堂安律の移籍を後押しした“欧州最高峰” 「いい意味で飲まれた」…リーグと異なる特別な熱量

今夏にフランクフルトに移籍した堂安律は初のCLに挑んでいる
「ヨーロッパに来た一番の理由はこの舞台に立つことでした」
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CLデビューとなったガラタサライ戦後に日本代表MF堂安律はそんな言葉を残している。3年間過ごしたフライブルクから今夏フランクフルトへ移籍。移籍にはさまざまな要素が関与してくるが、堂安の中に「CL出場」が占める割合が多かったのは間違いない。
自身初となるCL舞台を前に、堂安はこんなことを口にしていた。
「新しい環境なので緊張すると思いますが、まずは時差ボケ等コンディションを整えないと」
直前のレバークーゼン戦後のコメントだ。どんなときにも強気でポジティブなのが堂安らしさの一つではあるが、そんな彼が《緊張》という言葉を使うほど、チャンピオンズリーグは特別な存在なのだ。
フランクフルトホームで行われたトルコの雄ガラタサライとの試合は5-1で快勝することができた。やっとたどり着いた舞台の景色はどんなものがあったのだろう? 試合前はどんな心持ちだったのだろう? ブンデスリーガ第5節ボルシアMG戦後にそっと振り返ってくれた。
「フランクフルトのサポーターがすごくて、雰囲気にいい意味で飲まれました。彼ら(の声援)がうるさすぎて、アンセムも聞こえなかったんで、こうチャンピオンズリーグ感を(感じられなかった)。(次戦の)アトレティコ・マドリードに行った方が聞けるんかな、とか思ったりしたんですけど(笑)」
熱狂的なサポートで名を馳せるフランクフルトは、コレオと紙吹雪と発炎筒で極上の雰囲気を生み出していた。スタジアムにいた人はみんな夢見心地になったことだろう。特別な一戦だというのを選手はみんな改めて感じたことだろう。ただ序盤からすぐその雰囲気にのっていくのは難しい。ディノ・トップメラー監督も、主軸のドイツ代表DFロビン・コッホも「序盤はナーバスになっていた」と試合後に振り返っていたが、その辺りは堂安もピッチで感じていた。
「それも一つ若さだと思います」
フランクフルトは実に12人がこの日、CLデビューを飾っている。スタメン選手だとドイツU23代表アンスガー・クナウフ以外、みんな初めての舞台なのだ。普段とは違う緊張をピリピリと感じていたことだろう。相手には元マンチェスターシティのイルカイ・ギュンドアン、元バイエルンのレロイ・サネといった歴戦の勇士がいる。
そんな相手に先制を許しながら、フランクフルトは試合をひっくり返した。きっかけは堂安のプレー。相手陣内で猛然なプレスでボールを奪い返し、GKと競り合いながら一足早くボールに触り、それが相手オウンゴールを誘った。「あのゴールが我々を目覚めさせる瞬間となった」とトップメラー監督は振り返ったが、そこから怒涛の攻撃で一気に4点を加点したのだから、このコメントに思いっきりうなずく人は多いはず。
刺激に満ちた夜は選手に心地いい興奮をもたらす。その素晴らしさを感じつつも、それがためにリーグ戦でモチベーションを高める難しさも初めて体験した。直後のアウグスブルク戦ではチーム全体のちぐはぐさから脱却できず、3-4で試合を落としている。堂安はボルシアGM戦後に改めて振り返って次のように語っていた。
「難しいですよね。4-3で負けたのは、完全にその(CLの)雰囲気が残った感じがあったと思う。自分達の中で言い聞かせてますけど、ちょっと練習試合みたいな雰囲気になっちゃう感じが試合前にあった。僕も今シーズン初めてなんで、そこを感じながら先週は過ごしましたね」
「たぶん全員にそういう感覚があったと思います。なんか『アドレナリン出ないな』みたいな。あがってこない感じ。それがまさに結果に出たので、よくないですよね。ここから学べるものがあると思うので、しっかり切り替えてやっていきたいです」
試合後すぐに通常モードに戻れないほど、どのクラブもCLの試合にかける思いというのは大きく、強く、重いのだ。世界最高峰のリーグでプレーする意味を、サッカー選手ならば誰もが知っている。国際経験が豊富な堂安であっても、CLのそれはこれまで感じたことがないほどのものがあったのだろう。
不本意な形でアウグスブルクとの試合を落としていただけに、ボルシアMG戦では自分達のパフォーマンスをしっかりと引き出し、好試合をして、試合に勝つことが大切だった。そしてフランクフルトは、なぜこのクラブがCLに出場しているのかを示す極上のパフォーマンスをみせ、その中で堂安もまた見事に躍動していた。
9月30日の第2節ではスペインの地でアトレティコ・マドリードと対戦し、1-5で敗れた。CLでは初のアウェー戦は厳しい現実が待っていた。それでも試合は続いていく。10月21日には第3節で昨季のプレミアリーグ覇者・リバプールをホームに迎え討つ。
「(僕らは)失うものはないですから」
相手が強ければ強いほど燃え上がるのが堂安だ。歴戦の強豪を驚かす活躍を期待したい。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。













