元日本代表が危惧する“CB人材不足” 「厳しい時代」と指摘も…注目する逸材「近い将来、海外に行く」

秋田豊監督が日本人CBの人材不足に持論【写真:元川悦子】
秋田豊監督が日本人CBの人材不足に持論【写真:元川悦子】

Jリーグでは今季から3バックのチームが急増中

 2025年Jリーグを見渡すと、3バックで戦っているチームが増えている。J1で言えば、2位に躍進中の柏レイソルが今季から3バックを採用。町田ゼルビア、セレッソ大阪、ファジアーノ岡山なども3バックをベースにしている。J3でもヴァンラーレ八戸、松本山雅やツエーゲン金沢などが3枚を採っているが、秋田豊監督率いる高知ユナイテッドもその1つである。(取材・文=元川悦子/全6回の5回目)

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「その要因を考えてみると、4バックで守り切れるだけの屈強なセンターバック(CB)が少ないというのが1つあるかもしれません。日本代表クラスの冨安健洋(アーセナル)や板倉滉(ボルシアMG)、伊藤洋輝(バイエルン)といったタレントはいち早く欧州に行っていますし、若手でもいい素材だと思う選手はすぐ海外に出ていってしまう。そうなると『今のJリーグはCBが人材不足』ということになってしまうんだと思います。

 僕自身も3バックを採用したのは今回の高知が初めて。自分の現役時代はずっと4バックでやっていたので、3バックは全く経験していません。でも今の高知のメンバー構成を考えると、最大値を引き出そうと思うなら、3-5-2が一番いい。相手のサッカーに対しても一番噛み合うし、チームとして力をつけられるとも考えています。

 いわて(グルージャ盛岡)を指揮した時にも感じたことですけど、やっぱり付け焼刃でJ2に昇格してもダメ。1つのサッカーしかできないと難しいし、いろんな戦い方ができるようになって初めてJ2に定着できるチームになると思う。今はこのシステムでベースを作りながら、ここから上を狙える集団に飛躍させていきたいですね」と彼は力強く前を見据えている。

 高知の最終ラインを担っているのは、秋田監督がいわてから連れてきた深川大輔を筆頭
にレノファ山口から赴いた今井那生、RB大宮アルディージャから今季加入した鈴木俊也、負傷離脱中のキャプテン・小林大智らだが、ここから彼らが大化けしないとも限らない。日本代表として98年フランス・2002日韓のワールドカップ2大会に参戦している名DFの指導を受け、彼らが劇的に進化してくれれば理想的だ。

元日本代表DFが考える「いいDF」

 実際、今の時代は個人昇格していく選手が年々増えている。今季J1で注目を浴びている190センチの大型DF安藤智哉(福岡)なども、J3のFC今治からプロキャリアをスタートさせ、2023年にJ2・大分トリニータへステップアップ。2年後の今季はアビスパ福岡の最終ラインの大黒柱に君臨するまでになっているのだ。

「安藤は愛知学院大学出身で、僕の直系の後輩。今治にいた頃、本人にコンタクトを取って契約に関する話を聞いたことがありますけど、グルージャに来てもらうのは難しかったですね(笑)。彼はそこから大分、アビスパへと行きましたけど、近い将来、海外に行くかもしれないですね。国内のいい選手はそういう道を辿るのが普通になってきているので、僕らJクラブの指導者にとって厳しい時代になっているのは間違いないですね」と秋田監督は秘めたエピソードを披露する。

 確かにスペシャルな才能を持った人材を手元に置いて育てていくのは難しいが、目の前にいる選手たちを大きく伸ばすことはできるはず。W杯経験者が体感した「世界トップ基準」を植え付けていってほしいものである。

「僕が考える『いいDF』というのは、まず戦える選手であること。どんなに技術的にうまかろうが、ヘディングが強かろうが、それは絶対的なベースですね。それにプラスして、選手の特徴を研ぎ澄ませていくべき。ヘディングが強いとか、ラインコントロールができるとか、最終ラインからビルドアップしてボールを運べるとか、そういうストロングが2つあるといいですね。高さもラインコントロール力もあるとなれば評価されやすいし、上のカテゴリーに上がっていける確率も高くなる。それを心がけてほしいですね」と秋田監督は強調する。

 彼自身の若い頃を振り返っても、愛知高校時代から上から吊るされているメディシンボール目がけてヘディング練習を繰り返したというのはよく知られた話。地道な努力がなければ、あれだけのヘディング力を身に着けることは絶対にできなかったはずだ。

徹底する「個人練習」 練習は裏切らない「必ずうまくなる」

「今の選手はそういった個人練習を積極的にやらない傾向が強いですけど、ウチの選手たちには日頃から意識づけをしています。新チームが始動した頃はヘディングが全然ダメだったけど、今は競り合い勝利数がリーグ上位まで来ている。キッカーが毎日ボールを蹴るように、DFもヘディングを繰り返しやれば必ずうまくなると思いますね。

 僕も10~20代の頃は徹底的に取り組みましたし、それに加えて鹿島時代には奥埜僚右さん(日本サッカー協会インストラクター)から戦術眼や読みを学んだ。ヘディングに加えてそういうストロングを養えたからこそ、一段階レベルアップできた。2つの強みを兼ね備えたCBに数多く出てきてほしいと願っています」

 優れたCB育成というのは、現場復帰した秋田監督に課せられた使命でもある。そこには持てるエネルギーを注ぎ込んで、成果を出してほしいところだ。(6に続く)

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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