J1クラブ争奪戦…鹿島内定FWの“まさか” 「エンブレムにふさわしい選手」への誓い
来季鹿島加入内定の明治大FW林晴己、無敗から一転して壁に直面
夏の「大学サッカーの全国大会」とも言える総理大臣杯の関東代表を決めるアミノバイタルカップ。関東大学サッカーリーグ1部、2部、3部、さらには都県リーグの垣根を超えた一発勝負のトーナメントでは、毎年のように数々のドラマが生まれる。プロ内定選手、Jクラブが争奪戦を繰り広げる逸材、そして彗星のように現れた新星が輝きを放つ。今大会も6月5日から29日にかけて開催され、注目を集めた選手や印象深いエピソードを紹介していきたい。
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場！
第12回目は、順位決定トーナメントでまさかの敗戦を喫し、総理大臣杯出場を逃した明治大のFW林晴己。高川学園高校時代は「トルメンタのフィニッシャー」として君臨し、来季からJリーグの名門・鹿島アントラーズに進む逸材だ。
6月8日の関東大学サッカーリーグ1部・第11節の筑波大戦で0-2と敗れた明治大。リーグ戦での黒星は一昨年度の1部リーグ最終節以来だった。試合後、西が丘サッカー場のピッチ脇でキャプテンの島野怜を中心に4年生のみの緊急ミーティングが開かれた。林も神妙な面持ちでその話し合いに参加していた。
長い話し合いを終えてミックスゾーンに現れた林は、「この負けは起こるべくして起こりました。明治大として、4年生として、これまで積み上げてきたものをもう一度見直して、1人1人が自覚を持とうと話しました」と重い口を開いた。
「無敗が続けば続くほど、プレッシャーも大きくなるし、きつくなってくる。池上監督も『どこかで必ず終わりはくる』とおっしゃっていましたし、実際に僕らも重いプレッシャーを感じていたのも事実。だからこそ、この負けを無駄にしないようにしないといけない」
素直な心境だった。「常勝軍団」と称されてきた明治大。しかし、どんな強豪でも常に勝ち続けることはできない。重要なのは、敗戦からどう立ち直るか。“リバウンドメンタリティー”が問われる。
言葉で言うのは簡単だが、実際に悪い流れにハマると抜け出すのは難しい。筑波大戦から1週間後、延期分として行われた第7節の日本大戦では2-3と連敗。さらに、総理大臣杯出場を懸けたラウンド16では関東2部の産業能率大に延長戦の末2-4で敗れ、最後の2枠を懸けた順位決定トーナメントでも慶應義塾大に1-2で競り負け、全国大会の切符を逃した。
「筑波に負けてからいい意味でプレッシャーは減ったのですが、やっぱりまだ『やっているつもり』が僕らの中にあるのかなと思います。無敗記録も昨年度のリーグ優勝も、あくまで先輩たちが作ってきたもので、僕らは何も成し遂げていないからこそ、もう一度、一から積み上げていかないといけない。これはずっと思っていたことなのですが、まだ『つもり』のレベルだったと捉えています」
鹿島で重いエンブレムを背負う覚悟「『つもり』では一切通用しない世界」
こうした壁は、プロサッカー選手としてキャリアを歩むうえで必ずぶつかる試練でもある。しかも彼が進むのは、“常勝軍団”の鹿島だ。
「明治大のエンブレムは重いですが、鹿島のエンブレムは何よりも重い。歴史があるクラブで、鹿島でプレーしている選手は誰も一切手を抜かない。チームのためにハードワークを厭わないし、1人1人が闘う覚悟を持っている。それこそ『つもり』では一切通用しない世界。だからこそ、僕は明治のために闘う意義をもう一度考えないといけないし、ここで見つめ直すことでプロへとつながっていくと思っています」
そもそも鹿島入りを決めたのも「重いエンブレムを背負いたい」という熱い思いがあったからだ。縦への鋭い突破からのクロス、カットインからのシュートなど、瞬間的なスピードと持続的なスピードを併せ持ち、無数の引き出しから繰り出されるドリブルを武器とする林には多くのJ1強豪クラブが正式オファーを出し、激しい獲得レースが繰り広げられた。
そのなかで、「強化部の方から自分の評価ポイントや鹿島における役割だけではなく、クラブが大事にしている信念、伝統、意思をしっかりと言葉にして伝えてもらった。その言葉が本当に重かったし、『絶対に無責任なプレーはできないな』と感じた」（林）ことで、彼は悩みながらも決断を下した。
鹿島の椎本邦一スカウト担当部長は、早い段階から林を追いかけており、持ち味のドリブルを思うように出せずに苦しんだ時期にも心強いアドバイスを送っていた。
「自分が絶対に消してはいけない良さの重要性を、椎本さんは説いてくれました。あの頃は自分を見失いかけていて、正直、ボールを失うのが怖くて無難なプレーばかりしてしまっていた。そこは自分の弱さと痛感したし、どんな状況でも忘れてはいけない自分の良さに改めて気づくことができた。だからこそ、今の苦しい時に自分を見失わないで、向き合うことができていると思います」
挫折は何度も味わってきた。だからこそ、今の苦悩も自分にとって必要なステップと捉えている。
「この時間を無駄にしないように最後に明治が一番上にいるために、鹿島のエンブレムにふさわしい選手になるために。必ず巻き返します」
より高く飛ぶために、今は力を蓄える時。林は、強いリバウンドメンタリティーを胸に、真っ直ぐに前を向いて走り出している。
（安藤隆人 / Takahito Ando）
安藤隆人
あんどう・たかひと／岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』（実業之日本社）、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。
