同僚の父親が中村俊輔「絶対に忘れてはいけない」 刺激となった体験「見ていると伝わってくる」

国士舘大学の3年生MF百瀬健
大学サッカー界の年内最後の試合となる第74回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)が開幕した。今年は全国7地域のリーグ戦で上位となったチームが12月8日に一発勝負のプレーオフを戦い、勝者が関東王者の筑波大学、九州王者の福岡大学、関西王者の関西学院大学、東海王者の東海学園大学がいるそれぞれのリーグに入って決勝ラウンドへ。敗者が強化ラウンドとなるリーグ戦に移行するという方式で覇権を争う。
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ここではインカレで輝いた選手たちの物語を描いていく。第18回はベスト4進出を果たした国士舘大学の3年生MF百瀬健について。実践学園高では10番でキャプテンだったが、国士舘大はAO入試で合格し、サッカー部入部を志願した男は、ついに初の全国大会をインカレで経験することになった。
「高校で進路を選ぶ時、どこからもオファーはなかったのですが、『本気でやるからには日本一を目指せる場所に飛び込みたい』と思っていたので、憧れていた国士舘大に入ることを決めました。自分から『入部させてください』と志願して入った立場なので、一番下からのスタートだと思って大学生活に臨みました」
百瀬を一言で表すと「実直」だ。高校時代からコミュニケーション能力に長け、人の目を見てきちんと自分の意見を話せる人間だったし、きちんと挨拶をする礼儀正しい男だった。プレー面でも屈強なフィジカルと美しいキックフォームから放たれるクロスやプレースキックの精度は高く、仲間を鼓舞する声などキャプテンシーも抜群で、とにかく「気になる選手」だった。
「僕はスピードがあるわけでもないですし、背も小さい(166センチ)でこれと言った特徴を持った選手ではないと思っています。だからこそ、ずっと磨いていたキックや声、立ち振る舞いで記憶に残ってもらえるような選手になりたいんです」
高校最後の選手権予選の決勝で國學院久我山に敗れ、夢だった全国大会出場が果たせなかったが、百瀬はこう熱い思いを口にしていた。
あれから3年、百瀬は初の全国の舞台で持ち前のキックの精度とどこまでもボールを追いかける姿勢、そして献身的なプレーと声で躍動を見せている。今大会、決勝ラウンド初戦の福岡大戦でスタメンに抜擢。第3戦の日本大戦で再びスタメン出場を果たし、1-0で迎えた28分にはペナルティーエリア外で縦パスを受けて右足シュートをゴール右隅に叩き込んで決勝点をマーク。準々決勝の阪南大戦でも2試合連続でスタメンの座を掴んで、左サイドから果敢なアタックを仕掛けて、攻撃にアクセントを生み出した。
ベスト4進出を決めた阪南大戦後のミックスゾーン。筆者の姿を見かけると小走りでやってきて、「お久しぶりです」と挨拶をしてくれた。相変わらずの人間性を垣間見た後に話を聞くと、これまでの苦労と百瀬の実直さが言葉の中ににじみ出ていた。
「大学1年生の時にチームは新人戦の全国大会に出たのですが、僕は1試合もベンチに入ることができず、チームのサポートに回っていました。サポートすることも大事な仕事だと思っているので、一生懸命やりましたが、やっぱり悔しかった。ここからさらに這い上がるという気持ちを持って、自主練の量も増やして、徹底して自分の長所や課題の克服の時間に充ててきました」
今季の関東大学リーグ1部終了までトップでの出番もベンチ入りもなかったが、Iリーグ関東1部Cブロックにおいて得点ランキングトップの9ゴールを叩き出して優勝に貢献するなど、メキメキと頭角を現してきたことで、インカレの大舞台で大抜擢されることになった。
「ずっと『どんな状況でも貪欲にやり続けたら必ずチャンスが来る』ということを信じて、試合に出たらガムシャラに走って、プレスに行って、球際には全部勝って、ゴール前では貪欲に狙っていくことを続けていました。サッカーが本当に大好きなので、どんな状況でも全力でやるのは当たり前だと思っています」
損得勘定のみでは動かない、根っからのサッカー小僧であれ。これは百瀬が小学生時代に日本代表のレジェンドから教えてもらったことだった。
神奈川県のあざみ野キッカーズでプレーしていた時、仲のよかったチームメイトの父親が中村俊輔だった。よく中村の運転する車で送迎してもらい、自宅に遊びに行き、ご飯も一緒に連れてもらっていた。その際に、教えてもらったのはFKやボールの蹴り方だけではなかった。
「直接何かを言われたわけではないのですが、俊輔さんを見ていると本当にサッカーが好きなんだなと伝わってくるんです。オフの日でもボールを蹴ったり、自分の身体と真剣に向き合ったりしていた。僕ら子供にも真剣にサッカーを教えてくれて、本当にこんな偉大な人 なのに、純粋にサッカーが大好きな気持ちを持っていることが、僕の中で大きな刺激というか、『大切なもの』になったんです」
この原風景が「置かれた場所で全力を尽くして花を咲かせる男」を作り上げていた。
「絶対に忘れてはいけないのは、ベンチにも入れずにスタンドで応援してくれる人、サポートしてくれる人がいるということ。応援してもらうことが当たり前じゃないと思うし、悔しさは僕もずっと味わってきたので、その思いを踏みにじるようなプレーは絶対にしてはいけないと思っています。ピッチに立つ覚悟は絶対に持ち続けていきたいと思います」
百瀬の熱い冬はまだ続く。準決勝の関西学院大でも初心と感謝の気持ちをプレーに表して、チームの勝利のために全力かつ実直に汗を流す。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。



















