王者の強さは“メッセ交換”「いつかまた」 受け継がれる血…重鎮が語る「ファミリー」の意味

ジーコ氏(左)と鈴木満フットボールアドバイザー【写真:徳原隆元】
ジーコ氏(左)と鈴木満フットボールアドバイザー【写真:徳原隆元】

鹿島は2025年のJ1リーグで優勝を果たした

 鹿島アントラーズでフットボールアドバイザーを務める鈴木満氏。Jリーグの歴史そのものと言える人物は、変化の激しい業界にあって、強化の最前線に立ち続けてきた。そんな鈴木氏だからこそ、さまざまな選手たちが初々しく加入し、大きく育ち、羽ばたいていってはまた戻ってくる姿を見てきた。特に鹿島は多くのOBが現役後に古巣に戻ってくる。(取材・文=森雅史/全5回の5回目)

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 なぜ鹿島を出て行った選手たちは、みな「鹿島に戻りたい」と口にするのか。なぜ親会社がIT企業のメルカリに変わっても、ジーコから受け継がれた「ジーコ・スピリット」は色褪せないのか。その答えは、鈴木氏が語った「ファミリー」の定義の中にあった。

「うちはやっぱりそういうファミリー感や帰属意識が他のクラブに比べて長けていると思います。それは強化と現場の関係だけじゃないんです。広報であったり、マーケティングであったり、みんなが選手にアプローチをちゃんとしてくれる」

「僕たちより選手のことを面倒見ています」と笑うほど、鹿島のスタッフは選手と頻繁に連絡を取り合っているという。しかも現役選手だけではなく、他クラブや、はるか海外に移籍していった選手ともメッセージを交換しているのだと明かした。

「チームは今こういう状況になっているよ」「(鹿島が)負けているけど、どうなっているんですか」などという会話がなされている。それ以外にも他愛もない会話が、チームを離れていった選手たちの心の拠り所となり、「いつかまた鹿島へ」という帰属意識を育てていく。

「スタッフが帰属意識を持っていて、責任を持って、やりがいも持ってやる組織になったというのが、うちの一番良かったと思うところ」。鹿島の強さの正体は、ピッチ上の戦術や技術以前に、このスタッフを含めた強固な「ファミリー」の絆にあるのだ。

 鈴木氏はかつての母体だった旧住友金属に「人を大切にする」という社風があり、それが鹿島に持ち込まれたという。しかし親会社がメルカリに変わった。企業風土も重工業とIT企業では大きく違うはずだ。変化を危惧する声もあったが、その心配を否定した。

「メルカリは歴史を尊重し、この鹿島の文化を考えていくのがすごく大事だと思っていてくれた。そしてマーケティングの部分ではメルカリのノウハウを使ってどんどん成長している」

 小泉文明社長は、鈴木氏のような「古い人間」と、メルカリ流の「新しい人間」を、全社員集めてパネルディスカッションを行わせるなど、伝統の継承に心を砕いているという。「今の血を繋げる」——。IT企業の合理的経営と、泥臭いフットボールの伝統。この二つが反発し合うのではなく、融合している。そしてその考え方はチーム作りにも生かされているのだ。

「フィロソフィーをどう残していくかと考えたときに、一つの策としてスタッフにOBを据えるということがあります。鹿島のフィロソフィーを理解している人材を据えて、血が薄まらないようにする。あとはユース、アカデミーを強化して、学生時代から鹿島がどういうものかを刷り込んでいく。アカデミーとの連携の強化、スタッフへのOBの登用、起用が、フィロソフィーをつなぐ対策としてこれまで考えてきたところです」

 そしてこれがうまくいっているからこそ、鹿島は20冠を達成し、2025年も王者として君臨できたのだ。

 そんな鈴木氏の「2026年の目標」は何か。「中田浩二フットボールダイレクターがしっかりやってくれているので、僕は実務にそんなに関わることはない。契約交渉もないから、だいぶ楽になった」と言う。また2017年に最終節で逆転されて以来優勝できていなかった呪縛から解き放たれ、「心に刺さった棘も抜いてもらったんで、少しボールを蹴れるようにしようかな」と微笑んだ。

 現在、68歳の鈴木氏は、鹿島のフットボールアドバイザーと並行して、日本サッカー協会の技術委員会強化部副部会長を務める。アンダーカテゴリー代表チームの遠征にも団長として度々帯同。そこでピッチに出ると「体力の衰えを痛感していて、これじゃダメだ」と感じており、トレーニングを再開したいというのだ。

 そのアンダーカテゴリー、U-22日本代表の大岩剛監督も鹿島のOBであることを考えると、鈴木氏が繋いでいる鹿島のフィロソフィーは日本サッカーのフィロソフィーにも繋がっているのは間違いないだろう。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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