「成長が遅れている」パリ世代の真価 北中米W杯の鍵…日本代表で行われた「テスト」

パリ五輪世代の鈴木彩艶、鈴木淳之介、鈴木唯人、藤田譲瑠チマ、佐野航大
伊東純也(ゲンク)の値千金の決勝弾で2026年北中米ワールドカップ(W杯)出場国・スコットランドにで1-0の勝利を挙げた日本代表。3月28日に敵地・グラスゴーで行われたこのテストマッチは「さまざまなテスト」という意味で非常に興味深いものとなった。
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11人交代というレギュレーションもあり、森保一監督はまずキャップ数10以下の若手5人を先発起用。連携面の成熟度が低いチーム編成ということもあり、序盤はギクシャク感が見て取れたが、開始9分に相手エースのスコット・マクトミネイ(ナポリ)の決定機を守護神・鈴木彩艶(パルマ)が封じたことで、チーム全体が勢いを取り戻した。
その後、15分過ぎからは日本が主導権を握り、ボランチの藤田譲瑠チマ(ザンクトパウリ)、シャドウの鈴木唯人(フライブルク)と佐野航大(NECナイメンヘン)のパリ五輪世代がアグレッシブな姿勢をアピール。10分に藤田が強烈なミドルシュートをお見舞いすると、佐野航大も30分、40分に立て続けに惜しいフィニッシュのチャンスを迎えた。
さらに鈴木唯人も42分には前田大然(セルティック)のラストパスを受けて鋭いドリブルシュートを放つ。これらはいずれもネットを揺らせなかったが、「何としても2026年W杯に滑り込みたい」という彼らの強い思いが色濃く伺えたのだ。
田中碧(リーズ)と初めてボランチコンビを組んだ藤田は「初めて一緒に試合に出たんで、そういうなかでは上々だったのかなと思います」と手ごたえを口にした。そのうえで、敵の強度や迫力に圧倒された昨年9月のアメリカ戦(コロンバス)からの成長に前向きに言及した。
「自分自身、うまくチームを動かしながら、自分もボールを触りながらリズムを作れたんで、そんなにストレスを感じることなくプレーできました。欧州5大リーグでしっかりプレーできている感覚もありますし、インテンシティのところもブンデスでだいぶ上がってきている。それもプラスに働いたのかなと思います」
鈴木唯人も同様な前進を実感しているという。鈴木もまた前回招集は昨年9月のアメリカ遠征だったが、不完全燃焼のパフォーマンスにとどまり、そのまま半年間代表から遠ざかった。けれども、今季から赴いたフライブルクでリーグ戦とUEFAヨーロッパリーグ(EL)でフル稼働している今回は「今まではいい状態で代表に来たことがなかったけど、今は違う」と自信満々でピッチに立つことができた。
本人も「今までの他の代表戦に比べれば一番力を出せたかなと。ただ、即席で集まったチームだったんで、スタメンと言われる人たちの中に入ればもっとできる自信はあります」と目をギラつかせており、「自分も主力の中でやれる」と強気のマインドを持てている様子だ。
一方の佐野航大は、比較的ポジティブだった2人とは異なり、「きょうのアピール度? 全然低いっすね。何点かもよく分からないけど、全然満足いかなかった」と辛口の自己評価を下していた。特に決定機を決め切れなかったことに対し、人一倍悔しさが募ったようだ。
「後半に出てきたメンバーは点を取ってチームを勝たせた。そこが差だと思います。シンプルに決め切るところは彼らの強み。自分もそういう部分を強みにしていかないといけない」と本人はここ一番で試合を決められる存在にならなければ、代表定着、W杯行きは叶わないと考えているのだろう。
そういった高い意識を持ちながら代表活動に取り組んでいれば、今後に希望が見えてくる。佐野航大は「31日の次戦・イングランド戦(ロンドン)こそはやってやる」と気持ちを切り替えているに違いない。
彼ら3人が進化を示したことで、「成長が遅れている」と問題視されていたパリ世代の底上げがようやく進みそうな雲行きになってきたのは確か。それは日本代表にとっての朗報と言っていい。
ご存じの通り、この世代は久保建英(レアル・ソシエダ)1人が突出している状態が長く続き、2022年カタールW杯参戦者も彼1人だった。その後、第2次森保体制に突入してから鈴木彩艶が正GKの座を奪取。2026年W杯予選の主力が2人に増えた。
そこに加わるように、2025年途中から鈴木淳之介が爆発的に成長。10月のブラジル戦(東京)撃破の立役者となった。今回のスコットランド戦でも伊東の決勝弾を誘発する左サイドのオーバーラップとクロスを見せており、W杯行きをほぼ確実にしたと言っていい状況だ。
この3人を追いかけるように、藤田、鈴木唯人、佐野航大が続けば、チームに新たな活力と勢いがもたらされるはず。W杯メンバー発表前に残された代表活動は31日の次戦・イングランド戦(ロンドン)しかないが、その大一番で出番が訪れればもちろんゴールに突き進む必要がある。
今回、初キャップでアシストをつけた塩貝健人(ヴォルフスブルク)のガムシャラなアピールは1つの見本。強烈なインパクトを残したければ、やはり守備のタスクを精力的にこなしたうえで、前へ前へとゴールに突き進むしかない。
そして、所属クラブでも4、5月にかけてラストアピールを続けることが肝要だ。南野拓実(モナコ)や守田英正(スポルティング)ら30代ベテラン勢の怪我やコンディションにもよるが、同じ実力を示していれば、森保監督は伸びしろの大きな若い選手を必ず抜擢する。そう仕向けるように、パリ五輪世代にはもっともっと「自分がやるんだ」という自覚と責任感をピッチで示すことを強く求めたい。
森保監督が長く指導してきた東京五輪世代だけに頼っていたら、日本はW杯で対戦国に徹底的に分析され、厳しい結果を強いられるかもしれない。その流れを変えられるのは、やはり若い力だ。ロサンゼルス五輪世代の後藤啓介(シント=トロイデン)と塩貝も鼻息が荒いが、彼ら年下に負けない存在価値を藤田や鈴木唯人が示してくれれば理想的。そうなるように期待しつつ、一挙手一投足を見守りたいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。




















