日独で過熱する代表入りの声「変な解釈されるのは残念ですけど…」 長田澪が語った“本音”

ブレーメンで活躍する長田澪【写真:アフロ】
ブレーメンで活躍する長田澪【写真:アフロ】

長田澪は今季ブレーメンの守護神の座をつかんだ

「もちろん、変な解釈されるのは残念ですけど、ちゃんと読んでくれている人は、俺が言いたいことをわかってくれると思うので。クラブが第一。まずここで結果を出して、その後に代表だと思うので。まずここで結果を出したいです」

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 今季ブレーメンでGKを務める長田澪(ブンデスリーガ登録名ミオ・バックハウス)が、ブンデスリーガ第9節マインツ戦後にそう答えてくれた。憤っている様子などない。冷静だし、声はとても穏やかだ。長田はいつもとても丁寧にメディア対応をしてくれる。

 日本人の母とドイツ人の父を持つ長田は、将来的にドイツ代表と日本代表とどちらでもプレーできる。メンヒェングラードバッハ生まれでU-13まで川崎フロンターレ下部組織育ち。その後ブレーメンの育成アカデミーで着実に成長を遂げ、今季からトップチームの正GKとして活躍している。

 ドイツU-21代表の正GKでもある長田にはドイツメディアからの注目が集まり、ここ最近はどちらの代表を選ぶのかというテーマのインタビューが少なくない。来年にはアメリカ・カナダ・メキシコ共同開催のW杯があるだけに、いろんな「もし…」という想定で質問もされやすいのだろう。

 ブレーメン地元メディアの「ダイヒシュトゥーベ」でのインタビューで長田は来年W杯があることを尋ねられると、次のように答えている。

「もちろん僕にとって非常に興味深いことですし、W杯について考えたこともあります。でもそれが僕が決断するうえで影響を及ぼすものにはなりません。現時点では僕にとってブレーメンが一番大事な場所。ここでまず毎週パフォーマンスを発揮したい。例えば11月に日本へ飛んで、試合をして、それから戻ってきて、おそらく2日間の準備で次のブンデスリーガの準備をする。このストレスは今の僕に与えていいものではないと思うんです」

 ビルト紙でも似たようなインタビューでのやり取りがあり、その中で日本代表になると移動距離や時差が大変になるというニュアンスのコメントを残しているが、これは移動距離があって大変だから日本代表になるつもりはない、ということではない。それは曲解すぎる。

 そうではなく、本人がたびたび口にしているように、いま一番大事なのはブレーメンで正GKとして毎試合ベストパフォーマンスを出すことに最大限の集中で望みたいという思いでしかない。21歳での正GKはブンデスリーガで最年少。GKのレベルが非常に高いドイツでは、ファンの目も肥えている。要求されるレベルはとても高い。しかも開幕直前にそれまで正GKだったミヒャエル・ツェットラーがフランクフルトへ移籍したことで、全てが急に一気に動き出したのだ。

 この時の心境についても、「ダイヒシュトゥーベ」のインタビューに答えている。

「すごく急激なことでしたね。プレシーズンではツェッティ(ツェットラー)のラストゲームとなったビーレフェルト戦後、(ブンデスリーガが開幕するまで)オスナブリュックとのテストマッチ1試合しかなかった。そんな状況で僕がゴールに立つことになって、自分のパフォーマンスに集中してプレーしなければならない。落ち着こうとしていたし、プロ選手だからこうした事態にもきちんと対処しなきゃダメだと思います。でもやっぱりナーバスだったのは確かですね」

「いまこうやってプレーできるのは夢のような時間」

 クラブもファンも育成からのそんな生え抜きGKを暖かく支えている。ブレーメンのホームスタジアムは熱さのほかに、優しさと慈しみで包まれていると感じることがある。大きな声でチームを鼓舞するけど、心ないヤジやブーイングはほとんどない。苦しい時こそサポートしようという空気であふれている。ゴール裏の熱狂的なファンだけではなく、どのブロックに座るファンもそうなのだ。

 今季加入の菅原由勢もそんなファンに感激していた。

「やばいですよね。やばくないですか?もうね、鳥肌です。なんか失点する気がしないというか、攻撃も絶対点入るなと思う。いいプレーしたらスタンディングオベーションがあるし、ああいうのって選手の士気がめっちゃ上がる。ゴール裏のファンも90分間すごく声を出してジャンプしてくれて。感謝ですよ。好きです。愛にあふれていますね」

 それこそ14歳からブレーメンでプレーする長田は選手歴だけではなく、ファン歴も長い。クラブへの思いは人一倍強い。だからクラブについて話すときは、言葉にいつも力が入る。

「俺も14歳でこっちきて、ずっとここ(ブレーメンホームスタジアム)に毎週来てたんで。いまこうやってプレーできるのは夢のような時間ですね」

 マインツ戦では相手に先制点を許す苦しい展開ながら、長田は的確なポジショニングとコーチングで最後尾からチームを支え続けた。危険なシュートやクロスにも鋭い反応と丁寧な技術で対応。最少失点でしのぎ続けたことが、終盤の得点で引き分けに持ち込むことにつながっている。4戦負けなしのチームへの貢献度は非常に高いものがある。

「俺の感覚的に」といって長田が口にしたのは、自身が抱くクラブへの熱い思いだ。

「チームを支えたいというのもあるんですけど、本当にこのクラブには、選手はもちろんそうなんですけど、何年も前からお世話になっている人たちがたくさんいるんです。ずっとクラブで働いている人たちへの恩返しだと思ってやっているので、貢献できているのはすごい嬉しいです」

 この日、マインツまで駆け付けたブレーメンファンは3000人以上。アウェイブロックは緑一色となり、大きなコレオも準備されていた。試合後には特急ではなく、鈍行列車を乗り継いで帰るブレーメンファンと僕は一緒になった。マインツからブレーメンまで鈍行だと6時間はかかる。でもみんな長旅の疲れもみせずに、楽しそうに試合を振り返りながらクラブの素晴らしさを語り合っていた。

「今日もアウェイまで多くのファンが駆けつけていますよね」と話を振った時に、長田のトーンが一つ上がり、とてもうれしそうにこう返してくれたのを思い出す。

「そうです。すごいでしょ!すごいでしょ、うちのファン。すごいんですよ!」

 例えばJリーグでプレーする選手がここまで、チームとファンを愛してくれたらうれしいではないか。愛するクラブのために、愛するファンのためにピッチ上で100%の気持ちで戦い、最高のプレーで貢献して恩返しがしたい。毎週、そのためにどうしたらいいか、というのと長田は向き合っているのだ。将来のことは将来にならければわからないこともたくさんある。まだ焦る時期でもない。

 そんな長田の思いを日本のサッカーファンにも知ってもらいたい。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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