高卒プロ濃厚→大怪我で断念 逸材DFを襲った悪夢…乗り越えできた”土台”「あれ以上の苦しみない」

順天堂大の入江羚介【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
順天堂大の入江羚介【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

順天堂大3年DF入江羚介は帝京高時代から注目

 183cmのサイズがあって左利きの左サイドバック。このスペックを見ただけでも期待感を抱く存在が大学サッカー界にいる。順天堂大学3年生のDF入江羚介は帝京高時代、1年生から不動のレギュラーを掴み、U-16日本代表候補、U-19日本代表候補となりJ1クラブの練習に参加するなど、世代注目の選手として名を馳せていた。

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 しかし、彼の未来が動き出していた高校3年生の4月に悪夢が待っていた。練習試合で武器である左足首の脱臼骨折と三角靭帯断裂、腓骨骨折という大怪我だった。この試合の前にFC東京の練習に参加し、その後も複数のJクラブの練習に参加する予定だった。

「今思い出しても苦しかったです。高卒プロになりたくて、ようやくチャンスが巡ってきた矢先だったので、本当にショックでした」

 そこから始まった手術と長いリハビリ。チームがプリンスリーグ関東を戦う姿をピッチ外で見つめた。そしてその年の夏の徳島インターハイ。帝京は破竹の快進撃を続け、実に20年ぶりとなる全国制覇まであと一歩となる決勝に進出した。

 だが、彼は仲間の快進撃を東京に残ってライブ配信で見つめるだけだった。

「もうあんなに当たり前のように近くにいた仲間たちがどんどん遠くに行ってしまうような感覚になりました。勝つのは嬉しいけど、僕は蚊帳の外。感情は複雑でした」

 孤独と焦り。外は真夏の青々とした風景だったが、彼の心は暗かった。「復帰できるのか?」「戻っても居場所がないんじゃないか」と次々と浮かぶネガティブな感情。だが、彼はそれでも足を止めなかった。

「この時点で、高卒プロは無理だと思った。だけど大学サッカーに進んで頑張ればまだチャンスはあると思った」

 熱心に誘ってくれた順天堂大への進学を決めた。チームはインターハイ準優勝という看板を持って東京に帰ってきた。

 9月に復帰してからも痛みは付きまとった。コンディションを上げられないまま選手権予選に突入し、スタメンではなく途中出場から流れを変える存在として出場をした。しかし、チームは準決勝で國學院久我山に2-3の敗戦。2-2の57分に投入された後に決勝弾を浴びた。

「これでもかというほど苦しい1年でした。でも、これが現実。自分の目標をどこに設定するのかは、この怪我で身についたからこそ、絶対に目標だけはぶらさないように、そこから逃げないように大学生活を大事に過ごしていきたいです」

 そう宣言してから2年半。彼は一回りも二回りも逞しくなって大学サッカーのピッチに立っている。

磨き上げられた精神面と人間性

 7月6日に行われた関東大学サッカーリーグ2部・第7節(延期分)の山梨学院大戦。左サイドバックとしてスタメン出場をすると、鋭い縦突破からのクロス、ビルドアップの関わりから左足のサイドチェンジやポケットに直接送り込むフィードを駆使し、攻撃を活性化した。チームは6-2と圧勝し、前期をいい形で締めくくることができた。

「大学に来て何回も壁にぶち当たってきましたが、あの大怪我以上の苦しみはない。あったとしてもあの経験が大きな土台になる。僕の中で壁を乗り越える力はその時に身についたし、乗り越え方の下地を作れたと思っています」

 そのキックフォーム、精度はプロレベル。フィジカルも増して1対1も強くなった。何より精神面、人間性の面はさらに磨き上げられた。

「順天堂大に来て本当に良かったと思っています。特に昨年に帝京高で3年間教わった日比威監督が順天堂にやってきてから、またさらに成長できたと思います。毎日の練習環境、やるサッカー、学生主体のマネジメント。本当に感謝しかないので、結果で恩返しするしかないと思っています」

 すでに今年だけでJ1の2クラブの練習に参加をして、高い評価を受けた。だが、それで慢心することは一切ない。

「高卒プロはプロにチャレンジする意識が強いと思いますが、大学経由となったらもう結果をしっかり出せる選手でないといけない。大学生活は残り1年半で即戦力となる力をもっとつけないといけないと思っています。だからこそ、準備に一切手を抜いてはいけない。目標に向けて1つずつ積み上げるだけ。それは高校時代に感じてから一切変わっていません」

 ただひたすらに目標を見て、時には逆算をしながら自分を磨いて行く。大学サッカー界トップクラスの大型レフティーサイドバックのこれからに目が離せない。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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