2年でJFL→J3得点王「想定全くなかった」 絶対エースを生み出した初参入クラブの「最適解」スタイル

秋田豊監督が率いる高知がJ3で目指す“スタイル”
2025年J3に参戦している20チームのうち、最も経営基盤が脆弱なクラブと言っていい高知ユナイテッドSC。しかしながら、今季から指揮を執る秋田豊監督は「J3優勝・J2昇格」という大きな目標を掲げて、チーム作りをスタートさせたという。(取材・文=元川悦子/全6回の3回目)
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「今のJリーグを見ると、ポゼッションサッカーを志向するチームが多いですけど、我々はそんなに個人能力の高い選手がいるわけじゃないんで、そういう方向に進もうとすると難しくなる。バックパス繰り返しているうちに奪われてカウンターを受ける形にはしたくないので、割り切ってボールをどんどん前に運んで、ハードワークしながら敵の背後を取る形をまずは浸透させようと考えました。高知の選手たちは『1+1=2』じゃないですけど、『これをやってほしい』と伝えたら、本当に献身的に取り組んでくれるので、本当にありがたい。プレシーズンに徹底的に擦り込んでいけたことで、序盤戦は悪くない戦いができたと思います」と指揮官は手応えを口にする。
最も華々しい勝ち方をしたのが、4月8日の第8節・松本山雅戦だろう。今季ブレイク中の点取り屋・小林心の2ゴールに始まり、ベガルタ仙台から今季加わった工藤真人、秋田監督が昨季まで社長を務めていたいわてグルージャ盛岡からの移籍組である水野颯太、鹿島アントラーズからレンタル中の須藤直輝がゴールし、前半だけで5得点。J1経験クラブに5-0と圧勝したのである。
「ところが、松本山雅戦の後から失点が急増してしまった。栃木シティに0-5、福島ユナイテッドに4-3、テゲバジャーロ宮崎に2-3、カマタマーレ讃岐に0-2、ザスパ群馬に2-2と複数失点試合が続いている。それはやっぱり『自分たちはできるんだ』と過大評価してしまったのが大きいのかなと感じます。J3の経験がない選手が大半なので、勘違いするのもある意味、普通かもしれない。1つ1つ修正を図りながら、何とか前進しているというのが実情ですね」と秋田監督は苦笑する。
一進一退の状況を繰り返しているが、選手たちは確実に伸びている。高知のメンバーは25歳以下が中心で、JFLからの昇格組や他チームで出場機会を得られなかった選手が多い。彼らの持っているストロングを引き出し、それをかけ合わせて最大値に持っていくことができれば、上位争いも夢ではない。それは2021年にいわてをJ2に昇格させた経験からも言えることなのだ。

鹿島時代の経験生かし「守備的なスタイルにシフトした」
「今、ウチにいるメンバーを見て、どういうパフォーマンスができるのか、何がストロングか、弱点なのかを理解しながら、チームを作っていくのが現実的なアプローチだと思うんです。僕が鹿島で現役だった頃を振り返っても、ジョルジーニョやレオナルドがいれば、自分たちがボールを持って主導権を握りながらのサッカーができました。だけど、2000年代以降はヤナギ(柳沢敦=鹿島トップコーチ)と隆行(鈴木=現解説者)の得点力が思うように伸びなかったこともあって、守備的なスタイルにシフトしましたよね。やはり、その時々にいる選手たちの特徴を生かしながら、戦い方を定めていくのが、最適解だと僕は考えます。
今の高知は攻撃的なマインドを持つ選手が多いし、ずっと守備ばかりしているチームじゃない。守備力を引き上げることも大事ですけど、彼らのアグレッシブさを生かした戦いをしていくほうが彼らもやりやすいと思いますね」
そういう秋田監督のアプローチの中から、小林心という2桁ゴールを挙げて得点ランク首位に立つストライカーが出現した。彼は流通経済大学を卒業した2023年にJFLの高知入り。2年間着実に実績を積み重ねてようやくJの舞台に這い上がってきた。
「開幕10試合くらいで2ケタ得点できるという想定は全くなかったですけど、今までやり続けてきた結果。スピードや決定力という部分は通用しているなと感じます。僕がこの環境を選んだのは、この先のステップアップのチャンスがあると考えたから。最終的にはJ1で点を取れる選手になることを目標に掲げていますし、流経出身のJ1プレーヤーと戦いたいという夢もあります。特に僕の1つ上には、安居海渡(浦和)、宮本優太(京都)、満田誠(G大阪)、佐々木旭(川崎)、家泉怜依(札幌)という面々がズラリと並んでいました。だからこそ、僕にとってはトップ基準が明確ですし、満足することは一切ないですね」と小林本人も語気を強めていたが、高知のメンバーは「今はまだJリーグの一歩目に過ぎない」と考えている。その野心の強さ、飽くなき向上心も秋田監督がチーム強化を進めるうえでのアドバンテージになっているはずだ。
「誰よりも走って点を取りに行く回数を増やさないと高知は勝てない。守備も先手を取るアプローチを早くして、距離感も近くすることが大事。そういう個々のベースに戦術を組み合わせて、効率よく戦えるように仕向けています。それを積み重ねていけば、本当に優勝を狙える集団になると僕は考えています。お金がない分、取れる選手も限られていますけど、彼らとともに成長していけると信じて突き進むしかない。まだまだ先は長いですよ」と気を引き締めた秋田監督。このチームがJ3の台風の目になる可能性は少なからずありそうだ。(4に続く)
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。