強豪校から誘いも断り…一般受験で進学校へ「勉強には自信」 難関国立を目指す理系レフティー

専大松戸の吉岡敬悟【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
専大松戸の吉岡敬悟【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

専大松戸の吉岡敬悟「サッカーも勉強もやらされているという感覚はない」

 流通経済大柏の優勝で幕を閉じたインターハイ千葉県予選。高円宮杯プレミアリーグEASTで首位を走る全国トップの強豪が順当通り制したという印象を持たれるかもしれないが、「千葉県を突破することがどれだけ大変か痛感をした」と榎本雅大監督が口にしたように、彼らが戦った県予選は苦戦の連続だった。

 流通経済大柏は初戦の暁星国際に1-0、準々決勝で千葉明徳に2-1、準決勝では習志野に2-1とすべて1点差のゲームを戦い、決勝の日体大柏戦も2-1から終盤に追加点を奪って3-1で勝利する接戦だった。さらに流通経済大柏とともにプレミアEASTを戦う市立船橋が準々決勝で専修大学松戸に2-3で破れる波乱もあった。

 今回は激戦区・千葉を彩った2つのチームのキーマンにスポットライトを当てていきたい。2回目は準々決勝で市船を3-2で撃破した専大松戸の3年生レフティーMF吉岡敬悟について。

 市船との準々決勝。0-1の状況で得た右FK。ボールを丁寧にセットした左サイドハーフの吉岡は、ゴール前に正確な左足のクロスを供給する。ゴールに向かって曲がりながら落ちるボールは、FW小川武虎の頭に吸い込まれ、激戦の狼煙となる同点ゴールを導き出した。さらにPKから前半のうちに逆転をすると、後半一度は追いつかれるが、アディショナルタイムに途中出場のFW田中康陽が劇的な決勝弾を叩き込んだ。

「市船戦はもう全員で戦いました。怯むことは一切なかった」と口にした吉岡は、準決勝の日体大柏戦でも左サイドハーフとしてスタメン出場をし、正確な左足のキックを駆使して起点を作った。しかし、チームはPKによる1失点を跳ね返すことができず、試合は0-1の敗戦。吉岡も後半途中でピッチを後にした。

「個人的にはもっとプレーしたかった。でも、それは自分の甘さ。まだまだチームにフルに貢献できるだけの力がなかったと思います」

 彼は小学校時代に杉岡大暉(柏レイソル)、常盤亨太(FC東京)、蓮川壮大(清水エスパルス)ら多くのJリーガーを輩出しているレジスタFC、中学時代に流通経済大柏のグラウンドで練習するクラブドラゴンズ柏でプレーするエリート選手だった。一方で学力優秀で、中学時代は学年トップクラスの頭脳を持っていたことで、「文武両道ができる高校に行きたい」と考えていた。

 東京の強豪校からの誘いもあったが、そのなかで千葉県屈指の進学校である専大松戸を選んだ。中学1年生のときに流通経済大柏の応援で柏の葉競技場まで観に行った選手権予選の対戦相手だったことがきっかけだった。

「専大松戸が進学校であることは知っていましたし、そのときに見た専大松戸のサッカーが本当に面白かった。流通経済大柏に怯むことなく、ドリブル、パス、サイドアタックなど選手たちが自由に、かつ楽しそうにプレーしている姿を見て、『ここに行きたい』と決めました」

 もちろん、行きたいと思ったからと言って簡単に行けるわけではない。吉岡は数少ないスポーツ推薦枠ではなく、一般受験に挑むことになった。

「勉強には自信があったので、努力をすれば受かると思っていた」

 無事合格を勝ち取った吉岡は得意の左足のキックで頭角を表す一方で、今年の春に大きな決断を下した。

「文系科目の方が得意だったのですが、だんだん物理に興味を抱くようになったんです。文系科目と違って、何か奥が深いというか、国語とかの勉強よりも面白そうだなと思ったんです。そのなかで宇宙の世界に興味を持ったときに、物理の重要性を知って、そこからより意識するようになりました」

 当然、理系となればより勉強は複雑で難しくなる。もしかしたらサッカーにも支障をきたすかもしれない。それでも彼は「両立は絶対にできる」と覚悟を決めて理系選択をした。

 そこから日常はさらに忙しくなった。朝練習がない日でも5時半に埼玉県の家を出て、1時間をかけて学校に行き、着くと自習室に直行して始業まで勉強。授業も集中して聞き、空き時間も勉強に充てる。

 サッカーでは全体練習と自主トレでテクニックを磨き、地元の子供たちに向けたサッカースクールもやるなど、サッカーの時間はサッカーに全てを注いできた。練習後は自宅近くの塾に行って、再び勉強モードに切り替える。家に帰るのは21~22時になる。

「大変とか、義務とか、そういうものは一切ないです。勉強もサッカーも疎かにしたくないんです。そもそもサッカーも勉強もやらされているという感覚はなくて、どちらも自分が楽しいからやっているので」

 彼にとって文武両道は肩に力を入れて臨む試練のような類ではなく、シンプルに自分が進むべき道であり、自分のため、将来のためにただ真っ直ぐに歩いている過程にすぎない。

「どちらかを言い訳にしてはいけない。だからこそ、サッカー面ではまずはフルに試合に出場できる技術と信頼を勝ち取らないといけませんし、市船を倒したからOKではなく、千葉県で優勝するための努力を積み重ねて、選手権予選で実現させたいと思っています」

 サッカーへの愛情と向上心、そして物理を通して宇宙への興味はますます高まっている。悲願の選手権出場、東北大や筑波大の難関国立大学の合格とその後の勉強。吉岡は目を輝かせながら、どちらも全力で追い求める。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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