届いた仲間の訃報「本当に急すぎた」 元日本代表が涙…勝利導くスーパープレーは「彼が背中に」
仙台GK林彰洋が八戸戦でスーパーセーブ

J2・J3百年構想リーグ地域リーグラウンドEAST-Aグループで、J2のベガルタ仙台が唯一の4連勝で首位に立っている。ヴァンラーレ八戸をユアテックスタジアム仙台に迎えた2月28日のホーム開幕戦で、0-0から突入したPK戦で仙台を勝利に導いた守護神、林彰洋が胸中に秘めていた特別な思いに迫った。(取材・文=藤江直人)
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背中越しに不思議な力を感じていた。ゴール裏のスタンドをチームカラーに染め尽くしたファン・サポーターが送る大声援だけではない。ベガルタ仙台の守護神、林彰洋が不意に目を潤ませ、声を震わせた。
「今日だけは個人的に特別な思いがあって、是が非でも勝ちたいと思って挑んだ試合でした」
思いは通じた。5月に39歳になる大ベテランは、胸中に秘めていた思いを静かな口調で明かした。
「ホーム開幕戦でファン・サポーターに勝利を届けたいとみんなが思っていたなかで、ちょっと個人的なところで言うと、僕の知り合いのテレビ関係の方が先日に亡くなられて。僕がすごくお世話になった方だったので」
清水エスパルスからサガン鳥栖、FC東京をへて仙台に加入して4年目。秋田市出身の林は「サッカー以外で、東北にあまり知り合いがいないんです」と断りを入れながら、故人との思い出を振り返った。
「そのなかで本当に数少ない、サッカー以外で友人になっていただいた方でしたし、本当にいろいろなことを相談させていただきました。ベガルタ仙台はどのようにしたら盛り上がるのか。どのようにすればもっと認知してもらって、選手をもっと価値ある状況にして、ファン・サポーターの方々に喜んでもらえるのかと」
55歳の若さだった故人と知り合ったのは仙台に来て2年目、2024シーズンの終盤だったという。
「サッカーとはまた別で、音楽アーティストの仲間から紹介された方でした。僕も音楽が好きなので」
突然の訃報が届いたのは2月25日。ヴァンラーレ八戸をユアテックスタジアム仙台に迎える、J2・J3百年構想リーグ地域リーグラウンドEAST-Aグループ第4節にしてホーム開幕戦の3日前だった。
選手個々がそれぞれのルーティーンを通じて気持ちを高めるホームの試合前夜の27日。林は通夜に参列した。長いキャリアを誇るプロサッカー選手人生のなかでも「ちょっと特別でした」と振り返る。
「普通なら試合前には行かないと思いますけど、どうしても最後に顔を見たくて。ベガルタ仙台をすごく応援してくれていましたし、気にかけてくれていたし、休みになったら一緒にご飯や飲みに行こうと思っていた矢先だったので。本当に急すぎましたし、どのような言葉を家族の方に伝えたらいいのかがわからないくらいでした」
ひと晩の間に気持ちを練り直して、故人に勝利を届けよう、喜ばせよう、という思いに置き変えて林は八戸戦のゴールマウスに立った。しかし生前の絆が強すぎた分だけ、どうしても寂しさがこみ上げてきた。
「あまり考えないように、考えないようにと言い聞かせながら準備したんですけど、僕からすると本当に惜しい人を亡くしてしまったので。実際にいなくなってしまうと、いたときのありがたみや、ひとつひとつの会話を走馬灯のように思い出してしまって。まだまだ一緒にああだね、こうだねと話そうと思っていたところだったので」
特別な一戦で仙台は大苦戦を強いられた。昨シーズンのJ3リーグ最少失点を引っさげ、初めてJ2に昇格してきた八戸が武器とする、徹底したハイプレスとショートカウンターの前にパスワークが分断された。
前半10分にはミスからショートカウンターを発動され、澤上竜二にシュートを放たれるも林が阻止。こぼれ球を今度は佐藤碧が押し込もうとしたが、必死に体勢を立て直した林がまたもや横っ飛びでセーブした。
後半41分にはゴール前の混戦で、音泉翔眞に至近距離から強烈な一撃を放たれる。仙台の森山佳郎監督が「やられた、と思った」と観念しかけた絶体絶命の大ピンチを防いだのは、林がとっさに伸ばした右足だった。
「決定機を作られてもゴールが入らなかったのは、彼が背中にいてくれたからかな、と」
試合後にこんな思いも漏らした林を、さらに驚かせたのはPK戦の途中だった。両チームともに5人目までが蹴り終えて、4-4となっていた状況で、ペナルティースポットの芝生の状態があまりにも劣悪でPKを蹴るうえでふさわしくないと俵元希主審が判断。途中でエンドを入れ替える異例の決定が下された。
ゴール後方のスタンドは、仙台のファン・サポーターで埋め尽くされる光景に一変した。林が言う。
「相手チームの選手もエンドが変わる際に『逆でやりたくない』とか『逆でPKを蹴りたくない』と言っていました。それくらいパワーのあるファン・サポーターの方々だとあらためて僕も実感しました」
先蹴りの八戸の6人目、澤田雄大のキックを左へ飛んだ林が完璧にセーブ。仙台の荒木駿太が決めて手にした開幕4連勝を、林は「偉大なファン・サポーターを背に止められてよかった」と感謝しながらこう続けた。
「特別な思いをもって臨んだ試合だったので、そこを(彼も)見ていてくれていたと思っています」
EAST-Aグループの10チームでは唯一、4試合を終えて無敗をキープ。2位の湘南ベルマーレに勝ち点2ポイント差をつけて首位に立ち、8月に開幕する2026-27シーズンで悲願のJ1復帰を目指す仙台のゴールマウスに、身長195cm・体重92kgのビッグサイズに熱く、そして優しい心も同居させる林が鍵をかけ続けていく。

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。












