塩貝健人が貫くビッグマウス「レアルに行きたい」 高校卒業→2年でブンデス…本気でW杯を目指した日

塩貝健人が大きな夢を語る理由
ブンデスリーガの衝撃、四軍から這い上がった反骨のルーツ、そして安定を捨てた決断。3回にわたって紐解いてきたストライカー・塩貝健人の物語は、ここから未来へと繋がっていく。
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「いずれはレアル(・マドリー)に行きたい」
時にビッグマウスと揶揄されるその言葉は、単なる若さゆえの過信なのか、それとも根拠のある確信なのか。高校時代、中村憲剛氏に問われて「挙げた手」から始まったワールドカップへの誓い。なぜ塩貝は、大きな夢を語り続けるのか。20歳の野心家が描き出す、キャリアの最終目的地と、日本代表への思いに迫る。(取材・文=林遼平/全4回の4回)
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「将来の夢を語るのに、普通に行けそうな目標を言ったって意味なくないですか?」
塩貝健人に今後のキャリアプランを尋ねると、そんな答えが返ってきた。そして、続けた。
「いずれはレアル(マドリード)に行きたい」
彼の言葉を、ある者は若さゆえと笑い、ある者はビッグマウスと揶揄するかもしれない。だが、本人の目には、その夢への道筋が確かに見えている。塩貝は、“夢”を語ることの意味を自身の考えを踏まえて表現した。
「例えば、僕が『ブンデスでスタメンになりたい』と言っても、今の状況なら『あ、そうなんだ』で終わるじゃないですか。だったら、もっと大きな夢を語った方がいい。ブンデスで20点を取ると言ってもかけ離れ過ぎていて自己分析ができてないと思うけど、自分の中でしっかり『今シーズンは5点取る』という現実的な数字を完結させていればいいのかなと。だから、メディアに対しては大きく言った方が自分を大きく見せられるし、プレッシャーにもなる。できなかった時に『お前、あんなこと言ってたじゃん』と言われるのは、僕にとっては逆に燃えるシチュエーションですから」
塩貝にとって、大きな夢は自分を追い込むための燃料となる。逃げ道を断ち、挫折を自ら買いに行く姿勢は、ここでも一貫している。失敗した時の恥ずかしさや周囲からの冷ややかな目を全て力に変える。それは、これまでのサッカー人生を通して続けていることだ。
ヴォルフスブルクのロッカールームに目を向ければ、隣には欧州のトップシーンで長く活躍してきたクリスティアン・エリクセンがいる。かつてウイニングイレブンの中でしか見ていなかったスター選手と、今、同じ目標に向かって戦っているのは不思議な感覚になるが、それもまた現実である。
「たまに自分でも信じられないですよ。この前までボロボロの久我山のロッカーにいたのに、なんでドイツにいるんだって。エリクセンが隣で『家は決まったのか?』なんて聞いてくる。ちょっとずつ環境が良くなっていった形なので、そこまで驚きはないですけど、やはり2年前から想像すると『自分の人生やべえな』というのは感じます」
少しずつ、だが確実に階段を上ってきたという自負があるからこそ、そんな驚きさえも楽しんでいる。
「高校、大学、マリノス、オランダ、そしてドイツ。テンポは早いですけど、バッと飛び越えてきたわけじゃない。一段ずつ環境が良くなっていった結果。例えば、3年前に『お前ブンデスに行けると思う?』って聞いても絶対に行けるとは思っていなかった。だからこそ、何があるかわからないなと。そう考えると、レアルに行けるか?と聞かれたら、どうだろうなと心の中で思いながらも絶対に行けないとは思わないので『そう思ってます』と答えます。だったらそこを目指すしかないでしょ、って思うんです」
このビジョンはクラブに限ったことではない。「夢の舞台」と語るワールドカップもそのひとつだ。塩貝がW杯を見据えるようになったのには、ある場面が関係している。
それは大学1年生の終わり。塩貝はデンソーカップチャレンジサッカーにU20全日本選抜の一員として選ばれていた。その期間中、コーチとして参加していた元日本代表MF中村憲剛氏が、若き才能たちに問いかけた。
「この中で、次のワールドカップに出たいと思っているやつはいるか?」
場が静まり返る中、迷わず手を挙げた人物が2人いた。その1人が塩貝だった。
「正直に言えば、あの時はちょっとノリで挙げたんです(笑)。強気な姿勢を見せてやろうと思って。でも、隣を見たら内野航太郎(当時・筑波大)も手を挙げていて、彼はマジで出られると思ってそうだなって思ったんです。その時にちょっとすげえなと。そこからですね。自分も本気でワールドカップを目指さなきゃいけないんだ、って意識し始めたのは」
身近にいた自分より高い志を持った内野という存在。そんな男がいたからこそ、「ノリで挙げた手」は、いつしか自分の目指すべき目標へと変わった。
そして、今ではその問いに堂々と手を挙げることができる塩貝は、自身の目標について明確な数字とビジョンを語った。
「ワールドカップのためにヴォルフスブルクに来た、という思いは強いです。今シーズン、残りの試合で最低でも3点は取らなきゃいけない。チームを2部に落とすわけにはいかないし、自分が点を取って勝たせる。それができれば、自ずとワールドカップにつながっていくと思っています。ここまで完璧とは言えないかもしれないですけど、選ばれるための結果は出してきた自信もあります。呼ばれれば自分が一番やれる自信がある。今年は特別な年。本当に最後の最後まで諦めずやっていきたいと思っています」
W杯の舞台に立つ日が来るのか、それとも新たな挫折を味わうことになるのか。一つ確かなのは、再び壁にぶつかった時、塩貝はかつてないほど不敵な笑みを浮かべるだろうということだ。
「可能性があるんだったら一番上を目指したい。目指す価値はあると思います」
あの日、半ば勢いで挙げた手は、今や確かな意志へと変わっている。ここからどんなキャリアを歩んでいくのか。それを見届けるのが、今から楽しみでならない。
(林 遼平 / Ryohei Hayashi)

林 遼平
はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。












