日本では「イエローやレッド=悪」 欧州との違い…アナリストが痛感「戦略上とても大切」

キールでアナリストとして活動する佐藤孝大【写真:(C) Holstein Kiel】
キールでアナリストとして活動する佐藤孝大【写真:(C) Holstein Kiel】

ドイツ2部キールの佐藤孝大氏「どちらが勝利に近づく選択かがテーマに」

 元日本代表アナリストで、現在はブンデスリーガ2部キールでアナリストとして奮闘する佐藤孝大氏は、欧州クラブの内部に身を置いたことで、日本との情報格差の大きさを痛感したと語ってくれたことがある。

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 近年は映像やデータの共有が進み、日本にいながらでも欧州サッカーを分析することは可能になっている。しかし佐藤は、「外に出てくる情報はまだまだ表層的なものに過ぎないことが多い」と指摘する。トレーニングの意図や戦術の背景にある意思決定のプロセス、チームとして、さらには土壌としてのサッカーの捉え方といったコアの部分は、伝えるのが難しい部分でもある。

 だが、この見えない部分にこそ、日本と欧州の本質的な違いがあるのではないだろうか。キールで佐藤と会い、改めてそのテーマで話をすることができた。

佐藤「例えば、戦術的ファウルに対する考え方ですね。日本では『イエローカードやレッドカード=悪』という価値観が根強いかもしれませんが、欧州では少し解釈が異なるんです」

 誤解なきように伝えると、「フェアプレーなんてどうでもいい」と思っているわけではない。スポーツにおける重要な要素の一つにフェアネスがあるとは、どんな指導者と話をしても挙げられる点だ。

 サッカーというのはチームスポーツであり、戦略ゲームだ。ゲームである以上、プレーする人は誰だって勝利にこだわる。ではどのようにこだわるべきか、という点で考えたときに、サッカーで許されるルールを理解したうえで、その範囲内で最大限に勝利確率を高める行動を選択している、というのが欧州に確かにある考え方だ。

 ボール扱いの技術を競い合うボールゲームではなく、ピッチ全体におけるエリアの攻防、優位性を巡る駆け引きがあるうえで、技術の使い方が求められる戦略ゲームという解釈がベースにあるのだとしたら、誰をどこに誰と配置して、どのようにしかけて、どこにきっかけを作るのか、逆にどうやってきっかけを作らせないようにするのか、が、サッカーというゲームをするときに、誰もが念頭に置かれているベースとなる。

佐藤「だから、相手に試合の流れをつかまれるような場面で、一度その流れを断ち切ることは戦略上とても大切なんです。サッカーというゲームでは、イエローカード2枚で退場処分。逆に言うとそれぞれ1枚はもらっても警告止まりというゲームルール設定になっています。

 例えばですが、戦術的ファウルをすべきか、どうかの判断を迫るようなトレーニングデザインをして、エラーが起こったらフリーズをかけて意図を共有したり、ミーティングでもよく戦術的ファウルについて取り上げられたりする事はこちらにきて感じた大きな違いの1つです。

 試合開始10分で相手に決定機を迎えられた場面、レッドカード覚悟で止めるべきか、それとも1失点を受け入れて11人で戦い続けるべきか、といったテーマでディスカッションが行われたりもしました。どちらが勝利に近づく選択かがテーマになるんです」

 取ったコマを再度使える将棋と使えなくなるチェスだと戦い方も変わってくるのと、同じような考えといえる。共通理解があるから、欧州の成人サッカーで戦術的ファウル自体にものすごく怒ることは少ない。感情的に文句を言うのは、それでイエローカードが出なかった場合。何らかのデメリットを被ることなく、こちらの優位性が止められただけでは納得はいかないからだ。

 そして大事なのは、どのようにファウルをするのか、だ。相手を怪我させるのは誰もが好まないし、それをしてまで無理に止めるのはNGというのがサッカーにおける大事なルール。

 25節ザンクトパウリとフランクフルト戦で、日本代表MF堂安律が、相手選手の突破を必死に食い止めようと戦術的ファウルでつぶしたが、足を滑らせて不運な形での交錯プレーとなってしまった。その際にパウリ選手が足首を負傷し、途中交代を余儀なくされた。これにパウリのアレクサンダー・ブラッシン監督が激怒。ファールされたことに、ではない。戦術的ファウルの仕方そのものがラフだった点だった。

佐藤「欧州に来る選手の多くが、こうしたベーシックな考え方・習慣への順応に苦労する例も少なくはないんです。ただ、ある程度日本でもそうしたサッカー観に適応できるようにしようといっても、数チームだけがそちらの価値観でプレーをしていたら、もめごとは逆に大きくなってしまいますよね。

 一方のチームが戦術的合理性を重視し、もう一方が道徳的な基準でプレーしていれば、試合は成立しない。共通の前提があるからこそ、駆け引きが成立し、競技としての質が高まるんだと思います」

 道徳的意義を無視しろと言っているわけではない。サッカーというスポーツのなかで何がオッケーで、何がNGなのかの線引きを詳細に明確に定めたうえで、同じ価値観・共通認識でリーグを戦えるようになることが必要となるのだろう。

 同時に、育成年代のサッカーと、そうしたプロレベルのサッカーを切り分けて考える必要もある。ここは極めて重要なところだ。プロの世界では良くも悪くも、勝利に直結する合理的な判断が求められる。だが育成年代で大事なのは、選手の成長と成熟。過度な勝利至上主義やそのための身体的・心理的負荷過多は、選手の成長を阻害するし、場合によっては壊す恐れもある。

 それこそそれぞれの年代で身につけておくべきサッカー理解や戦術的バリエーション、個の活かし方と伸ばし方、チームタスクを理解したうえで、自分らしさをどう出すかというバランス感覚を養う機会がないままになってしまう。それに育成年代では戦術的ファウルを使わずにどのように相手の攻撃を食い止めるかへの意識が高いほうが望ましい。止めなければならない状況を知り、止めれなければどんなことが起こるのかを知る方が大事な経験ではある。

 文化や習慣とも密接な関係があるこの差をどう解釈して、どう取り組み、どのように戦うのか。とても興味深いテーマではないだろうか。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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