新興勢力の10番が持つ覚悟「俺がやる」 超えなければいけない“あの壁”「強すぎて雲の上の存在」

高円宮杯プレミアリーグは鹿島アントラーズユースの優勝で、第104回全国高校サッカー選手権大会は神村学園の初優勝で幕を閉じた。

美濃加茂高の田代智久【写真:安藤隆人】
美濃加茂高の田代智久【写真:安藤隆人】

美濃加茂高のナンバー10・MF田代智久

 高円宮杯プレミアリーグは鹿島アントラーズユースの優勝で、第104回全国高校サッカー選手権大会は神村学園の初優勝で幕を閉じた。

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 2025年シーズンを終え、各クラブユース、高体連のチームは新チームをスタートさせ、新たな戦いに向けて準備を進めている。4月のリーグ本格開幕を前に虎視淡々と上を目指すチーム、選手にスポットを当てていきたい。

 今回は岐阜県高校サッカー新人戦から。今年の新人戦を制したのは近年メキメキと力をつけてきた新興勢力である美濃加茂高。ナンバー10・MF田代智久は、長良高との決勝戦の後半途中から投入され、一気に停滞ムードを打ち破ってチームに初の県内タイトルをもたらした。

 県内初タイトルをかけた新人戦決勝。田代は準決勝に負った負傷の影響で、ベンチから戦況を見つめていた。

「両チームとも硬さがあって、お互いにリスクを避けながらプレーしていたので、自分が入ったら強気に縦パスを刺して、どんどん前へと展開していくことを考えました」

 田代が言う通り、美濃加茂は【4-4-2】でブロックを敷いてくる長良の守備に対し、攻めあぐねる時間が続いていた。DFラインでボールを回し、ボランチの渡辺翔とインサイドハーフの谷口瑛太がポジションチェンジを繰り返して、ミドルゾーンでボールを受けるまでは形ができていたが、そこから先が相手ブロックに引っかかり、効果的な攻撃を生み出せなかった。

 その状況を把握した上で、自分が投入される時は勝負どきだと悟っていた田代は、入ったらどのようなプレーをするべきなのかをイメージして、いつ声がかかってもいいように準備をしていた。そして、0-0の膠着状態で迎えた後半10分についに声がかかった。

「流れが停滞しているのは間違いなかったので、とにかく賢く動いてボールを引き出そうと思いました」

 投入直後から田代は【4-4-2】のブロックを敷いてきた長良のギャップに潜り込んで、DFラインやボランチからのパスを引き出すと、ボールを受けてから鋭いターンで前を向いてドリブル突破を仕掛けたり、自分のところに引き付けられた相手を見て、フリーになった谷口、FW長谷川結星、藤田藍翔と南谷颯良の両ウィングバックに展開をしたりと、攻撃を一気に活性化させた。

 後半19分、DF井戸要の縦パスに抜け出した南谷がそのままエンドラインギリギリを抉ってからマイナスのクロス。田代は絶妙なタイミングでニアサイドに飛び込んだが、一瞬早く長良GK永田圭祐が反応して弾く。そのボールがゴール前にこぼれ、詰めていた長谷川が押し込んで待望の先制弾を手にした。

 その後も田代が高い位置で巧みにボールを引き出し、抜群のキープ力と展開力、そして推進力あるドリブルで攻撃を牽引し続け、相手に隙を与えずに1-0のままタイムアップ。悲願の初タイトルをチームにもたらした。

「ライン間に顔を出してパスを引き出したり、ボランチのサポートやFWのサポートをして前にベクトルを向けたりすることは2年生の時からずっとやり続けてきたことなので、今年も武器としてやっていきたいと思っています」

 主戦場はFW、トップ下、インサイドハーフ。182cmのサイズと足元のテクニック、高い戦術眼を兼ね揃え、今年は攻撃の中枢としての活躍が期待されている。

「新人戦は他のチームも完成度が上がりきってない中での優勝だと受け止めています。もちろん優勝できたことはすごく嬉しいのですが、ここで満足しては『あの壁』は越えられないと思うので、インターハイ、選手権までに自分たちのチームの完成度をもっと高められるように頑張りたいし、本当に僕ら次第だと思っています」

 田代の言う『あの壁』とは選手権7年連続、インターハイ4年連続出場を果たしている帝京大可児高のことを指す。

 近年の岐阜のサッカーは帝京大可児にほぼ独占されている。その中でライバルと言えばこれまでは古豪・岐阜工業高、中京高、各務原高だったが、近年は美濃加茂がメキメキと頭角を現してきた。2023年度のインターハイ予選と選手権予選で初の県決勝進出を果たし、昨年度は2年ぶりに選手権予選決勝進出を果たすが、いずれも帝京大可児に敗れた。

「帝京大可児との差は縮まっている実感はありますが、昨年の決勝(1-4)でもスコアだけでなく、技術の差だったり、チャンスを着実に仕留める差だったり、やはりそこには細かい差があった。それをしっかりと受け止めて、日々の練習から高い意識を持ってやらないと、この差は埋められないと思っています」

 田代は1年生の時からトップチームで出番を掴んでいたが、昨年までスタメンだったり、ベンチスタートだったりと、周りの信頼をガッチリと掴めたわけではなかった。その理由を「プレーの安定感が足りなかったし、メンタル面でもどこか周りに遠慮して、『俺がやる』という気持ちが足りなかった」と分析し、今年は「プレーも人間性の面でも一貫性を持ってやる」と覚悟を固めていた。決勝でのプレーはその覚悟がにじみ出たパフォーマンスだった。

「僕が小学6年生の時に選手権をテレビで、当時高校2年生だった鈴木淳之介選手(コペンハーゲン)がボランチとして中心になっていた帝京大可児を見て、正直強すぎて雲の上の存在だと思っていました。その翌年も鈴木選手のパフォーマンスがもう圧巻すぎて、鈴木選手のように奪えて、ターンのうまさや前を向いてからのキープ力とドリブルでの推進力、パスの精度、スピードも全てが凄まじかった。そこから憧れで、今もプレーを参考にしています。でも、僕は帝京大可児を倒したいという気持ちで美濃加茂に来たので、常に『あの壁』は意識していますし、最後の1年で絶対に打ち破りたいです」

 心の奥底から込み上げる野心と信念を、落ち着きと一貫性のあるプレーに昇華させて。田代は虎視眈々と下克上を狙い続ける。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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