ベッカムと共闘した英国人コーチ 日本の子供たちに感じた課題「安全すぎる傾向」

FA公認の指導者インストラクターが見た日本の育成現場
イングランドサッカー協会(FA)の公認指導者養成も担う指導者が、小学生を対象としたクリニックを開催した。育成年代の強化を順調に進めているイングランドの指導者に、日本サッカーはどう映っているのか。5月初旬、東京・世田谷にあるファンルーツパーク芦花公園で、UEFA公認A級コーチのジャスティン・メリット氏に話を聞いた。
「練習環境の影響もあると思いますが、日本の子どもたちは狭いエリアでボールを扱うことに慣れていて、とてもテクニックが高いなといつも感じています。日本を代表する選手が多くヨーロッパでプレーし、日本サッカーは着実に力をつけています。子どもたちはきっと、さまざまなタイプのサッカーを見て、素晴らしいインスピレーションを得ているのでしょう」
イングランドの育成現場でも、日本サッカーの認知が以前よりも進んでいるという。
「近年、日本のユースチームがイングランドに来て試合をする機会が増えました。イングランドのチームにとって、普段とは違うタイプの試合になるので得るものが多い。多くのトップクラブが日本のチームと対戦したいと考えています」
ワトフォードのアカデミーで育ち、年代別代表では元イングランド代表MFデイビッド・ベッカムとも切磋琢磨したというメリット氏。日本の子どもたちの環境に着目して技術レベルを評価した一方、イングランドの子どもたちにはない課題も感じたという。
「リスクを取る覚悟という点で、安全すぎる傾向があると思います。ラストパスを通す、シュートを打つといった場面では、たとえ間違っても積極的に挑戦していいんだ、というマインドが必要です。そこがイングランドの子どもたちとはちょっと違いますね」
2010年南アフリカ・ワールドカップでの早期敗退(ベスト16敗退)を機に、育成改革を行ってきたイングランド。2011年にプレミアリーグが「EPPP」(Elite Player Performance Plan)で育成体制の整備を図り、2014年にはFAが「イングランドDNA」で育成指針を示した。これにより、技術や戦術、体力だけでなくメンタルや思考力にも優れた選手の育成を図ってきたのだ。

イングランドの指導は選手自身が決断することを重視
その成果は2017年のU-20&U-17ワールドカップ制覇で形となり、その後もプレミアリーグやA代表で次々と才能ある若手が台頭している。
「イングランドのコーチングは、この十数年で大きく変わりました。最も大きいのは、コーチが教え込むのではなく、選手自身に考えさせる指導になったところ。指導者ファーストではなく選手ファーストです。選手自身がアイデアを出して決断を下し、自分を表現することを重視しています。フィル・フォーデンやジュード・ベリンガム、コール・パーマーなど、賢くて創造力のある選手が次々と登場しているのは、育成改革の成果だと捉えています」
イングランドの育成システムは注目の的となり、FAと提携するドイツサッカー連盟はそのフレームワークの一部を取り入れている。また、選手ファーストの育成方法は、今もアップデートを重ねていて、例えば7歳以下のカテゴリーでは来季、試合形式が従来の5対5から3対3に変更される予定だという。
「ボールに触れる回数が増え、個々の技術を伸ばしやすくなります。加えて、試合ではヘディングもスローインも省き、よりテクニカルなプレーに集中させるようになっています。コーチの役割は、子どもたちに常に考えさせることですから」
成果を上げながらも育成環境の見直しを怠らないイングランドの取り組みから、日本の育成現場にもヒントが見つかるかもしれない。
(生島洋介 / Yosuke Ikushima)