J2オファー断り筑波大進学…大宮撃破は「ジャイキリと思ってない」 プロ上回った頭脳

筑波大学の徳永涼「年代的にも大卒とか自分たちと同じような年代の選手」
大学サッカー界きっての名門・筑波大学が天皇杯1回戦でJ2・2位のRB大宮アルディージャを相手に、敵地・NACK5スタジアムに乗り込んで1-0で勝利し、2年連続のジャイアントキリングを達成した。
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今回、このジャイアントキリングの裏側をピッチに立った選手の物語とともに紐解いていく。第2回目は昨年も町田ゼルビア、柏レイソル戦、今回の大宮戦でボランチとして出場し、類稀な戦術眼を発揮した3年生MF徳永涼について。
「この勝利は『ジャイアントキリングした』とは全く思っていません」
試合後の表情は淡々としていた。そう感じたのは自チームに対する自信と、相手のスタメンを見て思った大学サッカーを選んだ身としてのプライドだった。
「大宮さんはリーグ戦でのスタメン組が少なく、なおかつ年代的にも大卒とか自分たちと同じような年代の選手がいて、逆に絶対に負けられないなと思って臨みました」
ピッチに立ってからも彼の頭脳は冴えわたっていた。立ち上がりから攻守の要としてボールを受けられるポジションを取り、ときにはターンしてドリブルで10~20メートル運んでから展開したりと、ミスの少ないプレーで攻撃のリズムを作り出した。
それに対し、大宮は前半途中で修正を施した。3バックから4バックに切り替え、ベンチからも長澤徹監督から「間を消せ!」と仕切りに徳永らが受けるスペースを埋める指示が飛んでいた。
「長澤監督のコーチングは僕にも聞こえていました。『自分のところで嫌がっているんだろうな』と思ったので、必ず修正してくると思いながらプレーしていました。実際に4バックに修正したときも、相手の比重はそれまでと変わらず後ろにあったので、そのまま僕が間で受けたり、セカンドを拾ったりして、全体を前に押し出せば良かった。ただ、後半はハーフタイムでもっと具体的に修正してくると感じました」
前半40分のMF廣井蘭人のゴールで1点リードして迎えたハーフタイム。徳永を中心に相手がプレスの仕方を変えてくることに対して活発な議論が行われたという。
「前半は大宮の前の3枚(1トップのオリオラ・サンデー、2シャドーの石川俊輝と中野克哉)がぼかしながら僕のところにプレスに来ていましたが、後半は相手の2ボランチがマンツー気味に自分を消しにくると思って覚悟していました。ほかの選手ともそれを共有しましたし、小井土正亮監督や戸田息吹ヘッドコーチからもその点の指摘と対応策も言われていたので、もう一度頭を切り替えて予測を立ててから臨めました」
予想どおり大宮はプレスの掛け方を変えてきた。徳永のところにはボランチとトップ下が挟み込むような形でプレスを仕掛けてきた。
「前半は自分で運ぶシーンが多かったのですが、後半は右サイドハーフの廣井、トップ下の清水大翔をシンプルに使って相手のプレスを剥がしてから、3人目の動きでボールを高い位置でもらうことを意識しました」
イメージどおりプレーができていたが、やはりそこはJ2上位を走るクラブ。後半、次々と主力メンバーを投入してきたことで、プレスのスピードと強度は一気に増した。
「特に杉本健勇選手(後半27分に途中出場)は怖かった。僕らボランチ、CBからしても視線が奪われる存在で、意識を向けている隙に背後を取られたり、ポストプレーでシンプルに周りを使われたりして、本当に脅威でした」
終盤は押し込まれて守勢に回る時間の方が長かったが、徳永を中心に最後まで集中力を切らすことなく、1-0で逃げ切って見せた。
「もちろん大宮さんに勝てたことは本当に嬉しいですし、勝った直後は感情が爆発しましたが、今はもう浮かれていません。昨年の天皇杯の頃は3、4年生に支えてもらったし、そのメンバーがいてくれたからこそ、自分が自由に動けていた。でも、今はもう違う。当時の4年生が卒業し、今の4年生も3人(諏訪間幸成:横浜F・マリノス、加藤玄:名古屋グランパス、安藤寿岐:サガン鳥栖)が抜けて、本当に新しいメンバーでの天皇杯。自分が筑波大の看板を背負うつもりで臨んでいるので、感覚は全然違います」
次なる相手はV・ファーレン長崎。長崎には前橋育英高校時代に1学年上の先輩であるMF笠柳翼がいる。
「大宮に勝った後すぐに連絡して、『待っててよ』と伝えたら、『お手柔らかに』と返事が来ました(笑)。彼もかなり成長しているので戦うのは今から楽しみです」
静かに燃える筑波の心臓。自身が高校3年生のときにJ2の2クラブからのオファーを断って筑波大に進学した経緯を踏まえて、最後に引き締まった表情でこう続けた。
「ジャイアントキリングという言葉はあまり使いたくない。どの相手にも真っ向から戦って上回ることを目標としています。対等に戦うことで、大学を選択した価値を証明したい。本気でそう思っています」
(FOOTBALL ZONE編集部)