怒らない監督に言われた「自分で考えろ」 J新指揮官の本質…日本サッカーと共通する“両立”
サンフレッチェ広島の新指揮官に就任したバルトシュ・ガウル監督は、ドイツで様々なポストで経験を積んできた指導者だ。日本のSNSでは熱い監督という言われ方をしたりもされているが、基本的には常に冷静で落ち着いている。

広島バルトシュ・ガウル監督について、かつて指導を受けた水多海斗が言及
サンフレッチェ広島の新指揮官に就任したバルトシュ・ガウル監督は、ドイツで様々なポストで経験を積んできた指導者だ。日本のSNSでは熱い監督という言われ方をしたりもされているが、基本的には常に冷静で落ち着いている。
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かつてマインツU23でその指導を受け、現在は3部エッセンで活躍する水多海斗は、その人物像をこう語る。
「心理マネジメントの上手い監督でした。若手がミスをしても怒鳴らない。でも『ちゃんとサッカーをする』という信念はすごく強い。当時はマインツのU-23チームだったので、トップに合わせたシステムの制約などもありましたが、その中でも自分の哲学をしっかり持っていましたし、ポジショニングやビルドアップも細かく考えていましたね」
感情ではなく、原理原則の徹底でチームを動かす。それがガウル監督の本質だという。そしてそのアプローチは、典型的な管理型監督とも違った。こうでなければならないと選択肢を絞り、プレーのすべてを規格化するタイプではない。プレー原則を明確に提示してチームとしてのタスクを共有してもらいながらも、選手がそれぞれの良さを出せるように、判断を委ねる余白を残す。
「ある程度の基準は示しますが、選手の自由も認めてくれていました。それはとてもよかったです。当時はジモン・ペッシュというアシスタントコーチとコンビでしたが、ペッシュが強く伝える役割を担って、ガウル監督はあまり前に出ずチームを丁寧に観察してましたね。いいバランスだったと思います」
ガウル監督の評価を決定づけたのは、戦術だけではなく、そうした選手への接し方だった。選手との距離は近すぎないが、その理解は深い。若い選手がチャレンジしやすい環境を作るためのマネジメントを、大事にする。試合に出るか出ないかとか、あるいはどのポジションで出るのかという、テーマに関して、しっかりと選手と向き合ってコミュニケーションを取る。
「当時僕は、本職ではなかった右WBでプレーすることが多かったんですが、『将来のためにできるポジションを増やす意味でもいまはここのポジションでやってほしい』と理由を説明してくれた。使われない時も、ちゃんと話してくれるので納得感がありました」
結果を出すだけでなく、主体性を求めながら、若手を成長させられる監督だったといえるだろう。細かくミスをどやされたりはしない。水多も「怒られたことはほとんどないです」と当時を振り返る。「ただ」といって、いまもよく覚えている「怒られた」言葉を教えてくれた。
「『試合が一番大事なんだから、そこで結果を出せるコンディションになるための準備を考えろ』とは、かなり強く言われましたね。『居残りで練習をやり過ぎるな』『コンディション管理まで含めて自分で考えろ』、と」
何も考えずにがむしゃらにやるのがプロフェッショナルではない。自身が常に最良なコンディションで取り組めるようにバランスのとれた生活をすることが大事になる。そもそもドイツではトレーニングのインテンシティが高いし、マインツのそれはかなりのものがある。それはトップチームでもU-23でも変わらない。
「今振り返ってもとにかく強度が高かったです。トラッキングデータ、走行距離などのデータも毎日見せられて、トレーニングからインテンシティの高いサッカーを求められていました。選手を育てたいという意識は強かったと思います」
選手にはやるべきことを毅然と説明して、そこに妥協はしない。選手はやるべきことに真摯に取り組み続け、その中でトップレベルのサッカーを身につけながら、自身の良さをどのように発揮すべきかと向き合うことができていく。実際に彼の下からはブライアン・グルダ(ブライトン⇒ライプツィヒ)やパウル・ネーベル(トップチームデビュー)など、後にトップレベルへ進む選手が育っている.
育成年代で監督歴がある指導者が、大人のチームでそのまま結果を出せるかというと、そこには間違いなく違いがある。実際にガウルはポーランドのグルニクでトップチームを指揮した経験もあるが、難しい状況の中で結果を出せずに、解任された。水多はグルニクでの解任は「指導能力の不足ではない」と見ている。
「アンダー世代の指導に長けている指導者は、トップチームにおける結果との向き合い方で、ずれが生じてうまくいかないことがあるのかな、と思うことがあります。若手を育てるのがうまいけど、でも若手を積極的に使うほうに意識が行き過ぎると、短期的な結果が出ないリスクがある。だからといって目先の結果ばかりを優先すれば、若手は使えない。そのバランスがきっと難しいんだろうなと思います。逆に言うと、そこのバランスが取れれば、若手は成長するし、結果を手にできるチームになるんじゃないかなって。広島はその前にスキッベ監督もいたので、選手は理解しやすいのではないかと。ハマれば優勝争いできるチームを作れる監督だと思います」
トップダウンで落とし込むわけではないので、形になるまでには時間がかかるかもしれない。だからこそ、周囲がその過程をどう受け止めるかが重要になるだろう。
成長と勝利の両立。これは日本サッカーが長く模索してきたテーマでもあるのではないだろうか。
広島はこれまでも育成型クラブとして知られてきた。うまく互いの良さがかみ合えば、クラブの戦い方そのものが、一段階引き上げられるかもしれない。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。





















