世界を驚かす絶対的な“36.2”「僕以外できない」 代表待望の20歳…塩貝健人が飛躍した理由

塩貝健人は今冬にNECからヴォルフスブルクに加入した
ヴォルフスブルクの緑のユニフォームを着て、ドイツの地に立ってからわずか1か月と少し。慶應義塾大学、横浜F・マリノス、そしてオランダのNECナイメヘンと、目まぐるしいスピードで階段を駆け上がってきた20歳のストライカー、塩貝健人は、今まさに世界のトップレベルが叩きつける“挑戦”の渦中にいる。(取材・文=林遼平/全4回の1回)
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チーム状況は、お世辞にも良いとは言えない。ブンデスリーガ第25節を終えた時点で現在、降格圏の17位。最近、指揮官を務めていたダニエル・バウアー監督の解任が決まり、残留争いの重圧がクラブを覆っている。
そんな中、今冬にクラブへと加入した塩貝は、少しずつ自身の価値を高めている。加入直後のマインツ戦でさっそく途中出場からデビューを飾ると、ドルトムント、ライプツィヒ戦ではスタメンに抜擢された。第23節のアウクスブルク戦では途中出場から初ゴールを奪取。その後、得点こそ奪えていないが、チームの勝利のために縦横無尽に走り回る姿がある。
「もともと描いていたところで言ったら、個人的には悪くないのかなと思っていて。そもそもブンデスに行って『試合に出られるかな』という不安もありました。その中で、スタメンでも途中出場でも出て、得点も取れている。もっとできると思いますけど、そこまで悲観するほどでもないと思います。例えばハンブルガーSV戦のようなチャンスで決めていれば(後半40分に相手DFをぶっちぎってシュートを打ったシーン)、あと2、3点は取れていたと思います。それを確実に決める実力がつけば、もっと上も見えてくるはずです」
オランダからドイツへと舞台を変え、新たな刺激を受ける塩貝。様々な経験を重ねる中、ここまでの戦いを振り返り、衝撃を受けた試合と選手を挙げた。
「これまで対戦した中で、間違いなく一番強かった」
塩貝がそう振り返るのは、強豪・ドルトムントとの一戦だ。ブンデスリーガ特有の強度の違い。技術、速さ、そして何よりフィジカルの厚み。その全てが今まで見てきたものとは異なっていた。
「みんな強くて、速くて、上手い。正直、ピッチの中でバカにされたような気分でしたね。やっぱりあのレベルまで自分はいかないといけないなと思いましたし、そこまでたどり着くにはまだ時間がかかるな、というのが正直な感覚でした」
さらに、塩貝にとって強烈な“苛立ち”を覚えさせた存在がいる。ライプツィヒの19歳、ヤン・ディオマンデだ。ライプツィヒ戦に左サイドハーフとして先発出場した際、守備に回る時間が長かった塩貝は、ディオマンデと何度も対峙することになった。プレミアリーグなど多くのビッグクラブが狙う若き新鋭とぶつかり合った塩貝は、自身が感じた思いを正直に口にする。
「体格で言えば僕と同じくらいだと思いますけど、とにかくアジリティが凄まじかった。それに体が強くて、取れたと思ってもグイーンって行かれる。まだ19歳ですよ? 軽々しく抜いてくるのが本当にムカつくというか(笑)。今は負けているなという風に感じましたけど、でも勝てないとは思わないし、あのレベルは目指せると思う。それは、ここからのトレーニング次第ですね」
今シーズンからスピード強化に取り組んできた
その差を埋めたいという欲求は、向上心という綺麗な言葉よりも、もっと泥臭く、本能的な怒りに近いのが塩貝の特徴だろう。
新たな舞台に立ち、新たなレベルを目の当たりにした。ただ、ブンデスの壁にぶつかりながらも、塩貝に悲壮感が漂っていないのには理由がある。ストライカーとしての嗅覚はもちろん、誰にも負けない自負がある。それに加えて、塩貝には世界基準で通用すると証明された絶対的な数値があるからだ。
今シーズン、オランダのNECナイメヘン在籍時、強豪アヤックスを相手に時速36.2kmという驚異的なスプリント数値を叩き出した。これはいま戦っているブンデスに当てはめると、リーグ3位に値する。自身の特徴の一つに走力を挙げる中で、この数値は新たな自信を生み出している。
「ナイメヘンに入ってからチームのフィジオと走りのトレーニングを積んできていて、それプラス個人でも専門のトレーナーである杉本龍勇さんをつけて磨いてきた結果です。35kmが出て『いいじゃん』ってなってたところから、アヤックス戦では36.2kmが出た。その時はフィジオも『お前、やったな!』と。その時に、これは僕の絶対的な武器になるなと思いました」
ナイメヘン時代、途中出場での得点が多かった塩貝だが、このスピードが一つの要因だと明かす。また、これを何度も繰り返し出していくことが、次なる進化に繋がると睨んでいる。
「短い時間でも結果を残してたのは、そういう走力のところもあるかなと思っていますし、これは日本代表の中に入っても僕以外できないとも感じています。ブンデスではまだ35km程度しか出せていませんが、あとはこの走力を何度繰り返せるか。そして、そこからいかに得点につなげていけるかだと思います。慣れの問題もあると思うんです。1回の勝負なら負けていない。でも、それを連続して、強度の高い守備をこなした直後に、攻撃で出せるか。フレッシュな状態なら相手の前に身体を入れられる。あの馬力を90分間、何度でも出せるようになれば全く違ってくると思っています」
ブンデスという剥き出しの現実に直面し、衝撃を受け、自らの現在地を冷静に見つめる。その上で「自分にしかできないことがある」と言い切る。20歳のストライカーが見据えるのは、単なる適応ではない。この強度を日常に変え、そのスピードで欧州を切り裂き、ストライカーとして結果を残し続けることだ。
決して楽観的な状況ではないかもしれない。それでも、「僕は挫折を求めに行くタイプなんですよ」と目をギラつかせた塩貝。その言葉の意味は、この男の歩んできた道を知ると、初めて腑に落ちることになる。
(第2回に続く)
(林 遼平 / Ryohei Hayashi)

林 遼平
はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。




















