W杯は「出ない限り選ばれない」 三笘薫が突入した“注力モード…誓うクラブでの完全復活

サンダーランド戦に途中出場した三笘薫【写真:REX/アフロ】
サンダーランド戦に途中出場した三笘薫【写真:REX/アフロ】

復帰2戦目のホームゲーム・サンダーランド戦

 待ちに待った瞬間だった。丸3か月ぶりのホームゲームとなった三笘薫にとっても、アメックス・スタジアムを埋めたブライトンのサポーターにとっても。

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 12月20日、プレミアリーグ第17節サンダーランド戦(0-0)の後半19分。左足首の怪我から復帰2戦目の「背番号22」を、ホーム観衆は総立ちの拍手喝采で迎えた。「カオル・ミトーマ!」との交代アナウンスには、「イェーイ!」との大歓声。メインスタンド上段の記者席付近では、早速、三笘チャントを歌い出すファンもいた。

 最初のボールタッチは、左ウイングに投入されて4分後。だが、待ったかいはあった。逆サイドから届いたパスに、完璧なコントロールを見せたのだ。ボールタッチの巧さは、ファンであれば、ドリブルの切れ味と並ぶ三笘の魅力として認識済み。それでもなお、スタンドからは感嘆のどよめきが起こった。

 だが試合後には、「あれだけの歓声をもらったのでプレーで返さないといけなかったですけど、期待外れかなと思います」と、アディショナルタイムを含む約30分間を振り返る三笘がいた。

「勝たないといけない展開だった。何も仕事ができなかったですね」と、反省モード。
 
確かに、チャンスに絡んだと言える場面は、後半31分の1シーンぐらいだっただろう。シュートチャンスを生んだ、ダイレクトでの折り返し。そのチャンスメイクにしても、結果的に味方のシュートがブロックされたことから、次のように言っている。

「もうちょっと中を見ていれば良かったんですけど。(自分に)一番近い味方を見る形になったので。もう少し何かできたんじゃないかなと思います」

 本人が言う「何か」として、チームに得点をもたらす前線での「違い」を期待されていることは言うまでもない。三笘が負傷した第6節チェルシー戦(3-1)後、ブライトンは、チーム最大の武器を欠いたリーグ戦11試合を4勝4分3敗と、パフォーマンスに安定性を欠いた。

3か月の離脱期間が感じさせた三笘の錆

 今夏に獲得されたトム・ワトソンには、左ウイングの後継者という見方もある。とはいえ、まだ19歳で、あくまでも「将来的」な話。怪我に悩まされてきたこともあり、奇しくも古巣との対戦となったサンダーランド戦も、出場時間は終了間際の3分程度に留まっている。

 そこで、ファビアン・ヒュルツェラー監督は、複数の穴埋め策を試みてきた。右サイドが主戦場のヤンクバ・ミンテを左で起用した試合もあれば、万能MFのディエゴ・ゴメスを左ウイングに回した試合もある。マキシム・デ・カイペルと、フェルディ・カディオグルの左SB2名を縦に並べ、両者が臨機応変に前後を入れ替わるパターンも試された。

 こうした対応策が効果を示した試合もあったが、いずれも十分と言える域には至っていない。サンダーランド戦の2週間前には、下位ウェストハムを相手に、枠内シュートのないまま70分が経過。土壇場での敗戦回避が精一杯だったように(1-1)、攻撃に火がつかないまま終っていた。

 3試合連続の勝ち星なしで迎えていたこの日も、本校執筆時点でリーグ6位、失点の数では下から3番目(タイ)のサンダーランドが優勢だった前半、順位も得点数も9番手のブライトンには、火花の「ひ」の字も見られなかった。後半に入ると、敵に見え始めた疲れも手伝って、ちょうど三笘投入の数分前からブライトンが攻勢に出ていたことから、ベンチを出た“ゴールへの導火線”に対するファンの期待は、さらに高まっていた。

 もちろん、本人も承知していた。

「なかなか(相手の守備が)堅いところがあったので、抜ければと思っていました。仕掛ければどうにかなるかなと思っていましたけど、何もできなかったですね」

 無念を口にせざるを得なかった状態は、仕方のない部分もある。ドリブルにも、切り返しにも、3か月間のブランクによる「錆」が見てとれる。例えば、ピッチに立って6分後の1対1。相手ボックス内で左SBノルディ・ムキエレを抜こうとしたが、止められたうえに、ファウルまで取られてしまった。

 勝ち誇ったようなムキエレの仕草からは、敵が三笘をどれほど警戒しているかもうかがえた。勝負に敗れた当人は、相手の耳元で何事かを言い返したようにも見えたが、本調子の時のように、自らの足で相手を言い込めることはできなかった。

 試合終了直後には、患部を気遣うかのように左足首の辺りに手をやる姿が見られた。ピッチ上での時間は、「久々ピッチに入って、流れも変えられなかった」と言っていた、アウェーでの前節リバプール戦(0-2)と同程度。まだ、試合でプレーすると足首に違和感があるのかを尋ねてみると、「まあ、ゼロではないですけど」と、正直に答えてくれた。

 だが、すぐさま続けてもいる。

「そのなかで100パーセントやらなければいけないので。少しは(違和感が)ありますけど、関係ないかなと思います」

「次の試合とチームの力になることだけ考えています」

 そう語る三笘は、完全なるブライトン注力モードだ。前節後、自身の復帰と前後して決まった、2026年W杯の組分けや、同年3月のイングランドとの国際親善試合について訊かれた際に、きっぱりと言っている。

「次の試合とチームの力になることだけ考えています。ワールドカップどうこうではなく、まずは自分がピッチに立つことでアピールしないといけないので。出ない限りは選ばれないと思いますし。そこは全く考えてないです」

 その決意は、復帰2戦目を終えて強まってもいる。年末年始の連戦に質問が及ぶと、三笘は言った。

「スタメンで出られるぐらいに(コンディションを)持っていかないといけないと思います。連戦で、全員の力が必要なので。今は勝利から遠ざかっているので、どんな形でも、しっかりと勝たないと」

 27日の次節アーセナル戦からは、1月7日の第21節マンチェスター・シティ戦まで、12日間にリーグ戦4試合。強豪戦の間に、ウェストハム戦とバーンリー戦という、守りを固めてくる下位勢との対戦が挟まった格好でもある。

 イングランド恒例の過密日程時期は、クリスマスと元日のある“祈り”の時期。ブライトンのファンは願っている。ピッチへの復帰に続き、三笘の完全復調と本領発揮が早々に叶うことを。

(FOOTBALL ZONE編集部)(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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