イングランドは「強いことは強いが」 平凡で退屈な伝統…トゥヘル監督は打破するのか

イングランド代表を率いるトーマス・トゥヘル監督【写真:ロイター】
イングランド代表を率いるトーマス・トゥヘル監督【写真:ロイター】

イングランド代表は「新しい伝統」を打破するのか?

 イングランド代表は北中米ワールドカップ(W杯)欧州予選を8戦全勝で通過している。さらに失点はゼロ。得失点差22は途方もなく強力に思われるかもしれないが、予選のプレーぶりは実は結果ほど強烈ではない。

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 昨年1月から指揮を執るトーマス・トゥヘル監督は予選中に「6番、8番、10番がそれぞれのプレーをしてくれればいい」というコメントをしていたそうだ。つまり各ポジションの選手がそれらしいプレーをして役割を果たしてくれれば、チームとして問題なく機能するはずだ、という意味だろう。

 予選のイングランドはまさにそういうチームだった。アンカーポジションの「6番」にエリオット・アンダーソンを見つけ、「8番」のデクラン・ライスは循環器の役割を果たし、「10番」モーガン・ロジャースが右側のハーフスペースで前線と絡む。中盤3人の特徴とプレーぶりはポジション番号どおり。すべての選手がポジションどおりに、つまり普段のクラブと同じプレーをすれば全体の破綻はなく、それだけで予選通過には十分だった。

 イングランドは実に整然としていて混乱がない。悪い言い方をすれば変化や抑揚、驚きがなく、平凡といってもいいプレーぶり。だが、それだけで対戦相手が勝手に崩れていく。これは1990年代以降のイングランドらしい戦い方である。

 イングランドの全盛期は1920年代。欧州各国との対戦では大量点での勝利が当たり前。サッカーの母国は隔絶した存在だった。しかし欧州大陸と南米が力をつけてくると、たちまち優位性は削られていった。1950年にW杯初参戦すると、アマチュアの米国に0-1と負けてグループリーグ敗退。1953年には英国勢以外無敗だったウェンブリーで当時世界最強のハンガリーに3-6と叩きのめされた。このとき、ロングボールとハードワークのサッカーが時代遅れになっていることに気づかされた。トラウマ的な敗戦である。

 それから長い迷走が続いた。イングランドの伝統と欧州大陸的な洗練された組織プレーの間で揺れ続け、ようやく1990年代にコンチネンタル式をキャッチアップできる人材を輩出するようになる。1966年のW杯初優勝はあるものの、2大会連続の予選落ち(1974、78年)、2次リーグ敗退(1982年)を経て、1986年にベスト8、1990年は4位と上昇。1994年は古き時代へ回帰した影響もあって予選敗退となったが、それ以降は本大会で安定した戦績を続けていて2018年は2度目の4位となった。

 1990年以降のイングランドはモダンなチームとして新たな「伝統」を築きつつあるのだが、毎回どこか魂が入っていないような感じがしてならない。強いことは強いが試合はだいたい退屈で、セットプレーで勝ち抜くようなイメージ。極めて優秀な選手が揃うようになったわりには戦い方が堅実の域から出ない。昔の荒々しい伝統は漂白され、借り物のようになっている気さえするが、これが新しいイングランドの形といえばそうなのだろう。

 トゥヘル監督は新しい伝統を尊重しながら文句なしの戦績で予選を通過した。ただ、堅実なだけの監督ではない。左右対称の様式美さえ漂うスタイルを変える可能性はあると思う。

「10番」は過剰なほど人材がいる。予選の主力はロジャースだったが、ジュード・ベリンガム、エベレチ・エゼ、フィル・フォーデン、負傷で長く遠ざかっていたコール・パーマーも復帰する。5人の傑出した「10番」のうち4人をベンチに座らせるだろうか。トゥヘル監督はこれまでの采配からみると、混沌も不均衡も厭わないタイプだと思う。時間のなさから便宜上、予選は安全策を採ったのではないか。本大会までに変化があるのかないのか、注目されるところである。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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