右SB一筋の「職人」が求める“ハイレベル” 小学時代に釘付け「今でも憧れ」…内田篤人から学ぶ「思考すること」

流通経済大柏の乙川宙が目指す理想像
6勝2分1敗でプレミアリーグEASTの首位に立ち、そしてインターハイ千葉県予選を4回戦から登場し、準々決勝、準決勝を突破して決勝まで勝ち進んできたのが流通経済大柏だ。
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怪我人やコンディション面、そして戦術面を考慮して、スタメンが入れ替わったり、交代カードが入れ替わったりする中で、2人だけ全試合にスタメン出場をしている選手がいる。それが3年生右サイドバックの乙川宙と2年生センターバックの大徳剛矢だ。今回は2人の鉄人のうちの1人、乙川にフォーカスを当てていきたい。
「物心ついた時から右サイドバックでした」と笑うように、彼は本格的にサッカーを始めた小学校時代から持ち前の持久力とスピードを買われて、サイドでアップダウンを繰り返すサイドバック(SB)に起用されると、そこからこれまでSB一筋の「職人」となっている。
これは非常に珍しいケースと言っていい。現代サッカーにおいて、複数のポジションをこなすために積極的にコンバートが行われ、選手たちもそれを当然のように受け入れて、いろいろなポジションを経験するのが一般的になりつつある。それによっていわゆる「ポリバレント」と呼ばれる器用かつ戦術的な柔軟性を持った選手が育つ一方で、「スペシャリスト」の存在はかなり減っている。
もちろんポリバレントな選手の方が上のステージで開花することは多くあるが、逆に「器用貧乏」としてこれと言って頭抜けた特徴のない選手に成り下がってしまうことがあることも事実。この流れの中でスペシャリストは希少価値が高く、その能力次第では一気に上のステージにブレイクスルーしていく可能性を秘めている。
「これまでコンバートしたいなとかは思ったことがないです。僕は右SBというポジションが大好きだし、冷静に自分と周りを比較しても、僕は中盤の選手と比べてできることが少ないからこそ、このポジションをとことん極めたいという思いが強いです」
運動量と走力に加えて、彼は試合の中で常に周りを見ている。味方がどこにいるのか、ボールをどう動かそうとしているのか。そのうえで中に絞ったり、サイドに張り出したり、ポジションの上下も含めて調節し、サイドの視界が開けたら一気に加速をしてラインブレイクを狙っていく。
「ただアップダウンをするのではなく、思考するということを大事にしています。それは憧れの存在である内田篤人さんから学んでいます」
プレースタイルはどことなく内田に似ている。彼もまたスピードと運動量でごまかさない、「高度な思考を連続する右SB」だったからこそ、日本代表、そして世界トップレベルの右SBに登り詰める存在となった。
「内田さんは縦に速くて、クロスまでしっかり上げ切ることができる選手。でも、縦ばかりを狙っているわけではなく、常に縦以外のいろんな選択肢を持てるようにポジションやボールの持ち方を変化させていて、数ある選択肢の中で縦を選ぶから、その質が非常に高いし、タイミングも絶妙なんです。もちろんキックの精度もずば抜けて高いし、中の状況をしっかりと把握している。そういうSBになりたいと、具体的なプレーイメージを持たせてくれるんです」
乙川は小学校の時からシャルケで活躍する内田のプレーに釘付けになっていた。右SBでプレーする時間が長くなればなるほど、内田の凄さの真意に気付けるようになり、より憧れであり理想の存在となるようになった。
2018年、内田がドイツのウニオン・ベルリンから古巣である鹿島アントラーズに復帰した時、乙川は10歳だった。そこから引退までの3年間のプレーを食い入るように見つめた。そこでこれまでこだわりがなかった背番号に対し、「2番を背負いたい」と強く思うようになったという。
FC多摩ジュニアユースで試合に出始めるようになると、志願して念願の2番を手にした。流通経済大柏に入ってからも「ずっと2番をつけたいと思っていた」とトップチームでの2番を目指して努力を重ねた。
内田は中学1年生の時に現役を引退してしまったが、乙川は鹿島時代、シャルケ時代の映像を今に至るまでずっと見続けている。
「今でも憧れで、目標なのは変わりません」
昨年までトップチームでの出番はなかったが、今年に入ると右SBのレギュラーに定着。念願の2番を背負うまでに成長を遂げた。
「ずっと2番を背負いたいとアピールしていましたから、本当に嬉しいです。でも、その分責任があります。周りのメンバーは複数のポジションができるし、技術もフィジカルもレベルが高い。だからこそ、僕はずっと右SBをやってきたことで培った視野や感覚というメリットを生かして、チームとして右SBに求めることをハイレベルでこなしていきたいです」
内田のように常に淡々とした表情でプレーをする彼だが、内側には燃え盛る向上心と職人としてのプライドがある。
「僕はずっと走り続けられる自信があるので。あと1つ、決勝に向けて僕の持ち味を出しながら、優勝してインターハイに出たいです」
日体大柏との決勝でも鉄人と職人ぶりをフルに発揮し、全国に導けるように。乙川は静かに闘志を燃やしている。
(FOOTBALL ZONE編集部)