J名門を「人生の重要な一部に」 ファンに向けたイベント開催…運営で貫くチャレンジの姿勢

横浜FMの本拠地ナイトゲームで実施される大規模演出の様子【写真提供:横浜F・マリノス】
横浜FMの本拠地ナイトゲームで実施される大規模演出の様子【写真提供:横浜F・マリノス】

【ファンサービスの舞台裏】横浜F・マリノスのマーケティング戦略

“日本サッカーを共に盛り上げる”をコンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」がクラブや選手の魅力を深掘りする「ZONE的Jクラブの深層」。今回は「ファンサービスの舞台裏」と題し、横浜F・マリノスのスタッフ2人のインタビューをお届けする。2人目は、マーケティング&コミュニケーション部運営&コミュニケーション課の課長、川又聖也氏。クラブが展開するイベントをテーマに、ファンとの関係作りについて訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の2回目)

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

   ◇   ◇   ◇

「2018年にアンジェ・ポステコグルー監督が就任しチームのプレースタイルとして“アタッキング・フットボール”を掲げて以降、選手だけではなく事業スタッフの中にも『恐れず常にチャレンジし続ける』という精神が育まれてきました。『現状維持は退化だ』という考えの下、イベント1つに関しても成功したものにはアップデートを常に加え、上手くいかなかったものは改善し新しく生まれ変わらせています」

 マーケティング&コミュニケーション部でホームゲーム戦略の立案・運営、プロモーションなどの業務を担当する川又氏の言葉は、ピッチに立つプレーヤーのものと同じように聞こえる。

 来るFC町田ゼルビア戦(8月23日)はJ1残留へ向けて負けられない戦いであると同時に、イベントが用意された特別な1試合。クラブのナイトゲーム名物演出にちなんだスペシャルユニフォームを着用する「トリコロールギャラクシーナイトシリーズ」3試合のフィナーレだ(1試合目=6月21日・岡山戦、2試合目=7月20日・名古屋戦)。担当スタッフとして、今回も攻めの姿勢を貫いた。

「町田戦では『特殊効果花火』という新たな試みに挑戦します。花火の打ち上げは以前よりファン・サポーターからリクエストが多く寄せられていたものの、横浜市の条例で実施のハードルが高く見送られていたんです。それでも、昨年から実験を重ねるなど調整を続け、実現にまでこぎつけることができました」

 ファン・サポーターに必ず喜んでもらえる施策の答えを示す確固たるデータなど存在しない。予算の制約だってある。そんななかでも、今年も何か新たなチャレンジはできないかと議論を重ねた末に導き出した答えだった。

夏のイベントでは例年ファン・サポーターから縁日が人気を集めている【写真提供:横浜F・マリノス】
夏のイベントでは例年ファン・サポーターから縁日が人気を集めている【写真提供:横浜F・マリノス】

カスタマイズされたコミュニケーション実現のために

 マーケティングとは、一般的に「モノやサービスが消費者に届き、売れるための仕組みを作ること」などと定義される。プロサッカークラブだと目指すゴールは何になるのか。

「私が担当している業務の観点から言えば、目標はより多くのお客様にスタジアムへ足を運んでもらうことです。そのうえで、チームを応援してもらったり、試合以外の催しなども楽しんだりしてもらいたい。

 今日は楽しかったと思ってもらえれば、またスタジアムに来る一番の理由になりますし、ここのベースがしっかりと確立されれば、より多くの観衆の声援の下、チームは良い雰囲気のなかでプレーできるはずです。スタンドを埋め尽くした大勢のファン・サポーターという形で、私たちのマーケティングの成果は現れると考えています」

 とはいえ、特にライト層に限って言えば、観戦に向けた最初の一歩が難しいと想像できるもの。そこで、効果を発揮するのがイベントだ。メディアミックスによる多種多様なプロモーションで訴求する意義を次のように語る。

「イベントで大規模演出があれば、それを見たさに来るお客様もいますし、試合開催自体を知ってもらいやすい。今回(23日)だと、夏休みの夜を楽しんでもらうというテーマの下、『縁日エリア』をスタジアム内に登場させるので、特にファミリー層に楽しんでもらいやすい設定になっています。

 そうして一度来場し試合を観てもらえれば、その後はクラブとしてファン・サポーター1人1人にカスタマイズされたコミュニケーションをしていくことが可能になります。

 とりわけ横浜F・マリノスの場合、7万人規模の本拠地を有しているのは他クラブと大きく異なる事情です。1人でも多くのお客様に来場してもらう。これは日産スタジアムをホームとする私たちに課せられてきたミッションで、実現するにはロイヤルカスタマーと呼ばれるファン・サポーター以外の存在も非常に重要になり、足を運んでもらうための施策を欠かすわけにはいきません」

横浜FMマーケティング&コミュニケーション部運営&コミュニケーション課課長の川又聖也氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
横浜FMマーケティング&コミュニケーション部運営&コミュニケーション課課長の川又聖也氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

「クラブが人生の重要な一部になってくれればと思います」

 それでも、サッカークラブのマーケティングはライブエンターテイメントという宿命に左右される。チームが優勝争いをしている時と不振に喘いでいる時とでは、ファン・サポーターへのメッセージの伝え方や伝わり方が当然ながら違ってくるからだ。失礼を承知で訊いてみた。クラブが残留争いを強いられているなか、今回のイベントはどのようにプロモーションしたのか、と。

「確かに、チームの調子が良い時はその波に乗って届けたい情報を増幅させやすいという側面があるので、現在がクラブの真価が試されている状況なのは間違いありません。とはいえ、ファン・サポーターの中には、これまでの活動でサッカーを超えた楽しさや魅力を認知してくれた人たちもたくさんいると私たちは信じています。なので、今回に関してはイベントに軸を置き、そこを強調したプロモーションを展開してきました」

 クラブがファン・サポーターのために続ける施策――。その継続に込める願いを川又氏はこう語る。

「もちろんサッカーは勝負事である以上、応援していれば喜怒哀楽を味わいます。ただ、それが時間とともに1人1人のライフストーリーになり、やがて横浜F・マリノスというクラブが人生の重要な一部になってくれればと思います」

 応援するクラブが愛する存在として日常の支えになる。その背景にはチームの魅力を1人でも多くの人に知ってもらいたいと日々奮闘するスタッフがいる。

【試合情報】
開催日:8月23日(土)
カテゴリー:J1リーグ第27節
対戦カード:横浜F・マリノス対FC町田ゼルビア
キックオフ時間:19時30分
試合会場:日産スタジアム

試合に関するイベント情報はこちら

(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)



page 1/1

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング