プロ注目の高校生→大学で挫折 目覚めさせた恩師の檄「お前、高校の頃を思い出せ」

順天堂大学の3年生アタッカー・松本琉雅に注目
7月6日に行われた関東大学サッカーリーグ2部・第7節(延期分)の山梨学院大戦。順天堂大学の3年生アタッカー・松本琉雅はハットトリックと1アシストと大暴れを見せ、6-2の圧勝の立役者となった。
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「去年から試合に出させてもらっていたなかで、なかなか結果を出せなかった。今季もリーグ戦で1ゴールしか挙げていなかったので、ようやくここで恩返しができて良かったと思います。継続をしていたら結果が出ると信じていたので」
松本は帝京高出身。高校3年時にはインターハイ準優勝に輝き、帝京の胸に刻まれた星の10個目に手が届きかけた時のレギュラーである。左サイドから突き上げるようなドリブルと強烈なシュートを持つアタッカーで、一度乗ったら手が付けられない存在だった。
その彼が「恩返し」という言葉を使ったのには理由がある――。
「大学に入ってから高校時代のような躍動感あるプレーができていなかったんです。その理由は後になって分かったのですが、大学入学当時の僕は新しいことに挑戦したいと進学を機に思っていて、ワンタッチパスやスルーパス、両足のキックはずっと意識的に練習をしていました。それがいつしかドリブルよりもパスにこだわりを持つようになってしまって、突破よりスルーパスやワンタッチプレーなど『おしゃれなプレー』に偏るようになってしまったんです」
高校時代、Jクラブの練習に参加。そこで「僕の当時のレベルでは通用しないと実感した」ことで大学進学に切り替えた。その際に、ドリブルだけでは生きていけないと感じ、ワンタッチプレーやスルーパスで周りを活用できるプレーを身につけようという意識が強くなってしまったのも影響していた。
「新たな自分」にチャレンジしようとするあまり、「本来の自分」を見失ってしまったのだ。「思うようなプレーができず悩んでいた」大学2年生の時、順天堂大学に帝京高時代の恩師である日比威監督が就任した。
「高校3年間指導を受けて、本当に成長させてもらった。なので、もう一度大学で一緒にできることが嬉しくて仕方がなかったです」
だが、昨年も調子が上がらなかった。試合に使ってもらえるようになったが、思うように自分を発揮できない。それでも、必死でもがく彼を日比監督はしっかりと見ていた。
帰ってきた持ち前の躍動感あるドリブル
昨年の冬、松本にとって大きなターニングポイントがやってきた。とあるプロクラブとの練習試合、そこで試合前に日比監督に呼ばれた。
「お前、高校の頃を思い出して、サイドでボールを持ったら何も考えずにどんどん仕掛けてみろ」
この言葉にハッとした。自分の特徴はドリブル突破なのにパスのことばかり考えている自分に気づいた。
「この試合でもう何も考えずに思い切ってプレーしたんです。そうしたら懐かしい感触というか、大学に入って初めて自分らしい感触を掴むことができて、そこで一気に吹っ切れたんです」
持ち前の躍動感あるドリブルが帰ってきた。今年はキレが戻り、爆発できる手応えを掴んでいた。そして、ついにその時が前期最終戦でやってきた。
山梨学院大戦、0-0で迎えた20分、左サイドを突破してラストパスを送り込み、MF今井啓太の先制弾をアシスト。前半アディショナルタイムにはカットインからミドルシュートを突き刺した。
55分にはDF森川楓大の右からのクロスに反応し、ファーサイドから蹴り込んで2点目。1-3で迎えた78分には、今井のスルーパスに抜け出し、そのまま独走からGKとの1対1を冷静に制してハットトリック達成。85分に交代を告げられるまで、左サイドを完全に制圧していた。
「日比監督の一言で本当に目が覚めました」と、彼は本当の自分を取り戻したが、そこに気づくまでの2年間が無駄だったかというと決してそうではない。
「今は高校時代の気持ちなのですが、異なるのは、高校時代はドリブルで相手を抜くことばかり考えていたのですが、今は結果につながるように考えて仕掛けられるようになりました。クロスで終わったり、シュートで終わったりと、プレーをやりきることにこだわりを持っているので、そこは大きな違いですね」
自分が上のステージに行くために創意工夫した結果だからこそ、彼はドリブルの際にパスやシンプルにボールを離すこと、3人目の動きでラインブレイクするなど多くの選択肢を持てるようになった。そこに高校時代の思い切りの良さが加わったことで、何をしてくるか分からない脅威を相手に与えられる力となった。
「まだまだ恩返しが足りないので、後期はもっと活躍して得点王を取れるように頑張りたいと思います」
恩返しはまだまだこれから。勢いを取り戻したドリブラーの躍進はここから始まる。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。




















