴らしい気分です。やっぱり普段とは違う感覚で、最初は足が少し震えていましたね。みんな最初は少し緊張していました」

 同じくマインツのヨハンナ・ベルクも語る。

「ピッチに出たとき、いくつかブーイングもありましたが、それをポジティブに捉えて、この雰囲気を吸収しようとしました。約3万2000人というのは、2部リーグとして信じられない数字で、本当に素晴らしいイベントです。このチームと一緒にこの舞台を経験できて嬉しいです」

 試合はマインツが4-2で勝利し、昇格圏の2位にいたシュツットガルトが敗れたことで、昇格争いが混戦化。だがそれ以上に、ブンデス女子2部がここまで世間の注目を集めたという事実が大きい。

 山下も、その特別性を強調する。

「女子サッカーはまだまだ課題はありますけど、こうやって注目が集まることはすごく大事だと思いますし、いい方向に向かっていけばいいですよね。プロを目指す選手たちが、こういう大勢の観客のなかでプレーするのは醍醐味だと思います。注目が集まるなかで戦う経験って、なかなかできるものではないので、選手たちはこの経験を通して成長していくと思います」

 重要なのは、こうした試合が特別で終わらないことだろう。すべての試合が満員になるのはまだまだ難しいし、無理な取り組みは長期的なデメリットにもなる。いまシーズンを左右する大事な試合、クラブ間の歴史が交錯する文脈を持ったゲームにおいては、数万人規模の観客が集まるだけの下地があるのだ。

「普通できないじゃないですか。こういう機会が増えて、より発展していけばいいなと思います」

 山下が口にする「普通」という言葉。それが過去のものになったとき、ドイツの女子サッカーは次のステージに進んだということになるのだろう。

 シュツットガルトで生まれた3万人の光景は、いまは一過性のものかもしれないが、偶然ではない。あのスタンドに広がっていたのは、「女子サッカーをもっと見たい」「もっと支えたい」という意思そのものだった。

 その思いはまた次の観客を呼び、次の舞台を生み出していくはず。あの日のスタジアムにあった熱は、やがて日常へと変わっていくのかもしれない。

 ドイツの女子サッカーは今、確かにその入り口に立っている。前途はまだまだ多難だろう。それでもその先に見える希望の輝きをとらえることができたというのが、素晴らしいことではないか。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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