待ち望んだ再会はわずか“22分”「悔しい」 古巣に凱旋も…乾貴士が誓った「また来ます」

乾貴士はIAIスタジアム日本平に凱旋した
昨シーズン限りで清水エスパルスを退団し、今シーズンからヴィッセル神戸へ移籍した元日本代表MF乾貴士が、21日に行われたJ1百年構想リーグ地域リーグラウンド第3節でデビューを果たした。慣れ親しんだ敵地IAIスタジアム日本平へ凱旋し、愛着深い古巣と対峙した“22分間”とその後を追った。(取材・文=藤江直人)
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感謝の思いを込めて、ヴィッセル神戸の乾貴士は敵地IAIスタジアム日本平の光景を記憶に焼きつけた。
キックオフ前のウォーミングアップから試合中、そしてスタンド沿いを一周して挨拶した試合後のすべてで、自身の名前が記されたタオルマフラーや「33」が記されたユニフォームがいたるところで目立った。いずれも昨シーズンまで約3年半にわたって所属し、思いのすべてを捧げてきた古巣・清水エスパルスのそれだった。
清水に0-1で敗れた2月21日のJ1百年構想リーグ地域リーグラウンドWEST第3節を終えてからしばらくして、乾は自身のインスタグラムを更新。神戸のユニフォーム姿の写真とともにこんな言葉を投稿した。
「悔しい神戸でのデビューになりました。でも、やり続けるしかない。怪我人も増えて、なかなか難しい状況やけど、このチームなら大丈夫!!全員で頑張ろう!!次!絶対勝とう!!」
「そして」として、古巣のファン・サポーターへ感謝を捧げるメッセージを綴った。
「清水の皆さん、ありがとうございました!!ユニフォームもタオルマフラーもいっぱいで嬉しかった!!多分、俺のが1番多かった笑 今回は負けたけど、次は勝ちます 神戸で待ってます ありがとうございました!!」
百年構想リーグとAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)の計4試合を終えて、乾は一度もピッチに立っていなかった。敵地マレーシアに乗り込んだ17日のジョホール・ダルル・タクジムFCとのACLEリーグステージ最終節では、リザーブだったそれまでの3試合と違ってベンチにも入っていなかった。
怪我をしているのではないか。ファン、サポーターが募らせていた心配ごとは杞憂に終わり、そして期待と歓声に変わった。清水戦に臨む先発メンバーに、新天地で「14番」を背負う乾の名前が記されていたからだ。
まさに最高の舞台で乾をデビューさせた、神戸のミヒャエル・スキッベ新監督が言う。
「前節まで使わなかったのは、他の選手を使ったからだ」
乾が務めた<4-3-3>のインサイドハ―フでは、井手口陽介を軸に郷家友太、佐々木大樹、22歳の日髙光揮、18歳の濱﨑健斗が起用されてきた。一転して37歳のベテランを起用した意図を指揮官はこう語った。
「今日の起用に関しては、彼のクオリティーを見せてほしいというところがあった」
開始わずか5分。乾が期待に応える。右サイドのハーフウェイライン付近で、清水の小塚和季がマテウス・ブエノへ出した横パスを、アンカーの鍬先祐弥が勢いよくスライディングしながらカットした直後だった。
ライナー性のこぼれ球を右足でピタリと止めた乾が素早く時計回りにターン。右斜め前へ向かって開始したドリブルをどんどん加速させていく。さらに相手を引きつけたうえで、フリーで攻めあがってきた右サイドバックの広瀬陸斗へパス。すかさず放たれたクロスに、ゴール中央で武藤嘉紀が頭を合わせた。
清水のキーパー沖悠哉が一歩も動けなかったシュートは、無情にも右ポストに弾かれた。好機を演出した乾は11分にもマテウス・トゥーレルの縦パスをスルー。意表を突く動きでマーカーの小塚を翻弄しただけではない。佐々木が落としたボールをワンタッチで左前方へ放ち、左サイドバックの永戸勝也を縦へ走らせた。
主将・山川哲史の退場で状況が一変した
しかし、状況は19分に一変する。清水の北川航也の縦パスをオ・セフンが胸で落とし、あうんの呼吸で受けた千葉寛汰が最終ラインの裏へ抜け出しかけた直後。自陣のセンターサークル付近で千葉を倒した神戸のキャプテン山川哲史に、相手の得点機会を阻止したとしてレッドカードが提示された。
センターバック(CB)の一人を前半途中で欠く非常事態を受けて、スキッベ監督は22分にリザーブのCBンドカ・ボニフェイスを投入する。交代を告げられたのは乾。こればかりは仕方ないとばかりに笑みを浮かべながら、乾はわずか22分間で昨シーズンまでのホーム、IAIスタジアム日本平のピッチを後にした。
試合は後半10分にビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)からオンフィールド・レビュー(OFR)をへて清水に与えられたPKを決められ、最後まで挽回できないまま敗れた。交代枠を使い切った後の同45分にはジェアン・パトリッキが負傷退場し、9人での戦いを強いられた末の黒星を乾はこう振り返っている。
「同数ならある程度いけたかな、と。テツ(山川)も悪気があってああいうことをしたわけではないので」
そのうえで試合の流れや結果に大きな影響を与えた、山川の一発退場に苦笑しながら言及した。
「レフェリーももうちょっと基準というか、やはりレフェリーのレベルを上げないといけないかな、と。あれで本当にファウルなのか、あれで本当に退場なのか、といったところはもう一回見直して、もうちょっとレフェリーも勉強してもらいたいですけどね。まあ、今日はそういうところだけですね、はい」
キックオフ前のひとコマ。清水の前監督で今シーズンから神戸のヘッドコーチを務める秋葉忠宏氏、2024シーズンまで清水に所属し、昨年9月に神戸へ加入した権田修一、そして乾がピッチに姿を現しただけで拍手が降り注いだ。試合後もしばらくは、清水のファン・サポーターによる「乾コール」がやまなかった。
「(コールは)うれしかったですよ。(IAIスタジアム日本平は)最高でした。また来ます!」
あらためて感謝した乾は、神戸の一員として、さまざまな思いが交錯したデビュー戦をこう総括した。
「チームとしては、みんなしっかりと戦ったので。外から見ていましたけど、10人でも勝てそうにもなっていましたし、問題なかったので(気持ちを)切り替えて、次、やっていきたいと思います」
規律違反を発端として2022年6月にセレッソ大阪を退団。一時は引退も考えた無所属の期間をへて、同7月に清水へ加入した。昨シーズンはチームでただ一人、リーグ戦で全38試合に出場し、3番目に多い2670分間のプレータイムをマークしながら契約満了で退団。最終節後には涙で声を震わせながらこんな言葉を残した。
「問題児の僕を拾ってくれた清水エスパルスのみなさん、本当にありがとうございました」
さらに「こんな形で引退するのは嫌なので、もうちょっと頑張ります」と宣言した乾は昨年末、大迫勇也や武藤、酒井高徳とワールドカップ・ロシア大会を戦った日本代表時代の盟友が所属する神戸へ電撃加入した。
百年構想リーグで新天地と古巣が同じWESTグループとなり、開幕3戦目で早くも巡ってきたIAIスタジアム日本平への凱旋&デビューでさらなるパワーをもらった乾が、神戸での挑戦を加速させていく。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。





















